SRP:妹達共鳴計画U

□Data.08 九月十八日@
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 九月某日の学園都市、第七学区のとある路地裏。

 先日の残骸を巡った騒動が終息し、一人の男性が携帯で報告作業を行っていた。

 クイッ、と丸眼鏡を直した男は電話先の相手に小さめの声で淡々と告げていく。

丸眼鏡の男「結標淡希の計画は失敗。残骸も完全に大破。樹形図の設計者に頼った方法は機能しません」

連絡先の男『そうか…、まぁいい。松本は佐野を連れて一度こっちに戻れ』

松本「は? いや、しかし……まだ何の成果も」

連絡先の男『まだ、な……。今は大野と杉山の二人が動き始めてる。そっちが成功しようが失敗しようが、こちらのやることに変わりはない。だから今は戻ってこい、そして休んでおけ。動かなければならない時に限って動けなくなるぞ』

松本「……了解です」

 携帯をポケットに落とし込んだ松本は、路地裏の表口で見張りをしていた男、佐野へと歩み寄る。

 二人の首に下がったシルバーアクセサリーがチラッと揺れていた。







 ここ最近の学園都市は賑やかだった。

 先日、公式な発表があった第二十三学区の学園都市製宇宙エレベーター“エンデュミオン”の完成披露式典が行われるのだ。

 明日には大覇星祭の開会式も開かれるため、学園都市は大忙しだった。

一方通行「エンデュミオンの式典に、大覇星祭……。明日は今日以上に騒がしいってわけか……」

09423号「ミサカたちは病院で大人しくしていなければならない身ですものね、とミサカはちょっぴり寂しい気持ちに浸ります……」

一方通行「退院予定日を延ばした罰とでも考えてやるさ。まァ、予定通りに退院できたとしても行かなかったかもしれねェがな」

 先日、一方通行は体に無理をさせて病院を抜け出し、退院を延ばしてしまっていた。

 と言っても、それは数日のことであり九月中には退院できるレベルだ。

03709号「あうあー……」

一方通行「あン? どうした?」

 すると、ここで何やらミサカ3709号が病室の外から顔を出した。

 いつもなら問答無用で一方通行に飛びかかってくるのだが、何やら様子がおかしい。

09423号「……? 病室の外に何かいるのでしょうか? とミサカ9423号は推察します」

一方通行「チッ、めンどくせェなァ……」

 ミサカ3709号が、病室の外から何かを指差しつつ“あーあー”言っている。

 おそらく“何か”があるから見に来い、とでも訴えているようだが、一方通行は病室内の寝台から動こうとしない。

09423号「代わりにミサカが見てきますね、とミサカ9423号は出来る女をアピールします」

一方通行「ンなアピールはいらねェが、見てくる分には構わねェよ。頼ンだぜ」

 そういうと、ミサカ9423号は病室の外に顔を出し、ミサカ3709号の示すものへと目を向ける。

 否、正確には耳を傾けた。

 示す先に目に映るものなど何もなく、代わりに誰かの話し声が届いたからだ。

09423号「……これは…、とミサカ9423号は思考を巡らせます……。間違いありません…とミサカ9423号は独り言を呟いてみせます」

一方通行「うるっせェなァ……、独り言ってレベルじゃねェぞ。ったく」

 やれやれ、といった調子で寝台から身を起こした一方通行は、ようやく病室の外へと歩み寄る。

 病院の廊下を伝って、まだ話し声は続いていた。







上条当麻『アリサは……、あいつは夢があって、それに向かって一生懸命努力してて……。そんな女の子がどうして、北半球をぶっ壊す悪者扱いされなきゃならないんだよ!』

少女の声『とうま!? まだ起きたらダメなんだよ!』

上条当麻『そんなこと、もう言ってられねぇ。科学と魔術、どっちに任せてもアリサは殺される』







 聞き覚えのない声や聞き慣れない単語が飛び交っているが、二つほど理解できたことがある。

 一つは、会話の中心に立っている人物が上条当麻の声だったこと。

一方通行「あの野郎、また何かに巻き込まれてやがンのか……」

09423号「そういえば昨夜、大火傷を負った少年が運ばれてきたという話を耳にしました、とミサカ9423号は説明します。あの少年のことだったみたいですね」

03709号「お〜」

 そして、一方通行たちが理解できたもう一つは、地球そのものの危機という緊迫感だった。

一方通行「北半球を壊すだの、魔術だの、理解できねェモンはあった……。だが、あの野郎がそォいった冗談を軽々しく口にする馬鹿じゃねェのは分かってる……。今の会話に比喩表現はねェな」

09423号「では、どうするのですか? とミサカ9423号は問いかけます」

一方通行「…………」

 窓の外を見れば、エンデュミオンを中心に展開していく賑わいが耳に届く。

 上条当麻が巻き込まれている騒ぎの中心地は、わざわざ訊きに行くまでもないだろう。

一方通行「…はァ……。今日も抜け出せば、今月中の退院は難しいかもしれねェが……。まァ、無理しなけりゃ無問題か」

09423号「行くのですか? とミサカ9423号は再度問いかけます」

一方通行「あァ。ただし、オマエらは留守番だ。一緒に行ったところで、やれることなンざ限られてるだろォしなァ」

 杖を握りしめ、病室を出る。

 背後から二人のミサカの眼差しが刺さるのを感じつつ、一方通行は臨時出張に出かけた。

一方通行「ったく……。罪滅ぼしだか何だか知らねェが、俺はまだ救いを求めてやがるのか……」







 一方通行の姿が見えなくなったところで、ミサカ9423号は決意する。

09423号「……ミサカたちも、置いてけぼりは懲り懲りです、とミサカ9423号は気合を入れますッ」

03709号「あぅ〜?」

09423号「ミサカ3709号も一緒に来ますか? とミサカ9423号は戦場への片道切符を手渡す気持ちで手を差し伸べます」

 自分で言ってて不安になったのか、ミサカ9423号の目尻に涙が浮かぶ。

 しかし、ミサカ3709号の行動は即行だった。

 ミサカ9423号の言葉を理解したのか、ただの本能だったのか、そこのところは分からない。
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