信約 SRP:妹達共鳴計画

□Report.05 十月九日@
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 十月某日。

 初春飾利はパソコンの前に座って黙々と作業を続けていた。

 風紀委員の仕事でもなければ、学校から出された課題を片付けているわけでもない。

 言うならば私事に等しかったが、作業を進めていると表現するよりは何かと戦っているようにさえ思えた。

初春飾利「…………」

 次々と表示される情報の羅列を瞬時に整理していき、凄腕ハッカーとして数多のセキュリティを突破していく。

 初春が目指しているものは、学園都市でも機密とされている領域だった。

 普段なら、風紀委員として取り締まる立場なのだが、今回ばかりは初春も悪となる。

 彼女の求めている“とある情報”は、それほど学園都市の闇に関わっていたのだった。

 後になって事の重大さに気付いても、全ては手遅れだと分かっていたのだろうか……。





 垣根帝督はグッと拳を握りしめる。

 体中に流れていく超能力の感覚が、完全に戻り始めていた。

垣根帝督(長かったもんだ……)

 一方通行に敗北した日から、能力者の底辺を味わい続けてきた。

 そんな苦悩の溢れる生活とも、もうすぐ抜け出すことが出来るのだ。

垣根帝督(…初春には世話になったが、ずっとこのまま…、ってわけにはいかねんだよな……)

 別れの日は近い。

 そう思うと、垣根の胸は柄にもなく痛んだ。

 一人でいるのは寂しい、などという感情は、とっくの昔に慣れたものだと思っていたのに……。








 十月九日、学園都市創立記念日。

 祝日である本日、学園都市の町中は普段とは異なる賑わいで溢れていた。

垣根帝督「創立記念日、ねえ……。そんな中でも風紀委員の仕事はあるんだろ? 世知辛え世の中だぜ」

初春飾利「仕方ないですよ。治安まで手薄になってしまったら、本当に何でもやりたい放題になってしまいます。それじゃあ町も大混乱ですよ」

垣根帝督「違いねえな。んじゃ、俺も行ってくるかな……」

 いつものように、初春は風紀委員の仕事に、垣根は未元物質の収集に、個人の作業へと向かっていく。

 だが今回ばかりは、少し事情が違った。

垣根帝督「初春…、今まで世話になったな…」

初春飾利「……え?」

 玄関から聞こえた垣根の声に、思わず初春が振り返る。

 垣根は、何てことない世間話を話す感覚で事実を告げた。

垣根帝督「多分だが、今日にでも俺は超能力者の第二位に戻れる。そうなりゃ、もうここに居座る意味もなくなるんだ。もうここには帰らねえよ」

初春飾利「そ、そんな…ッ。そんなの急過ぎますッ。勝手です!」

 垣根は、初春の力を借りていく、と約束していたはずだ。

 にもかかわらず、この展開は初春にとって予想していたものではなく、突然に別れに戸惑いを隠せない。

垣根帝督「俺が初春に許してたのは、俺が力を取り戻すまで世話をする、って点だけだ」

初春飾利「でも、垣根さんの抱える目的が、まだ……ッ」

垣根帝督「初春……おまえは“こっち側”に来るべきじゃねえんだよ……」

 素養格付(パラメータリスト)は、学園都市でも超重要機密事項の一つ。

 関われば、闇の魔の手からは逃れられない。

 垣根は、初春にだけはその道を進んでほしくないと思っていたのだ。

垣根帝督「だから……ここでお別れだ…。元気でな」

初春飾利「…あ」

 初春の返事も待たず、垣根は初春の部屋を飛び出して寮から去っていった。

 ただ一人残された初春は、玄関先で立ち尽くしたまま動くことが出来なかった。







 あちこちが何やら騒がしい。

 それが垣根の抱いた町の第一印象だった。

 見た目では平和なものだったが、表の世界からでは裏の事情まで知ることはできない。

 どうせ裏側の世界では血みどろの闇が広がっていることだろう。

垣根帝督「学園都市の裏ってのは、そっちの方が日常なんだろうな……。平和なんて夢のまた夢…………あん?」

 ふと、路上駐車されている一台の車に目が止まった。

 その理由は、後部座席に二人、助手席に一人、そして何故か運転席に二人が座っているという、何とも異常な光景だったからだ。

 加えて、その人物たちが知り合いだというのが問題になってくる。

垣根帝督「……何やってんだ?」

絹旗最愛「おぉ? 超誰かと思えば元・第二位の垣根帝督でしたか」

垣根帝督「うるせえな、今日にでも復活する予定だっつーの」

 何の意図があってか、運転席に座る男性の膝の上を陣取っている絹旗が、車窓から顔を出して垣根と会話する。

 その会話を聞いていた、運転席に座る男、浜面仕上は硬直した。

浜面仕上「れ、超能力者の、第二位……ッ」

垣根帝督「あん? 新人か?」

フレンダ「この前加入した、下部組織の新人〜。結局、新しいオモチャ君ってわけよ!」

垣根帝督「ボロクソに言われてんなあ、おい」

浜面仕上「…………」

 すると、ここで今まで黙ったままだった助手席の女性、麦野沈利が口を挟んだ。

 どうやら依頼情報をまとめる作業に没頭していたらしい。

麦野沈利「…力が戻るのね? また暗部で好き勝手に暴れる気かしら?」

垣根帝督「まあな。俺としても、やらなくちゃならねえことは山ほどあるんだ」

麦野沈利「どうでもいいけど、あたしら“アイテム”が出なくちゃならない騒動は起こさないでよね……。只でさえ今日も多忙なんだから」
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