スマイルプリキュア♪ Final End♪
□戦えない!! 溢れる涙ッ ハッピーVSウルフルン!?
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ピースは逃げていた。
それも、無我夢中で。
ピース「…ハァ…ッ…ハァ…ッ…ハァ…ッ…ハァ…ッ…」
緊張と恐怖で荒くなる息を押し殺しながら、ピースは迷路の壁に背中を預けて立ち止まる。
周囲に目を配ってみたが、誰かがいる様子も気配もない。
ピース「(……なのに…ッ……どうして…ッ)」
集中力を緩まさずにいて正解だった。
ヒュンッ、と何かが飛来する音を聞き取ったピースは反射的に腰を落として大きく頭を下げた。
瞬間、ガキンッ!! と音を立ててピースの頭上を鋭いナイフが通過した。
先ほどまでピースの頭があった位置の壁に突き刺さり、判断が遅れていればどうなっていたことか。
ピース「……ッ!! も、もう…いや…ッ」
誰かが殺しに掛かってきている。
でも姿は見えない。
何処にいるかも分からない敵に位置情報を知られていて、集中攻撃を受け続けることの恐怖は計り知れない。
逃げてばかりでは絶対に勝てない。
でも何処にいるか分からない。
それならば……。
ピース「(何処にいても攻撃が当たるくらいの……、大きくて派手な攻撃で迎え撃つしか、ないッ!!)」
ガタガタと震える足を奮い立たせて、ピースは独自の身構え姿勢であるピースサインを取る。
攻撃を放つ対象は、自分の身の回り全て。
ピース「(仲間の誰かがいるかもしれないから使いたくなかったけど……当たったらゴメンねッ)」
もしかしたら巻き込まれてしまうかもしれないプリキュアの皆へ一言謝罪した後、ピースは雷の力を辺り一帯に解き放った。
ピース「プリキュア・ピースサンダー“流(インパルス)”ッ!!!!」
一度、頭上へと放たれた雷の塊は、やがて落雷となってピースの周囲に雷の大雨を降らしていく。
何十ものサンダーボルトがピースの周囲に轟音を立てて落ち続いた後、おかしな動きを見せ始めた。
ピース「……?」
最初こそ目標もなく適当に落ちていく雷だったが、やがて何かを見つけたかのように“とある一点”へと集中的に落雷するようになっていた。
ピース「(…もしかして、避雷針……? だとすれば…ッ)」
もちろん、こんな場所に都合よく避雷針があるはずがない。
だとすれば、落雷が避雷針として認識した“そこ”には何があるということだ。
最悪の想定として仲間の内の誰かかもしれないが、最も大きな可能性とすれば自分を狙っていた見えざる敵を的確に攻撃できたかもしれない。
ピース「(……ッ! わたし…、勝ったのかな…ッ)」
まだ体の節々が痛んだが、それでも確かめずにはいられない。
落雷が治まり、すぐに雷が集中していた場所に駆け出していく。
打ち倒した敵を確認するまで安心できないとでもいうように急ぎ足で向かうピースの目の前に現れたのは……。
地面に突き立てられ、落雷によって真っ黒に焼け焦げた一本の“槍”だった。
ピース「………え…?」
次の瞬間、ヒュンッ、と放たれた一本のナイフがピースの右頬を勢いよく切り裂いた。
ピース「ーーーぅッ!!」
シュパンッ!! と皮膚と肉が一瞬で斬り裂かれ、内側から傷口を押し広げるように、ブヅッ、と赤黒い血が頬から首筋へと流れていく。
ナイフが放たれた方へと視線を向けたピースは、ようやく敵の姿を確認できた。
ピースの落雷攻撃を察した暗殺者のパキストは、避雷針代わりの槍を地面に突き立てた後に、自分への落雷を防ぐため大の字で地面へと伏せっていたのだ。
パキスト「死体を確認するまで油断しちゃダメじゃない……。まぁ、呆然とする理由も分かるけどね♪」
ピース「……痛…ッ!! ぃ…ぅ、ぎ……ッ」
パキスト「でもね? ついさっきの私だって同じ気持ちだったわ……。槍じゃなくて氷だったけど、騙された人の気持ちは分かったかしら?」
立ち上がったパキストは小さな拳銃をピースに向ける。
拳銃と言うより、もはや指銃と言った方が正解かもしれない銃器の狙いをピースの体に定めた。
小口径な故に、人体を貫通する弾丸を放つほど威力は高いものの、弾が恐ろしく小さいため狙い通りに放たれない欠点がある。
だからこそ頭などの致命傷になる部分を狙えないため、銃口の焦点は体の中心以外を定められない。
パキスト「それじゃあね♪ バ〜イバイ」
ピシュンッ、ピシュンッピシュンッピシュンッ!!
ピシュピシュピシュピシュピシュッ!!
発砲音にしては小さ過ぎる。
だが間違いなく弾丸は連続して放たれ、易々とピースの体を無尽蔵に貫通していく。
右肩、左脇腹、左の太もも、右手。
また左脇腹、右足、また右肩、左膝、左肩。
合計、九発の弾丸がピースの体を貫通し、全身を血まみれにしたピースは声もなく壁に寄り掛かり、そのまま地面へと崩れ落ちた。
ピース「………………」
パキスト「…ふふ、まだ息があるのね? 即死させられなくて…ごめんなさい」
ジワジワと血の海を広げていくピースへと歩み寄り、パキストは大口径の拳銃を新しく取り出してピースの頭を狙って構える。
もう、絶対に逃げられない。
ピース「(………あぁ…ダメだ…。もう……動け、な…い………)」
脳裏に浮かぶのは仲間たちの姿と笑顔。
みんなに、もう二度と会えない。
あの笑顔の輪に、二度と加わることはない。
そう思うと自然と涙が溢れて来て、ナイフで斬り裂かれた自分の右頬をジワァッと刺激した。
パキスト「それじゃあ、今度こそ最期ね。バイバイ、キュアピース♪」
ピースが死を覚悟し、パキストの構えた拳銃の引き金に指が掛けられた瞬間……ポン、とパキストの背中に触れる誰かの手があった。
パキスト「…ん?」
パキストが振り返った時、そこには……。
左手でパキストの背中に触れたサニーが、メラメラと燃え上がる右手の指を鳴らす姿勢で構えていた。
パキスト「……え…?」
目の前の敵を討てる余裕に浸り、周りへの気配りを欠いていた。
一度ビューティに敗れたことで自棄になっていたパキストにとって、最大の失態だっただろう。
サニー「プリキュア・サニーファイヤー“業(インフェルノ)”ぉぉぉおおおおおッ!!!!」
右手の指がパチンッと鳴らされた瞬間、パキストに当てられていたサニーの左手が急速に燃え上がる。
爆発した地獄の業火は、一瞬にしてパキストの全身を呑み込んだ。