3つの恋が実るミライ♪

□03 豊かな自然と迫り来る危機・前編
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 真夏の空の入道雲。

 セミとカッコウの鳴き声が響き渡る田舎道。

 山中とはいえ、十分に舗装されたアスファルトの道を、みゆきたちは静かに歩いていた。

 だが、そのアスファルトには自動車が通っているようなタイヤの跡が一つも見られなかった。

黄瀬やよい「みゆきちゃん……、まだ着かないの……?」

星空みゆき「もうちょっとだよ…」

日野あかね「ぁ〜…、バスもタクシーもないなんて、ありえへん………」

星空みゆき「大丈夫? あかねちゃん…」

日野あかね「……アカン…、ちょっと休憩さして…」

 アスファルトの道から外れ、あかねは近場の川辺へと降りていく。

緑川なお「珍しいね? あかねがへばるなんて」

日野あかね「最近、食欲がないねん…。せやから、力が出ぇへん…」

緑川なお「夏バテか…」

星空みゆき「ごめんね。たくさん歩かせちゃって」

 みゆきとなおも、あかねに続いて川辺に向かっていく。

 この暑さには、さすがのプリキュアも堪えていたのだ。

青木れいか「…毎日、暑いですものね……」

 太陽を見上げて、れいかは夏の陽射しを感じ取った。

 と、そんな時だった。

????「無闇に川に近付くと、河童に引っ張られるよ?」

青木れいか「え?」

 不意に、右隣から聞き慣れない声が聞こえた。

 みんなが視線を向けてみれば、この近隣で暮らしていると思われる一人のおばあさんが立っていた。

 おばあさんは、川辺の近くに立っているみゆきを見て、変わらない笑顔で迎えてくれる。

星空タエ「おかえり、みゆき」

星空みゆき「おばあちゃんッ」

 そのおばあさんの名は、みゆきの祖母である“星空タエ”だった。

 真夏日の本日、みゆきはみんなを連れておばあちゃんの暮らす山中の田舎に遊びに来たのだった。







 そんな面々を、少し離れた日陰の中から眺めている人影が二つ。

黄瀬のどか「あれが、こうちゃんの曾おばあちゃん……」

青木がどう「僕たちも幼い頃に会ってるけど、さすがにまだ若いね」

 未来から来たやよいとれいかの子供、のどかとがどうはタエと合流を果たしたみゆきたちを見て呟いた。

 タエに曾孫であるこうがは、今ここにいない。

黄瀬のどか「こうちゃん、いつもならわたしを連れてってくれるのに……」

青木がどう「幸牙が、一人でバッドエンド王国に行く、って言い出すのも珍しい。何か考えがあるんだろう。いつも通り僕たちは、あかねさんたちの力を借りて、未来への歯車を回していくだけだ」

黄瀬のどか「うん………それにしても、暑いねぇ…」

 空を仰ぎ、サンサンと照り付ける太陽を恨めし気に見上げる。

黄瀬のどか「(こうちゃん…大丈夫かなぁ…)」







 一方、バッドエンド王国。

 いつもなら、のどかを連れて誰かを人間界に誘い込む法を取っているこうがだが、今回ばかりは一人で来た。

 というのも、こうがは父親であるウルフルンが非常に暑がりだということを知っていたのだ。

 この猛暑の季節はバッドエンド王国だろうと関係なく、辺り一帯は熱気に包まれていた。

 しかし……。

星空こうが「……し…しくじった…ぁ……ッ」

 正体を隠すため、こうがたちは基本的にベージュ色のローブをまとっている。

 先日の夏祭りで、大物だと懸念していたジョーカーと予想外の接触(と言っても一瞬だが)を図ったため、あまり姿を見られたくなかったのだ。

 つまり、こうがは今、この猛暑の中でローブをまとっているのである。

星空こうが「く、くっそ…ぉ……。頭が痛ぇ……。意識が、遠退く…」

 滝のような汗が流れ、その汗を吸ったローブが重くなる。

 更に、水気を吸い取ったローブの中に湿気が集まり、こうがの気絶させるつもりで集中攻撃を止めないのだ。

星空こうが「(こうなることが分かっててノンを連れて来なかったんだが……、クソ…さすがのオレも、暑さには敵わねぇのか…)」

 暑がりなのは父親譲りの遺伝子だろう。

 のしでも巻いて突き返したいくらいだが、生憎と当人の姿が見当たらない。

 アカオーニやマジョリーナやジョーカーを捜して行くことすら億劫に感じた後、こうがは……。

星空こうが「…………無理……」

 今回の計画を、早々に諦めてしまった。

 忘れてはならないが、彼は頭よりも先に行動してしまうタイプの人間であり……。

 つまりは……基本的に馬鹿なのである。







 大自然と畑に囲まれた農家の一軒屋にて、タエは一人で暮らしていた。

 みゆきたちが荷物を下ろして家の中から外に顔を出し、都会の町では見ることが不可能と思われる景色を一望する。

緑川なお「うわぁ……家からこんなにいい景色が見られるなんて、すごいねぇ」

青木れいか「本当に素敵なところですね」

 みんなが景色を眺めている中、あかねはみゆきの抱えているキャンディへと耳打ちする。

日野あかね「(ええか、キャンディ。約束守らなアカンで?)」

キャンディ「ぅ…ッ」

黄瀬やよい「(人前ではヌイグルミのふりをする、って言うから連れて来たんだよ?)」

キャンディ「分かってるクルぅ!」

日野あかね「わわッ、シーッ!! 声が大きいッ」

キャンディ「ごめんクル…」

 あかねの懸念はそれだけではない。

 夏祭りの際には、キャンディの行動で何度も肝を冷やされた。

 なおも同感の様子で、あかねと目を合わせた際には苦笑いを浮かべていた。

日野あかね「(今回は大人しくしててや……)」

緑川なお「(みゆきちゃんたちの未来のためとは言え、あたしたちも大変なんだから……)」

キャンディ「(クルぅ〜)」
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