3つの恋が実るミライ♪

□12 ファッション・ミュージカル!
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 賑わいを見せる秋の季節。

 七色ヶ丘中学でも、多くの生徒たちが楽しみにしていた一大行事が始まろうとしていた。

 黒板に書き連ねられた、とある議題による多数決の結果が報告される。

青木れいか「それでは、多数決の結果……二年二組の文化祭の出し物は“ファッションショー”に決定しました」

 教室のみんなが拍手を送る。

 七色ヶ丘中学は、文化祭の行事を控えていたのだった。

星空みゆき「ファッションショーかぁ〜、何だか楽しそうッ」

日野あかね「にしし、ホンマやな。気分はパリコレやッ」

 各々が嬉々とした声を上げている中、唯一、あまり乗り気な様子を見せない生徒がいた。

 不意に立ち上がった男子生徒、豊島ひでかずはハッキリと言い放った。

豊島ひでかず「つまんねぇ。俺、帰るわ」

星空みゆき「…え?」

日野あかね「ぇぇ?」

 荷物をまとめた豊島は、そのまま教室の出口へと向かっていく。

豊島ひでかず「ファッションショーが面白ぇのって、女子だけじゃん……。俺やらねぇから」

 豊島が姿を消した後、教室の中は少しだけザワつき始める。

 せっかくの文化祭も、幸先の悪い雰囲気が漂い始めていた。







 バッドエンド王国。

 先日、何故か大怪我を負って帰ってきたアカオーニは、ウルフルンとマジョリーナを前に悩みを抱えていた。

 それは、自分たちの存在の有り方についてのこと。

アカオーニ「……俺様たちは…、物語の悪役オニ。それは今も昔も変わらないオニ…」

ウルフルン「あぁん? それがどうした? 今に始まったことじゃねぇだろ。そんなモン昔からだ」

アカオーニ「…でも、この前……俺様人間たちに敵意を向けられた時………悲しくなったオニ……」

マジョリーナ「……」

ウルフルン「はぁ?」

 時代劇映画村での出来事。

 アカオーニは、一時的ながら本物の敵意を多くの人間たちから一斉に向けられた。

 その際、嫌というほど知っていたはずの状況にもかかわらず、アカオーニは涙を流した。

 あの時の感情は、今も忘れられない“悲しみ”に他ならない。

マジョリーナ「ウルフルン。もしもの話をするだわさ」

ウルフルン「……?」

マジョリーナ「もしも、プリキュアから以前のように戦いを強いられたとしたら、あんたはどうするだわさ?」

ウルフルン「決まってんだろ。プリキュアが向かってくるってんなら、全力で叩きのめすだけだッ」

マジョリーナ「よく想像するだわさ。本当に出来るだわさ?」

ウルフルン「…そりゃ……もちろん……」

 ウルフルンの脳裏に浮かぶのは、みゆきの笑顔。

 キュアハッピーの姿。

 星空みゆきの一喜一憂や全ての仕草が思い出され、何故か言葉に詰まってしまう。

ウルフルン「…………」

マジョリーナ「最近、あたしらは丸くなってるだわさ。今後のことについて、お前たちもよく考えるだわさ」

 そう言って、マジョリーナはウルフルンとアカオーニを残して歩き去っていく。

 マジョリーナの姿が見えなくなったとき、アカオーニはポツリと呟いた。

アカオーニ「…自信ないオニ」

 その言葉は、もう以前のようにプリキュアと戦えないことを表していた。

 その一方で、二人を残してバッドエンド王国を歩くマジョリーナは、どうやら今の会話を盗み聞きしていたジョーカーと鉢合わせする。

ジョーカー「……」

マジョリーナ「盗み聞きは感心しないだわさ」

ジョーカー「マジョリーナさん。何故あんな質問を?」

マジョリーナ「………他意はないだわさ…」

 ジョーカーが思い出していたのは、れいかの顔だった。

 その事実を否定するように、フルフルと首を振ったジョーカーはマジョリーナを残してサッと飛び立っていく。

マジョリーナ「んん? 待つだわさ、ジョーカーッ。何処に行くだわさ!」

ジョーカー「人間界ですよ。どうにも、気分が優れませんッ」

 人間界へ向かうジョーカーを、マジョリーナも続いて追いかけていった。

 もちろん、この事態を人間界にいるこうがたちに報告した上で。







 下校時間。

 クラスの出し物が“ファッションショー”に決まったまでは良かったのだが、その後に見せた豊島の件が気になっていた。

黄瀬やよい「豊島くん…、文化祭の準備に参加してくれるかな…」

青木れいか「多数決で決めたのが、よくなかったのでしょうか……」

緑川なお「そんなことないと思うけど…」

日野あかね「何がそんなに気に入らへんのやろ…」

 考えたところで答えは出ない。

 豊島の心境や事情を深く知る者は、この五人の中にはいないのだ。

星空みゆき「でも、せっかくの文化祭だもん……。みんなで一緒にやりたいな……」

 みゆきの思いは、みんなも同感だった。

 まずは、豊島の気持ちを知ることから始めなくてはならない。







 翌日。

 各々が文化祭の準備を進めていく七色ヶ丘中学の校門付近にて、こうがたちが学校の様子を眺めて並び立っていた。

黄瀬のどか「文化祭かぁ〜♪」

星空こうが「だが状況は芳しくねぇなぁ。お袋んとこのクラスは、豊島とかいうヤツが乗り気じゃねぇんだろ?」

青木がどう「らしいよ。昨夜、なおさんから連絡をもらったことから察するに、何か不満があるんだろうね」

黄瀬のどか「ふぇ? 何で?」

青木がどう「それが分かれば、僕たちももう少し上手く動けるんだけどな……」

 がどうの顔色は悪かった。

 別に体調不良というわけではなく、この動きづらい現状の中で、マジョリーナから受け取った報告内容が関係している。

青木がどう「こんな時に限って、動き出したのは父さん一人だけか……」

星空こうが「仕方ねぇよ。カズが生まれる未来に導くためには、嫌でも通らなくちゃならねぇ道だろ?」

青木がどう「……違いないね。とりあえず、僕たちも学校内には入っておこうか」

 こうがたちは、七色ヶ丘中学の校門に入っていく。

 灯台下暗し、と言うが、あえて堂々としていれば部外者であろうとも気付かれないものである。
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