3つの恋が実るミライ♪

□19 それぞれの未来に向けて
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 バッドエンド王国にて。

 七色ヶ丘中学の通学鞄を傍らに、ウルフルンは淀み切った薄暗い空を眺めていた。

ウルフルン「…………」

 先日、七色ヶ丘中学の屋上で言い放たれた、みゆきからの唐突な告白。

星空みゆき『わたし…ウルフルンのことが、好きッ。えへへ…』

ウルフルン「……何で…よりにも寄ってオレなんだよ…」

 改めることではないが、ウルフルンは人間ではない。

 加えて、七色ヶ丘中学は共学であり、女子ばかりというわけでも男子がいないわけでもない。

 それなのに、みゆきはウルフルンを選んだのだ。

ウルフルン「わけ分かんねぇ……」

 そんなウルフルンへと、歩み寄ってくる人影が三つ。

 アカオーニたちバッドエンドのみんなだった。

アカオーニ「ウルフルン。学校行くオニ」

ウルフルン「ん? お、おぉ……」

 正直、行きづらかった。

 あの告白があってから、みゆきのウルフルンに対する行為に少しだけ“変化”が起きているのだ。

マジョリーナ「行く度にグッタリしないように、少しは耐性つけるだわさ」

ウルフルン「人の気も知らねぇで、好き勝手なこと言ってんじゃねぇよ」

 マジョリーナから“ニンゲンニナ〜ル”のワッペンを受け取ったウルフルンとアカオーニは、各々の姿をウルフルン太郎と赤井鬼吉に変身させた。

 そこで、今まで黙っていたジョーカーがウルフルンだけを呼び止める。

ジョーカー「…ウルフルンさん……」

ルン太郎「あぁ? 何だよ?」

ジョーカー「……改めて、一度話しておきたいことがあります…。アカオーニさんとマジョリーナさんは席を外していただけますか?」

 ジョーカーの申し出に首を傾げた二人だが、それほど時間は掛けないようなので大人しく姿を消す。

ルン太郎「で? 何の用だ?」

ジョーカー「……先日の、みゆきさんからの告白の件です」

 あの告白の時、みゆきとウルフルン以外の全員もその瞬間を見届けていた。

 そしてその際、アカオーニはやよいに、ジョーカーはれいかに、無意識下で視線を送ってしまった。

 その行為が何を意味するのか、正直なところジョーカーは分かっていない。

ジョーカー「みゆきさんの告白を受けて、アナタはどんな気分ですか?」

ルン太郎「……どういう意味だ?」

ジョーカー「告白を受け入れるのか、それとも突き放すか。その答えを訊ねているのです」

ルン太郎「あぁ? 何でテメェにそんなこと教えなくちゃいけねぇんだよッ。これはオレの問題だ。首突っ込んで来るんじゃねぇよ」

 馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに、早々に会話を絶ち切る。

 背を向けたウルフルンに対し、それでもジョーカーは付け加えてきた。

ジョーカー「ウルフルンさん。もしかしてアナタ……昔の自分をお忘れですか?」

ルン太郎「ーーーッ!!」

ジョーカー「また……あの頃に戻りたいのですか?」

ルン太郎「…………ッ!!」

 ウルフルンの足が震える。

 思い出したくない過去。

 忘れ去りたかった昔の自分。

 それが今、ジョーカーの言葉によって鮮明に思い出された。

ジョーカー「以前、人間界に赴いたアカオーニさんも、何らかの出来事がキッカケで思い出されたそうです……」

ルン太郎「……」

ジョーカー「深く追い詰める気はありませんが、よく考えて行動してください。彼女たちはプリキュアと言えども、所詮は“人間”です。かつて対立していた仲であるワタシたちのような……」





ジョーカー「中途半端な“化け物”とは、異なる生き物なのですよ……」





 ジョーカーの忠告を受けて、ウルフルンが何を思ったのかは分からない。

 黙って七色ヶ丘中学に向かったウルフルンを、ジョーカーも同じく黙って見送る。

 彼の傍らには、もう数ヶ月間一度も使われていない赤っ鼻が並べられていた。

 そして、中には一度も行使されていないデカっ鼻も……。

ジョーカー「…………」

 その中には、メルヘンランドから奪い取った、たくさんのキュアデコルが眠っている。







 鬼吉姿のアカオーニと合流し、七色ヶ丘中学の校門を通る。

男子生徒「アカオーニ、おはよう!」

赤井鬼吉「おはようオニ」

女子生徒「ウルフルン〜、おっはよぉ!」

ルン太郎「……おぅ」

 二人の“ウルフルン”と“アカオーニ”は、最近になって“ウルフルン太郎”と“赤井鬼吉”のあだ名として定着しつつあった。

 最初は“ウルフくん”だとか“赤井くん”だとか、中には“ルン太”だとか“鬼くん”だとか、様々な呼び方でたくさんの生徒たちから注目を浴びた。

 その最中に、みゆきたちが進んで“ウルフルン”と“アカオーニ”の名を自然に使うようになったため、それが正式に使われるようになり始めたのだ。

赤井鬼吉「…………」

ルン太郎「…………」

 だが、それは所詮“上辺だけ”を見られただけのこと。

 七色ヶ丘中学に通っている一般人の生徒は当然、プリキュアのみんなですら知らないこともある。

ルン太郎「……ジョーカーから聞いたぜ…。昔を思い出したんだってな…?」

赤井鬼吉「オニ…? あぁ……青鬼様に会いに行った時オニ…」

ルン太郎「は? 青鬼様?」

 アカオーニの言ったことは理解できなかったが、アカオーニもウルフルンと同じ気持ちだ。

 自分の存在が、ひどく歪んでいることを自覚している。

赤井鬼吉「ウルフルン。これからどうするオニ? みゆきと、今まで通りでいいオニ?」

ルン太郎「……オレだって男だ。何かしらの答えは返してやりてぇよ…。受け入れるでも、突き放すでも、どっちでも……」

 しかし、それが決断できない理由があった。

 もちろん、先ほどから述べている過去の自分の件も影響していたが、大きな問題はそれだけではない。

 バッドエンド王国から学校に向かう際に述べていた、みゆきのちょっとした変化が原因だった。

 それは、二人が校舎の中に入り教室の扉を開けたところからも、さり気なく始まっている。

星空みゆき「あ! ウルフルンッ、おはよう!」

ルン太郎「……ッ」

 教室に入ってきたウルフルンを真っ先に見つけ、無邪気な笑顔で駆け寄ってくる。

 もう以前のように、頬を赤らめて恥ずかしげに、そして遠巻きに見つめるような動作はない。

 告白したことで吹っ切れたらしく、ウルフルンに対する行動全てが堂々としていたのだ。

 ウルフルンが告白の返事をしていないため付き合っているわけではなく、事実上みゆきの片想い状態なのだが、それでもみゆきは構わないらしい。

 肩の荷を下ろしたみゆきは、完全にウルフルンへの恋心を自覚するより前の自分を取り戻していた。

 否、少しだけ積極的な自分を手に入れたのかもしれない。

ルン太郎「あん? つーか、みゆきッ。その手ぇ何があった?」

星空みゆき「え?」

 ふと気付いてみれば、みゆきの手は何枚もの絆創膏で包まれていてボロボロだった。

星空みゆき「あはは…何でもないよ。あとで教えてあげる♪」

ルン太郎「………?」

 本当に何でもないのか、傷の理由まで素直に教えてくれるらしい。

 とりあえず今は、ウルフルンもアカオーニも教室の扉の前を離れて中に入ることだろう。
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