3つの恋が実るミライ♪
□17 はちゃめちゃシンデレラ・前編
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放課後、七色ヶ丘中学の図書室にて。
キャンディを連れて、新しい絵本を借りに来たみゆきは並び立つ本棚の中を歩きながら品定めをしていく。
星空みゆき「今日は何を借りよっかなぁ〜」
そんな時、ふと棚と棚の間から第三者が顔を出してきた。
ルン太郎「んあ?」
星空みゆき「へ?」
お互い、まさかここで二人きりになるとは思っていなかったらしく、しばしの沈黙。
そして絶叫。
星空みゆき「ーーーわぁぁぁあああああッ!!!! る、ルン太郎ッ!!」
ルン太郎「(しーーーッ!! 声がデケェよ、馬鹿!!)」
ルン太郎の大きな手がみゆきの口元を覆い、その絶叫を強制終了される。
荒々しく男らしいゴツゴツとした手がみゆきの顔に触れただけで、もうみゆきの顔は真っ赤かである。
星空みゆき「ぁ…ぅぅ…も、もう大丈…夫。大丈夫だから…」
わたわたと手を振ってルン太郎の拘束から逃れたみゆきは、バクバクと早鐘を打つ心臓を必死で抑える。
ルン太郎「ったく。何でオレの方が“図書室では静かに”を促さなきゃなんねぇんだ……」
心底呆れた様子で、ルン太郎は二冊の参考書を抱えて直した。
星空みゆき「……? それ、借りるの?」
ルン太郎「ん? あぁ……まぁな」
どうやら、この学校に転校してから毎日のように出される宿題にうんざりしつつも、一応は手をつけておこうと思っているらしい。
バッドエンド王国に置いてあるものでは、人間界の宿題を片付けられる材料にならないのだろう。
ルン太郎「オレが生徒会長になれりゃ、こんなめんどくせぇ宿題ともおさらば出来たってのによぉ……」
星空みゆき「…あぁ…ははは……」
苦笑いを浮かべるみゆきの前で、とりあえず参考書を机の上に置いたルン太郎が、そう言えばと前置きして訊ねてくる。
ルン太郎「オマエは何してんだ? まぁ、ここにいるってことは何かしらの本を借りに来たんだろうけどよ」
星空みゆき「え? あ、うん…ちょっとね…」
改めて、今日借りる絵本を選んでいくみゆき。
そんなみゆきへと、肩にかけていた鞄の中から顔を出したキャンディが小声で話しかける。
キャンディ「(みゆきぃ、これはチャンスだクル〜♪)」
星空みゆき「(え?)」
キャンディ「(せっかくウルフルンと二人っきりクル♪ もっともっと積極的になるクル〜♪)」
星空みゆき「…ッ! な、ぁッ!! き、ききき、キャンディッ!! な、何言って…ッ」
ルン太郎「ん? おい、静かにしてろっつーの」
星空みゆき「へあ!? あ、ぁぁ、ご、ごめん……………ん? あれ…?」
ふと、みゆきは図書室の床に落ちている一冊の本に気が付いた。
キラキラと輝いている表紙絵が特徴的だが、それ故に他の本と浮いて見えた。
星空みゆき「変わった本……。こんな本、図書室にあったっけ?」
ルン太郎「あぁん?」
キャンディ「何の本クルぅ?」
キャンディとルン太郎を傍らに、みゆきは本を開いてみる。
そこに描かれていたのは、妙にリアルなガラスの靴が一つだけ。
ルン太郎「ガラスの靴?」
星空みゆき「ってことは……シンデレラの本かなぁ? 何だかすごくリアルな絵だね……」
思わず触れてみたくなる衝動に駆られ、みゆきとルン太郎がガラスの靴の絵に手を伸ばした。
その瞬間……本から目を覆うほどの眩い光が放たれ、その勢いからキャンディが易々と吹き飛ばされてしまう。
キャンディ「クル〜ッ!!」
星空みゆき「キャンディッ」
ルン太郎「な、何だこりゃぁ!!?」
やがて光は治まり、辺りに静寂が戻る。
キャンディ「…みゆき? ルン太郎…?」
だが、この図書室から二人の姿が消えていた。
残されたのはキャンディと、あの不思議なシンデレラの絵本のみだった。
ガラガラガラガラッ!! と、もの凄い音を立てながら、みゆきは狭い通路を落下していった。
やがて地の底まで落ちたかのような感覚に襲われつつ着地すると、全身を真っ黒な灰に包まれていることに気付いた。
星空みゆき「…ぅぅ……ごっほッ、けほッ。な、何これ……。何でわたし、灰だらけなんだろ…」
頭を振るって、とりあえず首から上の灰だけを振るい落とす。
星空みゆき「…あ……、そういえば“シンデレラ”って“灰被り”って意味だっけ……?」
シンデレラという言葉の意味を思い出したところで、ふと周りを見渡してみる。
見覚えのない家の中。
みゆきが落ちてきた狭い通路の正体は、どうやら煙突らしく背後には暖炉が構えていた。
星空みゆき「……ぁ…え…?」
覚えのない家の窓から外を眺めてみる。
そこに広がっていたのは、これまた見覚えのない西洋風な街並み。
そして、おとぎ話や絵本に登場するような、とても立派なお城だった。
星空みゆき「お、お城だぁ!! それに、この格好……。もしかして……わたし……ッ」
みゆきの頭の中に、たった一つの答えが導き出される。
それを理解した瞬間、普通ならば慌てふためく状況下で、みゆきは……。
星空みゆき「シンデレラになっちゃったぁ!!」
瞳をキラキラと輝かせながら、心の底から歓喜していた。
ダメだコイツ、早く何とかしないと。
一方その頃、図書室に向かったみゆきの帰りを教室で待っていた面々。
あかね、やよい、なお、れいか。
そして鬼吉の五人は、少しだけ重い空気に包まれていた。
黄瀬やよい「…………」
赤井鬼吉「…………」
日野あかね「えーっと……」
緑川なお「ふ、二人とも…」
青木れいか「…ぁぁ……」
先日、不慮の事故でやよいのファーストキスが奪われた。
他でもない、鬼吉ことアカオーニを相手にして。
しかし、やよいは別に怒っているわけではない。
そのはずなのだが、どうにも鬼吉と目を合わせることができなくなっていた。
赤井鬼吉「……や、やよい?」
黄瀬やよい「ーーーッ!! ひ、ひゃいッ!!」
返事をするだけで声が裏返る。
これでは、まともな会話すら難しいだろう。
日野あかね「(はぁ〜……。なぁ? これ進展やと思うか?)」
緑川なお「(難しいところだよね……)」
進展が故に、距離が遠くなってしまっては意味がない。
と、そんな時だった。
ポップ『ないッ。ないッないッないッ!』
日野あかね「へ?」
緑川なお「え?」
教室の窓の外から、一冊の絵本が飛来した。
言うまでもなく、メルヘンランドの妖精“ポップ”の登場だった。
ポップ「ーーーないでござ、んむぐぐッ!!!!」
クラスメートたちが注目する中、ポップの口を姿を全員で押さえつける。
青木れいか「…な、何でもないで、ござる」
ギリギリの方法で誤魔化してみせたものの、まだ波乱が続く。
キャンディ「クルぅ〜!! 大変クルぅッ!!」
今度は教室の扉を勢いよく開け放ったキャンディが、不思議な絵本を抱えて叫び散らす。
再びクラスメートたちの注目が集まるが、空気を読んだ鬼吉が一瞬でキャンディを抱えて退室していった。
それに続いて、あかねたちも教室を飛び出して行く。
緑川なお「…た、大変、クル〜ッ」