信約 SRP:妹達共鳴計画
□Report.03 十月八日@
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十月八日の早朝。
部下の二人も連れず、スコーピオンは一人で学園都市の第七学区の一角に立つ。
遠くに見えるのは窓のないビル。
それを沈めれば、スコーピオンの目的は達成される。
スコーピオン「………一応、訊いておこう…。何をしに来た」
スコーピオンは静かに、自分の背後へと問いかける。
振り返りもしないが、そこに立つ人物は容易に想像でき、またその想像は的中している。
一方通行「テロリストが宣戦布告したンだ。止めねェ馬鹿はいねェだろ」
スコーピオン「止められないと知っていて止めようとする者は馬鹿に値しないのか?」
一方通行「止められねェ根拠なンざ何処にもねェよ。最初からな」
ここまで来て、ようやくスコーピオンは背後に立つ一方通行へと振り返った。
昨日に対峙した時と、何かが変わっている様子は特に見受けられない。
スコーピオン「……何か変わったか? 昨日と何も変わらない風体に見受けるが」
一方通行「はァ? 俺を変身するヒーローだとでも思ってンですかァ?」
スコーピオン「…………」
一方通行の雰囲気に、昨日と比べて大きな変化はない。
スコーピオン(何を考えてるのだ……?)
魔術サイドの力、肉体強化魔術で叩きのめされたにもかかわらず、一方通行は何の変化も持たぬまま再戦を挑んできた。
スコーピオンは一方通行の意図が掴めなかったが、対する一方通行には作戦があった。
一方通行(さァて、初っ端から失敗すりゃドミノ倒し式に破綻だぜ……)
一方通行の作戦。
それが立案したのは、昨日の夜の出来事が発端だった。
昨夜。
倒壊したビルから脱出した一方通行は、土埃に塗れながらもマンションへと帰宅した。
一方通行「……帰ったぞ」
09423号「あ、一方通行! 一体どうしたのですか!? 急に飛び出していったかと思えば、今度はボロボロになって帰って来るなんて、とミサカは一方通行の過ごしてきた一日の詳細を知らずにはいられません!!」
03709号「あうあー!」
一方通行「あァ、その件は追々話してやるよ。その前に客だ」
09423号「…? お客様、ですか…? と、ミサカは玄関先を見据えます」
一方通行に続いて顔を覗かせたのは、見た目10歳程度の少女だった。
一方通行と同じように土埃に塗れているが、大きな怪我はないように見える。
09423号「………また、女の子…ぅぅ」
レディリー「ん? この子はどうして急に泣きそうな顔を浮かべたのかしら?」
一方通行「いつものことだ、気にすンな」
いつもならシャワーくらい浴びるものだが、今の一方通行には少し焦りが見えた。
その雰囲気を察したのか、ミサカ9423号も涙をグッと堪えて一方通行の傍に歩み寄る。
09423号「何があったのですか? とミサカは再度訊ねてみます」
一方通行「………明日、窓のないビルを襲撃するらしい…」
09423号「…ッ。まさか、あのバグパラという組織ですか?」
一方通行「あァ……」
レディリー「ちょっといいかしら?」
ここで、一方通行のマンションに連れて来られたレディリーが話に割って入る。
レディリー「私をここに招き入れた理由も訊きたいところだけど、まずは状況を説明してくれないかしら? その“バグパラ”とかいう組織のことも含めて」
一方通行「言われなくてもそのつもりだ。少し長くなるが我慢しろ」
一方通行は、自分が入院していた当時の頃から話し始め、バグパラという謎の組織の存在を少しずつ明かしていった。
途中、ミサカが用意したコーヒー(レディリーには紅茶)を挟みつつ、手作り感満載の不細工なオニギリを摘まんだため、思っていたより話は長引いてしまった。
それでも、レディリーは一応の状況は把握してくれたらしい。
レディリー「なるほど。魔術サイドからの奇襲を受けた以上、最強と言えども科学サイドのあなたには荷が重いというわけね……」
落ち着いた様子で紅茶を飲むレディリーを前に、ツナマヨおにぎりを頬張っていた一方通行が別の話題を切り出した。
一方通行「ここからだが、さっきオマエは自分を“魔術師”って名乗ってたよなァ?」
レディリー「まぁ、そうなるかしらね」
倒壊したビルにてレディリーと対面した後、二人は少しだけ会話していた。
というのも、ある程度の反射を応用して致命傷を回避できる一方通行は例外として、普通なら倒壊していくビルの中で生還できるはずがない。
にもかかわらず、このレディリーは倒壊するビルの地下にいながら、ほぼ無傷で一方通行の前に現れたのだ。
そこに興味を示した一方通行が問いかけた結果判明した事実が、レディリー=タングルロードが魔術師であることだった。
一方通行「魔術師ってのは何なンだ? 俺ら能力者と何が違う?」
レディリー「ふふ。学園都市最強の頭脳でも、魔術世界のことまでは無知なのね? いいわ、教えてあげる」
レディリーによる魔術サイドの知識が簡潔に明かされていく。
一方通行が話したバグパラの話題よりも内容は膨大にもかかわらず、話し終えるまでそれほど時間はかからなかった。