信約 SRP:妹達共鳴計画

□Report.08 十月十二日@
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 十月十二日。

 何故かグッタリした様子で疲れの色を露わにするミサカ9423号は寝台の上に倒れ込んだ。

09423号「は、ふぅ〜……おやすみなさい…、と……ミサ、カ…は……」

一方通行「眠るの早ェなァ、オイ。どンだけ疲れてンだっつーの」

 一方通行に寝顔を見られることも気にしていられず、ミサカは無防備なまま眠りに落ちていった。

 しかし、あくまでも手を出そうとはしない紳士な一方通行は、寝台に倒れ込んだままのミサカの姿勢を少しだけ手直しする(こういう意味では手を出している)。

 その後、掛布団を無造作に掛けてやった後、静かに寝室を出ていくのだった。

 寝室を出てすぐのこと、ミサカ3709号が一方通行を迎えて腰元に抱き着いてくる。

03709号「あうえあえーあ!」

一方通行「おォ。そォいや、お前は何か知らねェのか? 妹達が最近、総出で何かやってたみてェじゃねェか」

03709号「う〜?」

 わしわしとミサカ3709号の頭を撫でながら質問する一方通行だったが、その返答は首を傾げるだけ。

 期待していなかったが、どうやら予想通りミサカ3709号は何も知らないらしい。

一方通行(まァ、ミサカネットワークから隔絶されてりゃ無理もねェか……)

 最近の妹達に何があったのかは知らないが、大きな心配は必要ないだろう。

 目に見えて疲れて帰ってきたことは明らかだが、大きな怪我や異常も見当たらない。

 それに、学園都市にて本当に危機的状況が迫っているなら、この一方通行が気付かないはずがないのだ。

一方通行「お前も寝てきたらどォなンだ?」

03709号「ぇあぅー」

一方通行「好きにすりゃイイが、睡眠不足に悩むのはお前だぜ? そこンとこ忘れンなよ」

03709号「あーぃぃッ!!」

一方通行「あと、なるべく今は静かにしとけ。何処ぞの泣き虫が起きるかもしれねェからな」

 ミサカ3709号との意思疎通にも慣れてきた。

 そう実感しながらリビングに戻って来た一方通行は、当たり前のようにソファを陣取っている少女を見て顔を歪める。

一方通行「……オイ…」

レディリー「…? 何かしら?」

一方通行「何を勝手に寛いでンだ。つーか、その紅茶どっから持ってきた?」

 一方通行が買い置きしていた覚えのない紅茶を楽しみつつ、レディリーは呆れた様子で返答する。

レディリー「随分な言い草ね、アクセラくん。私をここに連れてきたのは何処の何方だったかしら?」

一方通行「チッ……俺としたことが選択を誤りました、ってかァ? つーか、その呼び方やめろ」

 レディリーを軽く押し退けて、自分の分のソファスペースを確保し、腰を下ろす。

 その後、当たり前のようにミサカ3709号が膝の上に乗ってきたものの、何だかもう色々と疲れ始めていた一方通行は放っておくことにした。

レディリー「ところで……アビニョンから帰国して数日が経ったけど。魔術の理解は進んだのかしら?」

一方通行「答えを知ってる質問ほど無駄なモンはねェ、ってことも分からねェのか? 学園都市は科学の町だぞ」

レディリー「つまり、魔術の概要はお手上げ状態ってこと……。残念だったわね」

一方通行「…………」

 一方通行は、テーブルの上に置かれた書物を手に取る。

 それは非常に簡易的なものだったが、魔術的記号が散りばめられた一冊の魔道書だった。

一方通行「百歩譲って、書いてある文字やら言葉やらは分かった。だが理屈が分からねェ」

レディリー「と言うと?」

一方通行「象徴だの記号だの、黄金比の配置だの。そンな曖昧なモンで力を振るえンなら世話ねェなって意味だ。学園都市にオカルトを持ち込ンだところで、行き着く答えなンざ結局は同じだ」

 魔術の発動や、そのものの力について。

 学園都市最強の頭脳を持つ一方通行でも、理解することは難しかった。

 尤も、例え理解できた場合でも魔術を発動することは出来なかっただろう。

レディリー「科学の能力以外にも異能の力は存在する。それだけ分かっていれば十分よ。どの道、アクセラくんは魔術を使うことはできないわ」

一方通行「……拒絶反応、って言ったな…?」

レディリー「ええ、その通りよ…」

 能力者に魔術は使えない。

 その常識を既に聞かされていた一方通行は、もしも力を振るった際の末路も知り得ている。

 身体を内側から破壊される拒絶反応の先にあるのは……瀕死の重傷か絶命の二択。

一方通行「……そォいや、お前も魔術が使えねェンだったなァ?」

レディリー「それがどうしたの?」

一方通行「どォしたも何も、その方がおかしい話だろォが。占星術師とか名乗ってやがったが、魔術が使えねェ魔術師って何なンだよ」

 一方通行の質問にレディリーは溜息を吐いて紅茶を飲む。

 空になったカップを静かにテーブルの上へと戻し、ソファから立ち上がると窓辺に向けて歩き出した。

レディリー「魔術はね。その術式の発動には、魔術師の持つ魔力が必要になるの」

一方通行「……魔術発動専門のエネルギーみてェなモンか?」

レディリー「そうね。魔力だけなら魔術師だけに限らず、普通の人間なら誰もが当たり前に有しているもの……。でも、私にはそれがない……」

一方通行「何でだ?」

 稀に、魔術師でもない一般人が偶然的に魔術を発動してしまうケースがある。

 風水などが最も多い発動例だが、それは普通の一般人にも“魔力”と呼ばれる力が宿っていることを意味している。

 だが、レディリーはその“魔力”がない。

 何故ならば……。



レディリー「魔力はね……術者の“生命力”から生成される力を意味してるのよ……」



 そう語ったレディリーの背中を見た一方通行は、まだ言葉の真意を理解できずに首を傾げた。
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