〜The Last Decor〜

□30 ダイエット
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 七色ヶ丘市の商店街。

 買い物に訪れたなおは、あちこちの店を巡りながら買い物に回っていた。

 しかし、その手に渡るものは持ち帰るものばかりではない。

緑川なお「むぐむぐ、もぐもぐ。ん〜♪」

 歩を進めながら肉まんを頬張る。

 買い物に訪れた店の先々でおまけしてもらった食材に加え、食べ歩きにピッタリな食べ物まで貰ってしまうのだ。

 肉まんだけではない。

 ドーナツや団子など、洋菓子も和菓子も関係なくご馳走になる。

 特に断る理由もなければ、純粋な好意で差し出してくれたものを無駄にするわけにはいかない。

 そして実を言えば、朝方にみゆきとやよいの三人で出掛ける用事があり、その時も数ヵ所のスイーツ市場で食べ歩きしたばかりだった。

緑川なお「あ、そういえばお昼も食べてなかったっけ」

 三人でお喋りする時間が終わった後、すぐに夕飯の買い物に出てきてしまっていた。

 昼食は済ませたも同然の食事量を口に運んでいたが、昼食らしい昼食ではない。

 そこで……。

緑川なお「あっかね〜♪ お好み焼き食べに来たよ〜!」

日野あかね「おぉ、いらっしゃいッ」

 お好み焼き屋“あかね”で遅めの昼食タイム。

 買い物袋を傍らに、二枚分のお好み焼きを一気に焼き上げていく。

日野あかね「しっかし、ホンマによぉ食べるなぁ……太らへんの?」

緑川なお「平気平気。運動してるから太る暇もないんだって」

日野あかね「羨ましい限りやで」

 あっという間のお好み焼きを平らげて店を出ていく。

 ようやく帰宅したかと思えば、ちょうど家の前でれいかとジョーカーを見つけた。

緑川なお「あれ? れいかとジョーカーだ」

ジョーカー「おや、なおさん。今お帰りですか」

緑川なお「買い物に行っててね。どうかしたの?」

 見てみれば、れいかもジョーカーも両手に荷物を抱えていた。

 小さなカゴとダンボールに入れられたものは、どうやらフルーツのようだった。

青木れいか「近所の方からたくさんいただいたのですが、生憎と数が多過ぎて……」

 カゴの中には、林檎やオレンジ、バナナに桃などの大き目なものが。

 そしてダンボールには、イチゴやキウイやチェリーなど、パック詰めになった小さなフルーツが並んでいた。

ジョーカー「お裾分けというものです♪ いかがですか?」

緑川なお「ありがとう。うちは家族が多いから、このくらいじゃ困らないよ」

青木れいか「では、失礼ですが上がっていきますね」

 ジョーカーが玄関を開けて、なおとれいかが緑川家に入っていく。

緑川けいた「なお姉、おかえりー」

緑川なお「ただいま」

青木れいか「お邪魔いたします」

緑川ひな「あッ、ジョーカーさん!」

ジョーカー「こんにちは。お元気そうですね〜♪」

 出迎えてくれた緑川家の面々に囲まれながら、れいかとジョーカーも荷物を運び入れていく。

 なおの買い物袋をけいたが受け取り、れいかの持ってきたフルーツ入りのカゴも居間へと運び入れる。

 ジョーカーの運んできたダンボールも台所近くまで持ってきたところで、いくつのかフルーツを手に取ってみた。

緑川なお「せっかくだし、二人も食べていってよ。用意するからさ」

青木れいか「え? ですが…」

ジョーカー「おや、ちょうどいいですねぇ♪ ワタシも小腹が空いていたところです」

 遠慮を見せるれいかと、お構いなしのジョーカー。

 加えて、ジョーカーのことを気に入っている様子のひなは一緒に遊びたいらしく、腰のベルトから手を放そうとしない。

 これでは帰るに帰れなかった。

青木れいか「…では、せっかくなので甘えますね」

緑川なお「うん。適当に寛いでて〜」

 なおは林檎や桃を手に取って包丁を構える。

 そんな食べてばかりの日常は、あっという間に夜を迎えていった。





 そして思い出されるのは、昼間のあかねの言葉。

日野あかね『しっかし、ホンマによぉ食べるなぁ……太らへんの?』

緑川なお「…………」





 なお、絶賛硬直状態。

 風呂上がりの今、何の気なしに乗ってみた体重計が示していた数値は予想外の指針で止まっていた。

緑川なお「……は、針がブレてるから……で、デジタルのやつで……」

 体重計を変える。

 数値に狂いがないように、アナログな針ではなくデジタルの数値で現実と向き合うのだ。

 結果……。

緑川なお「…………」

 なお、絶賛放心状態。

 ちなみに一般的な中学三年生女子の平均体重は五十キロ前後なのだが……なおの体重はろk。

緑川なお「ーーーいやぁぁぁあああああッ!!!! 聞きたくない聞きたくない聞きたくないッ!!」







 バッドエンド王国、そびえ立つ巨大な塔の上。

 塔の外回りを螺旋状に走り抜けていく物資運搬用トロッコが頂上に到着した。

 トロッコに乗っていたバッドエンドマーチの配下である少女ドールは、長い髪を掻き上げながら塔の建築材料を降ろしていく

 お気に入りのロリータドレスが少し汚れてしまったが、言い出したらキリがないので黙っておく。

ドール「今回の分、材料が揃いました」

BEマーチ「ご苦労様」

 トロッコから積荷を全て降ろすと、空っぽになったトロッコが塔の下に向けてゆっくりと下っていく。

 バッドエンドマーチが拠点として作り上げたものは、バッドエンド王国で最も高い場所を頂上とする巨大な塔だった。

 上から下へとトロッコを使って建築を続けてきたが、そろそろ疲労が見え始める。

ドール「……疲れた」

BEマーチ「空腹も限界だな……」

 ここしばらく真面な食事も取っていない。

 誰よりも早く、誰よりも立派な拠点を目指していたがために、自分たちの生活事情が疎かになっていたようだ。

ドール「どうします? 休みますか?」

BEマーチ「……もう一週間の辛抱だ。乗り越えたら、人間界にでも行って休むぞ」

ドール「…………」

 妥協はしない。

 そういう意思を感じ取ったドールは、溜息を吐きながらもバッドエンドマーチの手伝いに戻っていった。
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