信約 SRP:妹達共鳴計画

□Report.02 十月七日
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 遅過ぎた、という言葉を使う時というのは、何事にも焦る気持ちを抑えることが最短の解決策に繋がっていく。

 しかし焦ってしまうからこそ、遅過ぎた、という言葉が際立つことも分かるだろう。

 時既に遅し、という事態もまた、あらゆる面において焦る気持ちを彷彿とさせてしまう。







 学園都市、第七学区の建物から建物へと飛び移って移動している一方通行の心境も、そういった焦りに支配されていた。

一方通行(クソッタレがァ! 悠長に構えてた自分をブチのめしたくなるぜ!!)

 電極のバッテリーも温存しなくてはならないが、今は気にかけている場合ではない。

 こうしている今でも、目的地の方向から連続的に爆発音が聞こえてくる。

 統括理事長の根城、窓のないビル周辺だ。

一方通行「…クソがァ!!」

 一方通行が駆けつけた時には、既に警備員が出動していた。

 現場は、窓のないビルの周辺を狙った爆破テロ。

 まるで窓のないビルの周囲だけを更地にでもするつもりなのかと疑えるように、その地域の建物のみが集中的に倒壊されていった。

黄泉川愛穂「住人の避難を最優先に! 何処に爆弾魔が潜んでるか分からない今、安全確保を続けるじゃんよ!!」

 リーダーシップを取って行動している黄泉川の様子から、まだ犯人の目星はついていないようだ。

 否、立て続けに広がっていく爆発のせいで、避難誘導の次の作業に移ることが出来ないのだ。

一方通行(チッ、犯人なンざ知れてるっつーの……。バグパラの連中に違いねェンだ!)

 今日は十月七日。

 三日前に遭遇したバグパラの構成員、スコーピオンを名乗る男性は告げていた。

 三日後に全てが分かる、と……。

一方通行「ナメた真似しやがって……ッ」

 つまり、バグパラは三日前からこの爆破テロを計画し、予定通りにテロを実行したのだ。

 その企みが意味することは知れないが、放っておいていいはずがない。

 と、そう思い至った時だ。



 周囲に集まってきた野次馬に混じれて、バグパラの下部組織である田中と渡辺の姿が確認できた。



一方通行「ーーーッ、あいつらッ」

 向こうの二人も一方通行に気付いたようで、すぐに背を向けて路地の方へと逃げ出した。

 だが恐れをなしたわけではないらしく、その証拠に逃げ出す直前は笑みを浮かべていた。

一方通行「逃がすとでも思ってンのかッ、待ちやがれ!」

 二人が逃げ込んだ路地へと入り込み、奥へ奥へと突き進んでいく。

 やがて、左右に別れる隙間もない狭い一本道に入ると、前方に田中が待ち構えている様子が見えてきた。

一方通行「……」

田中「さすがです。追い付いてくるのが早いですね」

 田中と正面から対峙したところで、何処かしらの分岐点で見落としてしまったのか、背後から渡辺が歩み寄ってくる。

渡辺「……」

一方通行「それで逃げ場を絶った気でいンのか? 悪りィが、俺はテメェらと違って逃げも隠れもしねェつもりだぜ?」

田中「こちらとしても、もう逃げるつもりも隠れるつもりもありません。バグパラの邪魔をする危険因子として、ここで排除させていただきます」

一方通行「排除…、排除、ねェ? 言うじゃねェか………」





一方通行「俺の演算式すら、ろくに受け継げなかった“落第生”がよォ」





 一方通行の意味深な発言を聞いた田中は、ふぅっと溜息を吐いた後に呟いた。

田中「辿り着いたのですね……暗闇の五月計画に……」

一方通行「あァ、絹旗に調べさせた成果ってヤツだ」

田中「なるほど……。ですが、落第生だからといっても、結局は“一方通行”の演算能力の恩恵を受けているのです。あまく見ていると……死にますよ?」

 グッ、と前屈み姿勢になって身構える田中に、一方通行は警戒の色を強める。

 気になっていたのだが、田中は何らかの動きを起こす前に、必ず前屈みに構える姿勢を取るのだ。

一方通行(あの姿勢にも何か秘密があるはずだ……。それが何なのか分かりゃ、グッと戦況は俺向きに傾くはず……ッ)

 そして、追い打ちをかけるかのように背後から吹き荒れる突風。

 顔だけ振り返れば、渡辺の体を中心に小さな竜巻が生まれ始めていた。

 言うまでもないが、一方通行の制御下にない風のベクトルが発生している。

一方通行(こっちは風を扱った“魔術師”ってわけかッ。鬱陶しい!!)

田中「よそ見など、している余裕はないはずですッ」

一方通行「ーーーッ」

 やけに近く聞こえる田中の声。

 振り返らせていた顔を戻した時、田中の顔が目と鼻の先まで接近していた。

田中「寸止めの拳、今回は防げますかな!?」

一方通行「く、そがァ…ッ!!」

 一方通行の演算能力を備えた能力者と、一方通行の能力が通じない魔術師。

 最悪の力を備えたコンビが、最強の能力者へと迫ってきた。
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