とある短編の創作小説U

□スマプリ!SP(03)
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 七色ヶ丘市、住宅街。

 休日の街中を全力で駆け抜けていく人影が二つ。

 その内の一つが、トランシーバーを片手にパートナーへと伝達を告げる。

日野あかね「こちらサニー、ハッピーどうぞ!」

星空みゆき『こ、こちらハッピーッ!』

日野あかね「このままヤツをそっちまで追い込むでッ。目標を発見次第、みゆきが思い切って捕まえや!」

 あかねは今回の依頼の“目標”を追っている最中だった。

 しかし一人では目標を捕えることが出来ないため、挟み撃ちの作戦でみゆきの待つ方へと誘導しているようだ。

日野あかね「今や! そっち行ったでぇ!」

星空みゆき「ーーーッ」

 路地を出たところで、あかねとみゆきが顔を合わせる。

 その二人に挟まれる形になった目標も、みゆきの姿を見つけて逃げ足を止めた。

日野あかね「今や! 確保ーーーッ!!」

星空みゆき「ったぁぁぁあああああッ!!!!」

 全身で飛びかかるようにして、みゆきは目標に飛びついた。

 逃げ場を失った目標は、もうみゆきの手に捕まる以外に道はなく、虚しい叫び声を上げる他になかった。

飼い猫「ニャーーーーーッ!!!!」

日野あかね「こちらサニー、ビューティどうぞ」

青木れいか『こちらビューティ』

日野あかね「ハッピーが目標を確保。依頼されてた迷子の飼い猫と見て間違いないで?」

青木れいか『了解しました。また逃げてしまわないように、しっかりと捕獲したまま“キャンディ”の前に集まってください。依頼主にはわたしの方から報告しておきます』

日野あかね「了解」

 あかねがトランシーバーでの報告作業を終えると、みゆきが猫を抱えて立ち上がった。

日野あかね「アジト前に集合や」

星空みゆき「うん」

 この時、既に目標の猫はみゆきの腕の中で大人しくなっていた。







 みゆきたちがアジトに帰ってから数分後、迷子になった飼い猫の捜索依頼を出してきた飼い主の女性が現れ、無事に猫を引き取っていった。

ジョーカー「お疲れ様でした」

星空みゆき「…………」

黄瀬やよい「あれ? みゆきちゃん、どうしたの?」

星空みゆき「……何か…、お仕事のイメージが違う…」

 みゆきは“秘密警察の職務”と聞いたからには、もっと映画やドラマであるような事件性のあるものの捜査を期待していたのだが、ここ数日でみゆきが担当した依頼は以下の通りだった。

 消えかけている横断歩道の修正。

 壁のラクガキ除去。

 コンビニ改装工事の手伝い。

 そして、迷い猫の捜索。

緑川なお「まぁ、秘密警察なんて言っても、あたしたちは女子中学生だしね。警察業よりも“万事屋(よろずや)”みたいな仕事の方が多いんだよ」

青木れいか「それに、例え事件性のある依頼があったとしても、そのほとんどはスパイ染みた潜入捜査です。あの時、みゆきさんと初めて関わりを持った事件の方が珍しいんですよ」

 みゆきが初めて関わりを持った依頼内容は、脱獄犯の強盗事件を制圧すること。

 場合によっては人殺しさえも免除されていた超希少な事件の一つが、偶然にもみゆきと関わりを持ってしまったのだ。

 抱かれるイメージがズレてしまっても仕方がない。

日野あかね「せやけど、油断してたらアカンで? そういう時に限って、ドーンッとデカくて危険な仕事が舞い込んでくるんや」

黄瀬やよい「あー……自分の体験談?」

緑川なお「あったねぇ〜。どんな依頼でもバッチ来いッ、みたいに構えてた時に、ヌードモデルの潜入捜査が」

星空みゆき「ぬ、ヌードモデルッ!!?」

日野あかね「わーわーわーわーッ!!!!」

 かつて、児童ポルノ法違反者の存在が浮上した際に駆り出された依頼で、あかねはこの上ない羞恥を味わった経験がある。

 曰く、あかねがヌードモデルの囮になり、その犯人を誘き寄せてボロを出させる作戦だったのだが、その犯人がエサを与えられた魚の如くあっさりと浮上。

 作戦成功で依頼も完遂できたのだが、まだ彼氏さえも出来たことがないあかねの裸体を、何処ぞの性犯罪者の前に晒すという屈辱を体験したのだった。

日野あかね「アカン……あれはアカンでぇ……。それっからウチ、もう仕事の過小評価が恐ろしゅうて敵わんねん……」

星空みゆき「た、大変だったんだね……」

ジョーカー「んふふ♪ お仕事の恐ろしさを聞いてしまったようですが、生憎と仕事は仕事です。次は“全員参加”でお願いしますよ?」

黄瀬やよい「え! 全員参加ッ」

星空みゆき「……あれ…? そういえば…」

 全員参加、という部分を強調されたため気付くことが出来たが、言われてみれば今までみゆきが関わってきた小さな依頼に全員で取り組んだことはない。

 コンビニの改装工事の際はあかねとやよいの三人で、今回の迷い猫の捜索はあかねとれいかの三人で。

 それ以外はあかねと二人だけで行っただけで、まだ五人全員で出動したことがなかったのだ。

 加えて、上記のように振り返ってみると分かるが、まだなおと一緒に任務に就いたことがない。

 ちなみに、何故あかねと常に一緒なのかと言えば、それにはしっかりと理由があった。





 それは、みゆきが正式に“チームスマイル”に加入した際のこと。

ジョーカー『では、当面の指導者兼任務のパートナーとして……あかねさん、お願いしますね♪』

日野あかね『えええ!? 何でウチが!?』

ジョーカー『だぁってぇ〜、みゆきさんを自分の判断で巻き込んだのはあかねさんでしょ? ワタシたちのことをペラペラと明かしたんですから、それ相応の役目は最後まで、ってことで♪』

日野あかね『せ、せやけど…それはみゆきが他言無用を約束してくれたからで…』

ジョーカー『そ・れ・と、もう一つ……。ウルフルンさんから報告が来てますよ? アナタ、また懲りもせずに警察手帳を作って所持していたそうですねぇ〜?』

 ジョーカーの指摘に、あかねが目に見えてギクッと体を強張らせる。

 滝のような汗を流しつつ苦笑いを浮かべているが、ドミノマスクの向こう側で光るジョーカーの視線はリアルに突き刺さってくるように鋭い。

ジョーカー『困るんですよねぇ〜、こうも簡単に規則を破ってしまっては……。公の警察に、警察を名乗って警察手帳まで振りかざす女子中学生がいる、だなんて補導されてみたら、ワタシの面目も丸潰れなんですよぉ〜』

日野あかね『…………』

ジョーカー『よそ様の“チームスイート”には、まだ小学生の身で危険な捜査を頑張っている子もいるというのに、年上のアナタが馬鹿を見せてどうするんですかぁ〜? 同じ統括総務官のメフィストさんに馬鹿笑いされるのは、アナタではなくてワタシなんですよ? んん?』

日野あかね『………』

ジョーカー『いいですか? これは命令です。みゆきさんのパートナーとして、そして先輩として。しばらくは一緒に活動していただきます』

日野あかね『……はい』





 相棒、と言えば少しは聞こえがいいだろう。

 こうして、みゆきとあかねはセットとして任務枠に当てられることになっていた。

緑川なお「でも、全員参加ってことは、それなりに大きな仕事、ってことだよね?」

ジョーカー「んふふ、その通り♪ みゆきさんが正式に所属して、ここまで大きな依頼は初めてのことです。期待してください♪」

青木れいか「ジョーカー。大きな任務を前に、期待など持っては困ります」

ジョーカー「おや、それは失礼」

星空みゆき「……ねぇ。全員参加って、珍しいことなの?」

 全員参加、の件が浮上してから一気に場の空気が騒がしくなった気がする。

 それほど、今回の任務は今までと質が違うのだろうか。

緑川なお「まぁ、全員が揃って駆り出される任務って言うと、大体が大きな事件性のあるものだったりするからね」

黄瀬やよい「みゆきちゃんが関わった強盗事件も、わたしたち四人だったでしょ?」

青木れいか「任務に出動する人員が多ければ多いほど、大変且つ重要な任務だったりすることが多いんですよ」

星空みゆき「……ッ」

日野あかね「そんで……その大きな任務っちゅーのは? 依頼内容は何なん?」

 あかねの問いに答えるように、ジョーカーは上層部から送られてきた指令書をれいかに手渡す。

 チームリーダーとして、統括総務官から手渡された指令書を読んだれいかが、その内容を把握してから他のメンバーへと伝達していくのだ。
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