〜The Last Decor〜

□28 墓場の主
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 お昼時の七色ヶ丘中学、屋上にて。

 お弁当を食べながら、みゆきたちは会話に意識を向けていた。

日野あかね「やっぱり修業や…。それしかあらへん」

星空みゆき「そう、だよね…」

 先日バッドエンドハッピーの襲撃があった。

 しかし、みゆきたちは応戦することが出来ず、どちらかと言えば一方的に押されるだけの戦況をから脱することが出来なかった。

黄瀬やよい「でも、具体的に何すればいいのかな?」

青木れいか「学校で出来ることも限られていますし……」

 プリキュアとして戦えるようになるには、やはり何処かしらで修業の場を設ける必要がある。

 その結論に至ったものの、正確な方法が思い浮かないばかりか場所や時間も定まらなかった。

赤井鬼吉「今あるデコルで何か出来ないオニ?」

キャンディ「デコルの力だけじゃ難しいクルぅ」

魔城理奈「そういう意味じゃ、あたしのアイテムも期待できないね」

ルン太郎「つーか、今時“修業”って……。修行僧ならではの山籠もりくれぇしか思い付かねぇぞ」

緑川なお「………山籠もり…」

 ウルフルンの発言に、なおがピクリと反応を示す。

 どうやら何やら思うところがあったらしい。

緑川なお「そうだよッ、山籠もりだよ! 今のあたしたちに足りない力を絶対に養ってくれるはずッ!」

星空みゆき「え? なおちゃん…?」

黄瀬やよい「ど、どうしたの…?」

日野あかね「あー、何かのテレビにでも影響されたんとちゃう…?」

青木れいか「そういえば、昨夜そのようなバラエティ番組が放送されていたような…」

ルン太郎「…失言だったか」

 世界の果てまで! という掛け声で始まる冒険バラエティに影響されたらしく、なおの意向で山籠もり修行が確定。

 場所など選んでいられない。

 早く以前のような力を取り戻さなくては、危うくなるのはプリキュアだけではない。

 彼女たちは世界の命運そのものを背負っているのである。

 ちなみに、みゆきたちがいる地点の真下。

 七色ヶ丘中学の最上階にて、まもるは一人で昼食を食べていた。

 その耳が聞き取っているのは、みゆきたちの会話の全容だった。

張梅まもる「山籠もり修行かぁ……ふふ、頑張ってね♪」







 放課後になり、教務を終えたジョーカーと出迎えに来ていたジークを連れて図書室に入る。

 修業先に選んだ山へは、不思議図書館を経由して向かうことにしたのだ。

ルン太郎「つーか、山ん中に本棚なんかねぇだろ? どうやって行くんだ?」

青木れいか「千里の道も一歩から。山の麓なら何処かに本棚の並んでいる場所もあるでしょうし、まずはそちらを目指します」

日野あかね「本格的に登山するんか…。ウチら制服やで?」

ジーク「ぼ、僕も…執事服なのですが…」

緑川なお「厳しい条件の方が身が引き締まるよッ。みんな、頑張ろう!」

魔城理奈「一人だけ随分とやる気だねぇ。空回りしないか心配だよ」

 そんな会話を交わす内に、キャンディが不思議図書館までの道を開く。

 不思議図書館に渡った後は、そこを経由して修業の場へと踏み込むのみだ。

星空みゆき「それじゃあ…みんな、行こうッ」

 みゆきの言葉に全員が頷いた次の瞬間、キャンディが開いた本棚の道が輝き出し、この場の全員が不思議図書館へと吸い込まれていった。







 その頃、バッドエンド王国にて。

 各々で自分の拠点を作り上げていくバッドエンドプリキュアの面々の中で、いまだに作業が進んでいない者がいた。

アキラ「僕たちも作業を進めましょう。遅れてしまいますよ?」

BEサニー「……せやなぁ…」

 やる気の感じられない返事だったが、別にやる気がないわけではない。

 理想の拠点像が思い浮かばず、何から手を出していいのか分からなかったのだ。

BEサニー「はぁ〜…ウチはどんなモン作ったらええんや……」

アキラ「それは……あなた様の好きなもので宜しいのでは? 僕は反対の意を唱えませんよ」

BEサニー「それが難しいっちゅーねん」

 先ほどまで適当に遊んでばかりいたバッドエンドピースも、既に自分の拠点造りに行動を始めている。

 完全に出遅れては、みんなのペースにも合わせられなくなるだろう。

アキラ「では、いっそのこと太陽をモチーフに何か考えてみては如何ですか?」

BEサニー「太陽を?」

アキラ「はい。灼熱の大地を渡ってみたり、熱帯雨林を観察したり。あとは、険しい山道や渓谷などの自然界を歩き回るのも何か参考になるかもしれませんよ?」

BEサニー「自然界かぁ……。何やオモロそうやな」

 太陽といえば、確かに自然界そのものを象徴するイメージがある。

 太陽あっての世界である以上、自然界を見て回る分には何か思いつくかもしれない。

BEサニー「よっしゃッ。そうと決まれば行動や! 行くで、アキラッ」

アキラ「はい」

 バッドエンドサニーは、配下のアキラを連れて人間界に向かう。

 と言っても明確な場所までは特定しなかったため、とにかく太陽に見合うような場所とだけ設定して移動した。

 その結果……。



 バッドエンドサニーとアキラの二人は、石造りの狭い通路の中へと放り出された。



BEサニー「……」

アキラ「……」

BEサニー「何や…ここ」

アキラ「さ、さぁ…?」

 自然界どころか、窓が一つも見当たらない。

 薄暗い通路は前方も後方も迷路のように入り組んでいるらしく、現在地から先が見えなかった。

 何処かのアドベンチャーゲームに迷い込んでしまったような錯覚に襲われつつも、とりあえず進んでみることにした。

BEサニー「まぁ、確かに暑いけどな…」

アキラ「湿気もありますね…。窓も扉もない石造りの通路……ここは何処なんでしょうか…」

BEサニー「そんなん進まな分からんわ…」







 みゆきたちの姿は、山の中腹辺りまで到達していた。

 しかし、登山する準備など何一つ揃えていなかった面々は既にクタクタな様子。

ウルルン「ほぉら、頑張れ頑張れ」

キャンディ「ファイト〜クル〜!」

星空みゆき「…もぉ〜、キャンディもウルフルンもずるいよぉ〜…」

 キャンディたちだけではない。

 アカオーニもマジョリーナも、ここでは妖精の姿になって運んでもらっていた。

 そんな中でも、なおはマジョリンの姿であるマジョリーナを頭に乗せたままで誰よりも前へと進んでいる。

緑川なお「ほらッ、みんなも頑張ってッ」

 しかし、声こそ出ているものの顔には疲労が浮かんでいた。

 執事服で登山したせいでダウン中のジークに肩を貸して歩いているあかねに至っては、尋常ではない汗が浮かんでいた。

ジーク「…も、申し訳……ありま、せん…」

日野あかね「ええって……お互い様や…」

 これは修業、と言い聞かせて一歩一歩進んでいるあかねの頭も限界が近い。

 そんな中で、最後尾を歩いているのは意外な人物だった。

 こう言っては失礼だが、オニニン姿のアカオーニを抱えて歩いているやよいが最後尾ではない。

青木れいか「み、みなさん……。申し訳ありませんが、少しだけ待ってください……」

 やよいからずっと離されるようにして、れいかが最後尾を歩いていた。

 その原因は、れいかの左手にある。

青木れいか「ほら、ジョーカー。もう少し頑張ってください」

ジョーカー「……ゼェ……ゼェ……」

 普段、魔法に頼って跳躍を繰り返していた分、自分の足で歩くことがなかったジョーカー。

 こういった登山など初めての経験で、完全に肉体へのダイレクトアタックを食らわされたようだ。

 普通の人間と何も変わらなくなってしまったジョーカーにとって、右手に握ったれいかの左手は命綱以外に例え様がない。

 れいかさんの手を放したら死ぬ。

 この時、ジョーカーはガチでそう思っていた。
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