信約 SRP:妹達共鳴計画

□Report.06 十月九日A
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 浜面仕上は、恐る恐るといった様子で車から降りる。

 目の前に建つ素粒子工学研究所に飛来した何かを確認しようと思ったのだが、先ほどから続く地響きのせいで足が進まない。

 明らかに乱闘している。

浜面仕上「麦野って、超能力者の第四位なんだろ……? その麦野と交戦できる、って……化け物じゃねぇか」

 関わりたくない衝動に駆られるが、ここで逃げれば後に粛清されるかもしれない。

 スキルアウトだったとは言え、それなりの闇は経験してる浜面でも、その展開は予想できた。

 そんな中、素粒子工学研究所の外壁が大きく崩れ出した。

 そして、倒壊によって巻き上がる土煙の中から滝壺を担いだ麦野が、浜面に向かって全力疾走してくる様子が見えてくる。

麦野沈利「浜面ぁ! 車の準備をしろぉッ!!」

浜面仕上「えぇ!!? お、おぉッ、分かったッ!」

 運転席に駆け戻った浜面は、急いで車のエンジンをかける。

 それと同時、後部座席に滝壺を放り込んだ麦野が助手席に転がり込んできた。

麦野沈利「車出せッ、急げッ!!」

浜面仕上「お、おい! 絹旗とフレンダはどうしたんだよ!?」

麦野沈利「あいつらなら大丈夫だ!! そう簡単に逃げ遅れる足してねぇよ…ッ。とにかく、今は一刻でも早くここから離れるんだ!」

浜面仕上「な、何があったってんだよ…ッ」

 言われるがままに車を発進させた浜面の呟きに、麦野は苦虫を噛み潰したような表情で返答した。

麦野沈利「…垣根帝督……ッ。同じ超能力者だってのに、ここまで力の差があるのかよッ。クソ…ッ!!」







 一言で表すならば、圧勝だった。

 垣根は麦野の放つ原子崩しを一切受け付けず、自分の振るう未元物質を一方的に振るうだけの戦況が続いたのだ。

垣根帝督「チッ、逃げられたか……」

 ひどく暴れ回った爪痕は研究所内にハッキリと残り、あちこちから噴き出した真っ白な煙が設置された研究所内の機材が再起不能であることを物語っている。

 そんな中、原子崩しによって溶解された研究所の外壁が三つ、それぞれ別の方角に向けて開けられていた。

垣根帝督「一塊になって逃げたわけじゃねえってわけか……。ムカつくぜ」

 垣根は、麦野が滝壺を抱えて逃げていった様子を確認していたが、逆に言えば麦野滝壺の姿しか確認できていない。

 絹旗とフレンダは当然として、肝心な初春が連れ去られた先を確認することが出来なかったのだ。

垣根帝督(だが、麦野の奴は滝壺を抱えて逃げたんだ。少なくとも、麦野の手中に初春はいねえ……。となれば、追うべきは残る二手のどちらか、か……)

 戦闘中、滝壺は垣根の能力に干渉しようとしたらしいが、そう易々と受け付ける未元物質ではない。

 強力過ぎる垣根のAIM拡散力場の余波を受けてダウンした滝壺は、自分の力では歩けなかったのだ。

垣根帝督「そんなお荷物を切り捨てなかった、ってことは……麦野の奴は滝壺に、それなりの価値を見い出してんだな」

 垣根は、麦野が逃げた壁の穴を無視して残る二つの壁穴を見比べる。

 絹旗とフレンダが逃げていった道筋だということは明白で、初春を抱えて逃げるとなればフレンダよりも絹旗が適任だろう。

垣根帝督「つまり、絹旗の逃げた壁穴に飛び込めばゲームクリアーってわけだな」

 しかし、一つだけ懸念事項が残る。

 仮にも絹旗は一方通行の演算能力を受け継いでいる。

 大能力者といえども油断は禁物、と一方通行との戦闘で学んだ垣根は、残るもう一方の壁穴に視線を向けた。

垣根帝督「……まあ、捕まえた後でアジトでも尋問すりゃ済む話だしな…。弱い獲物を狩り取って利益を得るのも悪くねえ…ッ」

 垣根は、麦野と滝壺が逃げた壁穴を無視して、初春を連れ去ったと思われる絹旗の逃げた壁穴をも無視して。

 フレンダが逃げたと思われる壁穴の先へと、足を踏み入れたのだった。







 麦野と滝壺を連れて一先ずアイテムのアジトに戻ってきた浜面は、まだ合流できていない絹旗とフレンダを心配していた。

浜面仕上「はぁ…落ち着けねぇ……ッ。あいつら大丈夫なのか…」

 室内をウロウロしていた時のこと、不意に開かれた扉の向こうから初春を担いだ絹旗が現れた。

浜面仕上「…おぉッ! 絹旗ッ」

絹旗最愛「ただいま超戻りました」

 いまだに目を覚まさない初春を傍らのソファに寝かせた絹旗に、浜面は慌てて駆け寄ってくる。

浜面仕上「今朝に会った超能力者の第二位と戦ったそうじゃねぇかッ。大丈夫なのか?」

絹旗最愛「私は超問題ありません。麦野と滝壺さんは?」

浜面仕上「あぁ、あいつらも大丈夫だ。絹旗も無事でよかったぜ……」

 自分の無事に安堵してくれる浜面を見て、絹旗は少しだけ息を呑んだ。

 そこには確かな喜びの色があった。

絹旗最愛「…そ、そんなに…超心配してくれてたんですか…? 私のこと…」

浜面仕上「ああん? そりゃそうだろ。誰だって心配するさ、あんな状況」

 浜面は絹旗の能力の強さを理解しきっていないのかもしれない。

 だがそれでも、絹旗は嬉しいと感じていた。

 強過ぎる能力者に心配は不要。

 負ければそれまでのこと、という認識の強い暗部の世界では、浜面の心配は新鮮だった。

浜面仕上「さて……これで残るはフレンダだけか」

絹旗最愛「あ、フレンダは超戻ってきてないんですね……」

浜面仕上「あぁ。フレンダも無事だといいんだけどなぁ……」
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