〜The Last Decor〜

□27 中学三年生
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 七色ヶ丘中学の校門を目指して、みゆきは朝から全力疾走していた。

星空みゆき「んもう! どうしてキャンディもウルフルンも起こしてくれなかったのよぉ!」

キャンディ「キャンディ、ちゃんと声かけたクル」

ルン太郎「勝手に二度寝したくせに文句言うんじゃねぇよッ。おかげでオレまで遅れちまうじゃねぇかッ」

星空みゆき「うわぁん! 置いてく気だったんだぁ!」

 ちなみに、まだ学校に遅刻する時間帯ではない。

 にもかかわらず、みゆきたちは急いで学校を目指している。

 その理由は……。

日野あかね「あ、来たで」

黄瀬やよい「みゆきちゃーん! ウルフルーン!」

 七色ヶ丘中学の校門には、既にお馴染みの面々が揃っていた。

 みゆきは、みんな揃って新しいクラスを確認してから教室に向かう約束を交わしていたのだ。

青木れいか「おはようございます、みゆきさん」

星空みゆき「おはよう! 遅れてごめんね」

緑川なお「その様子だと、キャンディとウルフルンは巻き込まれた感じかな?」

ルン太郎「言うまでもねぇだろ」

星空みゆき「はっぷっぷー……」

 みゆきの鞄から頭を出したキャンディは、キョロキョロと辺りを見渡した。

 今集まっている面子の中に、マジョリーナとジョーカーの姿が見られない。

キャンディ「マジョリーナとジョーカーは何処クル?」

赤井鬼吉「あの二人は職員室オニ」

星空みゆき「あ、そっか。今年度から転校してくる手筈だったっけ」

日野あかね「せやな。そんじゃ、ウチらだけで先に行こか」

 校門を通って校舎に向かう。

 新しいクラスが記載されたプリントは、校舎前の広場に設置された掲示板に大きく貼り出されていた。

星空みゆき「えーっと……わたしのクラスは……あ! 一組だッ」

日野あかね「お! ウチもやッ」

黄瀬やよい「あれ? わたしも……」

緑川なお「…あ、あたしもだ」

青木れいか「わたしも一組です…」

 もちろん、これだけに留まらない。

ルン太郎「おい、オレも一組だぜ?」

赤井鬼吉「俺様もオニ! みんな一組なんて凄い偶然オニぃ!」

黄瀬やよい「……偶然?」

日野あかね「いや、偶然ってのは……」

緑川なお「う〜ん……」

 もちろん嬉しくないはずがない。

 しかし、若干の怖さも否めなかった。

青木れいか「きっとジョーカーの根回しですね」

星空みゆき「あー、やりそう……」

ルン太郎「ったく、妙なとこだけ徹底しやがって」







 七色ヶ丘中学、今年度の三年一組。

 みゆきたち五人は当然ながら、ウルフルンとアカオーニの二人も割り振られていた。

 そして、教室内で密かに流れ始めている“転校生が二人来る”という噂。

日野あかね「もう明らかやな」

黄瀬やよい「でも、みんなバラバラじゃなくてよかった」

青木れいか「ですが不正は不正です。あとでジョーカーに話しておきますね」

緑川なお「(あ、クラス割りを直させる気はないんだ……)」

 もうすぐ始業式が始まる。

 今年度の担任の先生と挨拶を交わした後、噂に聞く“二人の転校生”と一緒に体育館に向かうのだろう。

 やがて、みゆきたちのクラスを担う先生が教室に入ってきた。

佐々木先生「みなさん、おはようございます」

星空みゆき「(うわー…。ジョーカー、徹底したなぁ…)」

 何となく察していたプリキュアの五人の表情に、大きな驚愕は見られなかった。

佐々木先生「始業式に行く前に、みなさんに二人の転校生を紹介しますね。今年から一年間、一緒に勉強する新しい友達です」

 そして、予想通りの人物が入室してくる。

魔城理奈「はぁい、あたしは魔城理奈。よろしく」

 しかし、予想は“半分だけ”正解に終わった。

 理奈に続いて自己紹介したのは、何処にでもいる普通の女子中学生だった。

張梅まもる「はじめまして、張梅(ハリウメ)まもるです。よろしくお願いします」

星空みゆき「……あれ?」

 予想していなかった事態に、プリキュアの五人の表情は驚愕し硬直した。

 張梅と名乗った少女の隣りに立つ理奈に、いつもと変わった様子は見られない。

 まるで“これが当たり前”とでも言うように堂々としていた。

日野あかね「(え? あの子、誰や?)」

緑川なお「(ってか、ジョーカーは?)」

青木れいか「(おかしいですね……。今年度の三年生に、転校生は二人だけなのですが……)」

黄瀬やよい「(………じゃあ…、あの子の正体って……)」

星空みゆき「(………ぇー…)」

 その結論に達した五人がドン引きしてる傍らで、ウルフルンとアカオーニは転校生に注目していた。

赤井鬼吉「んん? マジョリーナと一緒に来た子は誰オニ?」

ルン太郎「あぁ? たまたま一緒になった一般の転校生だろ。つーかマジョリーナ、用務員とかじゃねぇんだな。ウルッフフフ」

魔城理奈「聞こえてるよ。あとで覚えときな」

 結構のん気なものであるが、実はこれで終わりではない。

 体育館で行われる始業式にて、みゆきたちは更に驚かされることになる。







 今年度より、三年一組の副担任を務めることになった英国出身の新米教師が就任した。

 その事実が明かされた体育館内で、内心あかねはドキッとした。

日野あかね「英国人……」

 とある一件から話に聞いていた。

 この時代とは分岐してしまった未来の話だが、将来のあかねは英国人と結ばれるということを……。

日野あかね「え? じゃあ、まさか……」

緑川なお「あかねぇッ、運命の到来!」

青木れいか「ついに、あかねさんにも……」

日野あかね「え?? あ、いや……ま、まだ分からんし……」

 予想外の連続で心の準備も出来ない中、新米教師の英国人男性が体育館前のステージに姿を見せる。

 もしかしたら未来の旦那かもしれない人を前に、あかねはゆっくりと顔を上げて前を向いた。





ジョーカー「はぁい、みなさん! はじめましてぇ♪ ワタシの名前は“ジョー・カー(Joe・Keer)”と言いま〜す♪」

日野あかね「返せぇ!! ウチのドキドキ返せぇッ!!」

青木れいか「あ、あかねさんッ、いけません!! ジョーカーはわたしのッ、わたしの……ッ」

緑川なお「あー、どうしよう……。どこからツッコミを入れたらいいか……」





 あの新米教師、去年の文化祭に来てなかったっけ?

 などという会話が流れるのも無視して、ジョーカーは転校生ではなく教師として七色ヶ丘中学に赴任してきたのだった。

 ちなみに例の転校生だが、ウルフルンの言い分が的中しており偶然にもマジョリーナと重なっただけの一般生徒である。
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