信約 SRP:妹達共鳴計画

□Report.07 十月九日B
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 垣根帝督は無限の創造性と強力な不死性を獲得し、既に“ヒト”の枠を超えた存在として君臨する。

 その姿は異形であり、真っ白に染まった全身から繭の糸のようなものがユラユラと揺らめいている。

 眼球は黒色に、瞳孔は赤色に変わっていた。

垣根帝督「第二位の力をナメるなよ。超能力者だろうが何だろうが、所詮は第四位だ。底が知れてる」

麦野沈利「く、そが、ぁ……ッ」

 生存本能のリミッターを外して左腕を失ってまで覚悟を決めた攻撃を放ったのに、垣根は無傷で生還した。

 それどころか、お返しとばかりに放たれた未元物質の一撃を受け、麦野は右目まで潰されてしまったのだ。

浜面仕上(…嘘だろ……ッ。同じ超能力者だってのに、ここまで力の差があんのかよ…ッ!!?)

絹旗最愛「く…ッ。浜面! とにかく私が超時間を稼ぎます! 今は超早くフレンダを病院へ!」

浜面仕上「じ、時間を稼ぐって……ッ。それに、どうやって病院まで行けってんだよッ!!」

 浜面たちの乗ってきた車が停車してある場所までは、未元物質の壁に阻まれて近付くことが出来ない。

 浜面に担がれているフレンダは既に意識を失い、死期は目に見えて近付いている。

 と言うより現状は、背骨一本で上半身と下半身が繋がっている状態なのだ。

 内臓まで完全に切り裂かれていて、まだ絶命していない方が奇跡だろう。

絹旗最愛「何でもいいから超考えてください! 未元物質だろうと何だろうと、その壁を超ブチ抜ける方法はあるはずです!」

浜面仕上「んな無茶苦茶な!! って、おい! 絹旗ぁ!」

 浜面の言い分など聞かず、絹旗は真っ直ぐに垣根へと突っ込んでいく。

 その身を包むのは大能力の窒素装甲。

 例え未元物質だろうと、そう簡単に貫けるはずがない。



 そう思っていたのに……。



垣根帝督「分からねえ奴だな。俺に常識は通用しねえんだよッ」

 垣根は、何の変哲もない回し蹴りを絹旗の横顔に向けて放つ。

 窒素装甲を相手にそんな攻撃を向ければ、垣根の足首の方が折れるはずだ。

絹旗最愛「ーーーッ!!?」

 しかし、それはあくまでも“絹旗の常識”の許で成り立つ計算結果だ。

 自分自身が未元物質であると表現しても過言ではなくなった垣根の前では、あらゆる常識が塗り替えられ、垣根自身が神となる。

垣根帝督「吹っ飛べ」

 言葉通り、横殴りに頭部を蹴り飛ばされた絹旗の体が、まるで紙切れのように吹き飛んでいく。

 狙ったのか偶然なのか、飛ばされた先は路地の角に設置されたゴミ置き場だったため、大きな怪我はないだろう。

浜面仕上「絹旗ぁッ!!」

垣根帝督「さて、残るは下っ端が一匹だけだが……。さすがに知らねえはずはねえよな?」

 フレンダを担いだ浜面を睨む垣根は、ゆっくりと浜面に向けて歩みを進める。

垣根帝督「初春は何処だ?」

浜面仕上「そ、それは……ッ」

 浜面が答えるか答えないか、その瞬間。

 歪ながらも、原子崩しを左腕の形に留めて立ち上がった麦野が、怒りの形相を浮かべて垣根を睨む。

麦野沈利「話す必要はねぇぞ、浜面ッ」

浜面仕上「む、麦野…ッ」

 更に、麦野が立ち上がる時を見計らっていたのか、ゴミ捨て場の中から同じように怒りを露わにした絹旗も立ち上がる。

絹旗最愛「そこの超クソ野郎に、くれてやる情報なンざ何もありませンッ! 暗部組織アイテムを、超ナメ過ぎです……ッ」

浜面仕上「絹旗……ッ」

垣根帝督「はあ〜、やれやれ。大人しく寝そべってりゃいいものを」

 呆れた表情で溜息を吐きつつ、垣根は虫ケラを見るような目で麦野と絹旗を一瞥した。

 勝者の余裕、負ける気がしない雰囲気。

 浜面は今、超能力者の第二位を自分と同じ人間だと思えない。

 否、そう考えていることこそ罪に思うほどの感覚。

 本物の怪物を目の当たりにした時、人は真っ当な思考回路すら忘れてしまうようだ。

浜面仕上「なんだよ、これ……。こんなの、一体…どうすりゃいい………」

垣根帝督「あ? だから最初から逃げ道は作ってやってんじゃねえか。頭の悪い野郎だ」

 麦野も絹旗も無視して、垣根は浜面に同じ質問をした。

垣根帝督「初春は何処だ? 大人しく返すってんなら、もうアイテムに手出ししねえよ」

絹旗最愛「はぁ〜、自分のことは超棚上げですか? 頭が悪いのはお互い様みたいですね」

垣根帝督「あ?」

麦野沈利「絹旗が言ったこと忘れたのか? だったら思い知らせてやんよッ」



麦野沈利「ーーーアイテムをッ、ナメるなぁぁぁあああああああああああああッ!!!!」



 原子崩しで形作られた麦野の左腕が膨張し、巨大な原子崩しの光線が再び垣根の体を飲み込んだ。
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