〜The Last Decor〜
□29 色恋騒動
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バッドエンドプリキュアの目的は、人間界を奈落の底に突き落とすこと。
奈落の審判を名乗る閻魔様コンテューの命によって、人間たちから集めたバッドエナジーを各々の力で変換し、取り入れている。
愛情、希望、自由、勇気、夢。
迫っている世界最後の日を阻止するために、戦いから遠ざかっていた日常から一日でも早く脱さなくてはならない。
しかし……どのような事情を抱えていようとも、まだ彼女たちは女子中学生。
まだ学生である以上、修業ばかりもしていられない。
青木れいか「というわけですので、わたしたちは学業も疎かにしてはいけません」
日野あかね「いや、それは分かるで? せやけど若干一名、別のことに励んでるみたいやねんけど……あれはいいんか?」
ここは黄瀬家の一室、やよいの部屋。
何故この場所に集まっているのかと言えば、あかねの指す当人が勉学とは別のものと向き合っているからだった。
黄瀬やよい「だ、だってぇ〜……。新人応募の漫画作品、締め切りが近いんだも〜ん……ッ」
漫画家を目指して本格的に頑張り始めたやよい。
その姿勢は見事だが、まだまだ両立までに至っていない。
他のみんなは勉学・学業と修業、というスタンスなのに対して、やよいの場合は将来の夢という要素が加わってくるのだ。
星空みゆき「まぁ、こうしてみんなで集まれば色んなことが出来るし」
緑川なお「あたしたちも、勉強ついでにやよいちゃんを応援できるし。やよいちゃんも、勉強の方はあたしたちに頼っていいんだよ?」
黄瀬やよい「みんな〜ッ」
修業はお休み。
今日は、やよいの都合に合わせて黄瀬家で勉強会である。
と、そこでジークが執事な見た目に合わせて紅茶を用意してきた。
ジーク「失礼します。お茶菓子をご用意しますた……ぁッ」
日野あかね「また噛んだな」
ジーク「はぅぅ……」
多少、優秀さに欠けるようだが。
しかし主人格であるジークよりも、裏人格であるハイネの方が修業を含めて戦闘向きな面がある。
こういう平和的な時間には、ジークの方が合っているのだろう。
ちなみに、今この場に妖精組の面々はいない。
さすがにやよいの部屋に全員いても騒がしくなるだけだったため、あっちはあっちで適当に時間を潰すようだ。
そして、その妖精組は今……。
アカオーニ「……暇オニ…」
ウルフルン「まったくだぜ…。この格好じゃ外も出歩けねぇし……」
黄瀬家の庭先にて、ウルフルンとアカオーニはキャンディと一緒に地面に寝そべって太陽を見上げている。
現在“ニンゲンニナ〜ル”を含めて、マジョリーナのアイテムは定期点検中だった。
そのため辺りにはマジョリーナのアイテムが広げられており、その傍らで忙しく作業に集中しているマジョリーナがいる。
キャンディのように妖精の姿でいれば、まだ外を飛び回れる可能性もあるが、逆に言えば誰かに見つかれば最後だ。
キチンと戻ってくれる保証はないし、三幹部の姿に戻れば騒ぎは免れない。
つまり、今のウルフルンたちは黄瀬家の庭先で大人しくしている他に出来ることはない。
そんな時、黄瀬家の一階の居間からジョーカーが声をかけてきた。
ジョーカー「筋トレでもしていてはどうですか? 力を失ったからと言って、怠けていては解決しませんよ〜」
ウルフルン「家ん中で寛いでるヤツに言われたくねぇよ。せめて庭に出てこい」
ジョーカー「んふふ、ざ〜んねん♪ 今のワタシはお仕事中でして、アナタたちのようにのんびりしているわけにはいかないんですよ」
キャンディ「ジョーカーは何してるクル?」
ジョーカー「先日のテストの採点ですよ。それにしても……あかねさんの英語力には笑えるものがありますねぇ〜、んふふ♪」
ウルフルン「教員生活、満喫してんじゃねぇか」
アカオーニ「平和だオニ」
やることもなく空を見上げてばかりいたが、確かにジョーカーの言っていることも頷ける。
このまま時間を無駄に過ごすより、出来る範囲で体を動かすべきだろう。
キャンディ「そりじゃあ、みんなで遊ぶクルぅ♪」
ウルフルン「遊ぶったって、何すんだ?」
アカオーニ「あ! 缶見つけたオニッ。缶蹴りでもしてみるオニ?」
アカオーニが手にしたのは、桃の絵柄が描かれた大きめの缶。
中身がないのか、それとも真空状態なのか、振ってみても中に何かあるような音も異物感もない。
しかし未開封という、何とも不可思議な一品だった。
ウルフルン「…まぁ、やることもねぇしな。じゃあ誰が鬼役だ?」
アカオーニ「もちろん俺様オニ!」
ウルフルン「まぁ、決めるまでもねぇか」
アカオーニが缶を置き、その間にキャンディとウルフルンが身を隠そうと動き出す。
と、その時だった。
アカオーニ「ーーーシュートッオニィィィッ!!!!」
アカオーニが、何故か思いっきり缶を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた缶は宙を舞い、窓の開いていた二階のやよいの部屋へと見事に入り込んでいった。
アカオーニ「やったオニ! 入ったオニぃ!」
ウルフルン「………何やってんだ…?」
アカオーニ「オニ?」
キャンディ「アカオーニ、缶蹴りのルール知らないクル?」
アカオーニ「オニ??」
その頃、窓の外から缶が入り込んできたものの、着地した場所がベッドの上だったため誰も気付かない。
せめて床だったりしたなら、その存在に気付くことが出来ただろう。
星空みゆき「……あれ?」
ベッドの上に知らぬ間に置かれていれば、誰も“窓の外から入ってきた”などと思わない。
星空みゆき「やよいちゃん、ここに桃缶なんてあったっけ?」
黄瀬やよい「え? わたし知らないよ。ジークが持ってきてくれたんじゃない?」
ジーク「ふぇ? い、いえ……僕ではないかと……」
しかし、ちょうどお茶菓子も少なくなってきたところ。
異様に軽いため中身が期待できなかったが、未開封である以上は完全に空っぽということもないだろう。
星空みゆき「せっかくだし、開けちゃおっか」
青木れいか「缶切りは必要ですか?」
星空みゆき「プルタブがあるから大丈夫♪」
カパッ、という軽快な音を立てて缶の口が開けられる。
そのタイミングで、ウルフルンが缶を回収するため部屋へと入室してきた。
ウルフルン「よぉ。悪いが、さっきこっちに缶が入って……」
次の瞬間、ボゥンッ!! と勢いよく缶の中から桃色の煙幕が広がった。
部屋の中に充満した煙が視界を奪い、すぐ隣りに座る人の顔も分からなくなる。
星空みゆき「うわっぷ!! な、何これ!?」
黄瀬やよい「ゲッホゴホ! け、煙ぃ!! もしかして火事!?」
青木れいか「やよいさん、落ち着いてくださいッ。火の手は見受けられませんッ」
緑川なお「とにかく、喚起喚起! 何にも見えないッ」
ウルフルン「痛てぇ!! だ、誰だッ、オレの尻尾踏んだヤツぁ!」
ジーク「ひゃいッ!! す、すみませんッ」
日野あかね「っちゅーか、ウルフルンもやッ! ウチの足踏んだやろッ」
なおの手で窓が開けられ、桃色の煙が少しずつ消えていく。
ようやく視界が戻ってきたところで、慌ただしかった部屋に静寂が戻る。
日野あかね「ふぅ〜……何やねん、もう…」
ウルフルン「おい、大丈夫か?」
日野あかね「ん? あー、ウチは何とか…………」
ふと、あかねが視線を上げてウルフルンを見た瞬間、そのまま凍結したかのように硬直した。
ウルフルン「あん? どうした?」
日野あかね「……ぁ…」
また、窓を開けたなおも、すぐ傍にいたれいかを見てピクリとも動かない。
青木れいか「……? なお、どうしました?」
緑川なお「ぇ……ぁ、ぁ…」
明らかに様子がおかしい。
やがて全ての煙が晴れた時、残りのキャンディたち四人も騒ぎを聞きつけて部屋へと駆け上がってきた。
そこで繰り広げられていた光景は……。