信約 SRP:妹達共鳴計画

□Report.04 十月八日A
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 正直な話、一方通行は魔術を理解していない。

 学園都市で長く生活していたから、などの理由で片付けられるレベルではない。

 頭で理解できる種目そのものが異なっているのだ。

一方通行「せめて、同じ物理法則で成り立ってるだとか、異能の力のベクトルが同一だったなら……まァ、俺でも多少の理解は叶っただろうけどなァ」

スコーピオン「……ッ」

 予想外の攻撃によろめきつつも、スコーピオンは立ち上がる。

 魔術を理解しきれていない。

 にもかかわらず、一方通行は肉体強化魔術の施されたスコーピオンの顔を殴ってきた。

スコーピオン「……一体…、何を…した……」

一方通行「さァな。むしろ俺が知りてェくらいなンだぜ? オマエ今なにされたってンだ?」

スコーピオン「……?」

 一方通行の意思が理解できない。

 今、この戦況で何が起きたのか。

一方通行「俺だって知れるモンなら知りてェのさ。魔術なンてモンには興味ねェが、それがテメェらバグパラを潰せる力になるなら、俺は喜ンで手を伸ばすぜ」

スコーピオン「魔術の世界に、手を染める気か……? 脳を開発し能力を手にした科学サイドの人間が、魔術を振るえばどうなるか……」

一方通行「あァ、そいつは知ってる。その程度なら一応は学習済みだ」

 一方通行は少なくとも魔術の基礎程度なら学習している。

 だがそれは、胸を張って魔術サイドに踏み込めるほどのことではない。

 誰の入れ知恵かは知らないが、例え振るうことは出来なくとも一方通行は魔術の存在を認めている。

一方通行「そンで、問題はどォやってテメェを倒すか、ってところだったンだが……。俺たちの作戦は上手くいったみてェだな」

スコーピオン「……俺…“たち”…?」

 複数形。

 その意味は、一方通行ただ一人がスコーピオンと戦っているわけではないということ。

一方通行「さっきテメェも言ってたが、俺は魔術を扱えねェ。脳開発を受けた以上、死ぬまで能力者だ。そンな俺が、魔術を利用してテメェを倒さなきゃならねェ時に頼らざるを得ねェのが外部の存在だ」

スコーピオン「自分以外の誰かに、代わりの魔術を発動させたというのか……。さすがは第一位、やることも非情だな」

一方通行「あァ?」

スコーピオン「その者の体の負担は考えなかったのか? 自らの事情を押し付け、無駄な血を流させたのだぞ」

一方通行「おいおい、馬鹿なンですかァ? いつ俺が“能力者に魔術を使わせた”なンてほざいたよ?」

スコーピオン「……なに?」

 魔術と言えども、その範囲は多種多様。

 もちろん強力な魔術を振るうには魔術師の力が必要不可欠であり、難易度も高い。

 しかし簡単な魔術ならば、例え知識のない一般人にだって発動できるものがある。

一方通行「今必要な魔術の知識さえありゃ、あとは配置だの黄金比だのは適当に任せてりゃイイ。俺は準備が整うまでの時間稼ぎ役を演じてりゃ、あいつらが全部整えてくれらァ」

スコーピオン「ま…さか…ッ」

一方通行「やっと気付いたか、鈍感が」



一方通行「テメェは今、肉体強化のみを無効化させる魔方陣の上に立ってンだよッ」



 辺りを見渡しても、魔術的記号を意味する霊装の類いは見られない。

 それだけ大きく、それだけ精密な魔方陣が、第七学区のあちこちに散りばめられているのだ。

 そしてその中心は今のスコーピオンが立っている場所であり、術の発動と同時にスコーピオンの肉体は正常の値まで一気に下げられたのだった。

一方通行「ミサカネットワークで四六時中連絡が取れる手法がなけりゃ達成不可能だったぜ。科学の力をナメンなよ、三下ッ」

スコーピオン「……く…ッ…!」

 一方通行の目的は、スコーピオンの“窓のないビル沈没計画”を実行させないために、目的地へと近付けないこと。

 加えて、レディリーの指示通りに肉体強化魔術の無効化を行うため、妹達が指示通りの配置に全員待機する瞬間を待つこと。

 それまでに、構成された魔方陣の中心点にスコーピオンを誘い込み、肉体強化魔術を無効化させる魔術が発動するまで時間を稼ぐことだった。

一方通行「占星術師だか何だか知らねェが……。上出来だぜ、レディリー」

 時間稼ぎの過程で一方通行は何度も殴られはしたものの、極限まで弱ってしまったスコーピオンが相手ならば何の問題もない。

一方通行「さァて、ここらでテメェを潰しても構わねェンだが……その前に聞かせてもらうぜ」

スコーピオン「……」

一方通行「バグパラが学園都市を襲う理由。ここまでして、科学サイドの崩壊を望み、打っ潰そうとする動機、ってヤツをなァ」
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