SRP:妹達共鳴計画U

□Data.07 九月十四日
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 九月十四日。

 定期的に行っている一方通行の診察結果を見て、カエル顔の医者は頷いた。

冥土帰し「うむ、これなら問題ないだろう。頭部の傷も随分と癒えたようだしね?」

一方通行「つまり? やァっとシャワーを浴びても問題ねェランクに到達した、って捉えてもイインだな?」

冥土帰し「まぁ、その通りだね」

 その言葉に、一方通行は一気に肩の力を抜いた。

 実を言えば、一方通行は入院してから一度もシャワーを浴びていない。

 体を拭く程度で毎日を送っていたが、やはり限界というものがある。

 平気な生活を送っているように見えたが、垣根から受けた傷は前頭葉を損傷する重傷中の重傷。

 そう簡単に入浴の許可は与えられなかったのだ。

冥土帰し「しかし、そんな生活と縁を切る日が来たというわけだ」

一方通行「ったく。今から使わせてもらうが構わねェな?」

冥土帰し「もちろんだ。ゆっくり浸かってくるといい」

 診察を終え、一方通行は病院内にある浴室まで足を運んだ。

 まだ昼間だからか誰もいる様子はなく、既に掃除は行き届いていた。

一方通行「一番風呂か。まァ、当然だな」

 衣服を脱衣所にまとめ、タオルを腰に巻いていく。

 久しぶりのシャワーをザッと簡単に浴びた後、湯船にお湯を張って肩まで沈む。

一方通行「ふゥ〜……」

 至福のひと時。

 目を瞑っていると睡魔に襲われてしまうため自重しておくが、今すぐにでも眠りに就きたいほどリラックスしていた。

一方通行「さすがに二週間も風呂なしはキツかったな……」

 体が温まると頭がムズムズと痒かった感覚が鮮明になってくる。

 一度、ザブンッ! と思い切り頭まで湯船に潜った一方通行は、ブクブクと息止めに挑戦。

 数秒後、顔を出そうと思い切り頭を上げた一方通行は……。



 ゴヅンッ!!!!

一方通行「ーーーンがッ!!?」



 何かに勢いよく頭をぶつけ、再び湯船の中に沈んでいった。

一方通行「って沈ンでる場合か!! つーか何だ、今のは……ッ、いってェ……ッ」

 ズキズキと痛む頭を押さえつつ一方通行が湯船の外を見やると、そこには……。

03709号「あ、あぅぅ〜……」

一方通行「……」

 バスタオルも巻かず、素っ裸で倒れているミサカ3709号がいた。

 額が赤くなっているところを見ると、どうやら湯船を覗き込んだ際に飛び出してきた一方通行の頭突きを食らってしまったようだ。

一方通行「なンだァ…? この愉快な喜劇の結末は。俺が悪いってのかよ……オイ」

03709号「ぁぅ〜」

一方通行「つーか、倒れてねェで起きろ。色々と丸見えンなってるぞ」

 グワングワンと頭を振るいつつ、ノロノロと起き上がったミサカ3709号は、羞恥心も欠片も見せずに一方通行と対峙する。

 ちなみに、妹達は数日前から入浴の許可が下りており、一方通行だけが入浴を制限されていたのだ。

一方通行「何でここにいやがる……。つーか、何で俺がここにいるって分かったンだ?」

03709号「うー?」

 首を傾げるミサカ3709号。

 どうせ、病院内を散歩してる際に一方通行の気配やら臭いやらを察して駆けつけたのだろう。

 コミュニケーション能力は欠けているが一般知識はあるようで、風呂場で裸になる知識は身に着いていたようだが。

一方通行「あと一歩の知識が足りなかったみてェだな。タオルを巻いてこい」

 そう言って、一方通行はミサカ3709号を脱衣所に追い返した。

 数十秒後、不器用ながらもタオルを巻いてきたミサカ3709号が浴室に再び姿を現す。

一方通行「せっかくだ。オマエも洗ってけ」

03709号「ぇーい!」

一方通行「……」

 湯船から出た一方通行が体を洗おうと座った時、ミサカ3709号は一方通行の足の間に入って眼前を陣取った。

 悪気があるわけではないが、これでは一方通行の行為を阻害してばかりである。

一方通行「…はァ、しょうがねェなァ……。先にオマエの頭でも洗ってやるよ…」

03709号「ぅあーぃ」

 シャンプーを手に取って泡立てていく一方通行は、そのままミサカ3709号の髪へと手を伸ばす。

 シャカシャカと手を動かしてミサカ3709号の頭を洗っていくと、見る見るうちに泡が大きくなっていく。

03709号「おー……」

一方通行「あァ? どォした? つーか、あンまり動くンじゃn」

03709号「あーうッ!」

一方通行「ーーーッ!!!??」

 ミサカ3709号に悪気はない。

 頭に広がっていく泡に興味が向き、泡を手に取って口へ運び、あまりの苦さに少しだけ暴れた。

 その際に、手に残っていた泡が一方通行の目を……正確にはダイレクトに眼球を撫でてしまったことにミサカ3709号の責任はない。

 しかし……。





一方通行「ーーーアンギャァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 シャンプーが目に入った時の痛み、など知る由もなかった一方通行には、耐え難き激痛だった。





 すぐに目を濯いだが、そう簡単に痛みが去るわけでもない。

 一方通行は視覚を、ミサカ3709号は味覚を、それぞれの刺激に苦しんだ。

 だが、ここで騒ぎが静まるわけもなく、浴室の外から脱衣所を超えて大騒ぎしている少女が一人、勢いよく駆け込んできた。

09423号「一方通行ぁ!! 今の悲鳴は何ですか!? いったい……何…が………」

03709号「あ、あぅぅ〜……」

一方通行「ンぐ……く、ゥ…ァ〜、いってェ〜………あァ?」

09423号「………み、ミサカ3709号と、一方通行が……こ、混浴……とミサカは自身の目の前に広がる光景を理解できず、何故か……く、悔し…涙が……う、ふぐ…、ぅ…ふぇぇぇん!」

一方通行「……なァ、俺はゆっくり風呂に浸かっていたかっただけなンだが……。何でこンなにも疲れてンだ? 誰か教えてくれねェか、マジで」

03709号「あぅ?」
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