〜The Last Decor〜

□32 デコルの心
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 不思議図書館、プリキュアの秘密基地内。

 人間界の時間で早朝。

 目覚まし時計など必要とせず、一秒の狂いもなく目を覚ましたジークは、まずは洗顔と着替えを済ませる。

 シワ一つない執事服に身を包んだ後、この不思議図書館で一緒に暮らしている二人の同居人を起こしに行く。

ジーク「マジョリンさん、ジョーカーさん。朝ですよー」

 三人が別々の部屋を使用しているが、秘密基地そのものが広くないため部屋の中に踏み込む必要がない。

 秘密基地内の何処にいようとも、大きな声を上げなくても、一応は全員の耳に届くくらいだ。

ジョーカー「ん……んん〜……」

マジョリン「朝なのさ……?」

ジーク「朝食の準備も整えました。急がなくては学校に遅れてしまいますよ?」

 これが、ジークによる朝の活動。

 ジョーカーとマジョリンが学校に向かう間、昼頃は基本的に自由だった。

 散歩と称して外に買い物に行くこともあれば、不思議図書館の中を掃除して回っていることもある。

 でも、そんな自由時間も夕方になれば終わりを迎える。

 七色ヶ丘中学の校門前には、いつだってジークの姿が見えるようになっていた。

ジーク「おかえりなさい。今日もお疲れ様でした」

 夕方になれば、学校の授業を終えたプリキュアのみんなを迎えに行くのだ。

 時には下校メンバーとして混ざって歩き、そして時には今日のように、不思議図書館に集まってバッドエンドプリキュアとの戦いに備える会議を開いていた。

ジーク「以前、バッドエンドビューティの襲撃があったことで、この世界にバッドエンドプリキュア全員が個々に現れたことになります」

青木れいか「あの…その件なのですが、あまり記憶がハッキリしていないのです…。何があったのでしょうか…?」

ジョーカー「れいかさ〜ん。世の中には知らない方が身のためという言葉もあるのですよ」

青木れいか「…??」

ジーク「……何があったのかは伏せるとして、これは良い機会です。今一度、バッドエンドプリキュアに従っているデカっ鼻の配下たちについてまとめましょう」

 そう言ったジークは、あらかじめ用意していた五枚の画用紙をテーブルに広げる。

 そこには子供が描いたようなクレヨンによる落書きが描かれていた。

日野あかね「…? 何やこれ?」

ジーク「えーっと……その…、僕が描いた、配下の似顔絵…です」

アカオーニ「似てないオニ。やよいの方が上手いオニ」

ジーク「あうッ」

緑川なお「いや、やよいちゃんの場合はズバ抜けて上手いだけだよ…」

星空みゆき「ジーク、あまり気を落とさないで。ね?」

 慰めの声が逆に痛い。

 それほどジークの描いた配下陣の似顔絵は、お世辞にも上手いとは言えない出来栄えなのである。

ジーク「……と、とにかく…説明を続けます…」



ジーク「バッドエンドハッピーの配下“アーサー”は、チェスの駒を具象化させて、本来その駒の持つ特性を力として振るう能力者です」

 現状では、白い傭兵たちを軍隊として解き放ったり、白馬の女騎士を召喚したりしている。

 加えて、以前は黒い城壁を現出させて盾として使っていた。

青木れいか「では、チェスで用いられる十種類の駒全ての力を振るってくるということですか?」

ウルフルン「おいおい、チェスって十種類も駒があんのかよ……」

ジーク「いえ……デカっ鼻の特性上、その可能性は低いです。ですよね? ジョーカーさん」

 話を振られたジョーカーはすぐに頷く。

ジョーカー「デカっ鼻は、赤っ鼻を強化したものとして生み出したものですが、扱いが非常に難しいのです。実際にワタシたちが使ったとしても、そこから生まれたアカンベェが素直に言うことを聞いてくれたかも分からないくらいです」

 つまり、性能は高いが制御が出来ない。

 元々のデカっ鼻がそんな品質であるならば、それほど多くの手駒を持つことも出来ないだろう。



ジーク「次に、バッドエンドサニーの配下“アキラ”ですが、彼は以前にも話した通りの吸血鬼です。自身の技名などに名残がありましたが、ヴァンパイアをモチーフにした攻撃を得意とします」

 蝙蝠の大群や、死者の魂を操作するなど。

 はたまた“鬼”の名に恥じぬ自身の肉体強化まで振るってきたことが思い出される。

 見た目が温厚な雰囲気を持っているが、中身や実力の程は計り知れない。



ジーク「えーっと……バッドエンドピースの配下“ミラー”なのですが……実を言えば、僕自身も能力を上手く把握していません」

キャンディ「クル? どういうことクル?」

ジーク「単に“情報が少ない”ということです。変身する系統の能力だということは何となく分かっていますが、その可能範囲も発動条件も、恐縮ながら僕も理解していません」

 どういう条件下で能力を発動しているのか。

 そもそも条件という概念の鎖があるのか。

 ミラーの能力に関しては明かされていない部分が多いため、十分な警戒と注意が必要だろう。



ジーク「そして、バッドエンドマーチの配下“ドール”は、みなさんも目の当たりにした通りの蝋燭を操る能力です」

マジョリーナ「んん? あたしらは知らないだわさ」

ウルフルン「オレたちは戦いの場に間に合わなかったからなぁ」

 しかし、プリキュアたちは体験している。

 ドールの両腕から流れ出た蝋は、何体もの蝋人形となって襲い掛かってきたこと。

 ハイネに至っては、顔を蝋で覆い固められて窒息させられたほどだ。

ジーク「戦闘になると狂気を帯びる性格ですし、こちらも十分にご注意ください」

日野あかね「にししッ、せやけど蝋やろ? そんなんウチの炎で一発や!」

黄瀬やよい「あかねちゃんなら大活躍できそうだね♪」

緑川なお「頼りにしてるよッ」

日野あかね「よっしゃ、任せときぃ!」

ジョーカー「…………」

 そう上手くいくだろうか。

 そんな考えが過ったが、変に不安にさせる必要もないためジョーカーは黙った。



ジーク「最後は、バッドエンドビューティの配下“スペード”になります。彼の能力の本質は“声”です」

青木れいか「声?」

ジーク「これも、先ほどのミラーと一緒で詳しいことは分からないのですが、スペードは自身の声を聞かせた者を操る能力者だと思うんです」

 以前、七色ヶ丘中学の屋上で戦った際は草木などの植物を操っていた。

 しかし、そんな力が目に見えて判明しているのに、何故ジークは“そう思う”という表現を使ったのか。

ジーク「これは予想ですが、もしかしたら彼の声には他にも応用性があるのかもしれないんです。少なくとも、バッドエンド王国でハイネとして対峙した時は、その可能性を見ました」

 どうやらスペードの声の力は、単に“誰かを操る”だけに留まらないようだ。



ジョーカー「……さて…、配下のみなさんについては、こんなところですか…」

 バッドエンドプリキュアに忠誠を誓う、デカっ鼻から生まれた五人の配下。

 アーサー、アキラ、ミラー、ドール、スペード。

 まだまだ明かされていない力が多いからこそ、バッドエンドプリキュアばかりに気を取られているわけにもいかない。

 彼女たちの目的を阻止する前に、壁として立ちはだかるのは配下たちの方だ。

星空みゆき「……ねぇ…、そういえば気になってたんだけど…」

 すると、ここでみゆきが何かを思い出した。

 全員の注目が集まる中、顔を上げたみゆきはジークへと視線を向けている。

星空みゆき「ジークの………ううん、ハイネの能力って何なの?」

ジーク「え…?」

 言われてみれば、援護役として支えてくれた場面は何度かあったものの、明確に能力を明かしていなかった気がする。

 アキラ戦の際は腕力を指摘され、ミラー戦ではピースの攻撃に巻き込まれても涼しげな顔をしていた。

 ジークの裏人格であり、戦闘専門であるハイネの持つ能力とは一体何なのだろうか。

ジーク「……この姿の僕は無力ですからね…。説明するのも、何だか申し訳ないというか…少し変な気分です…」

 あくまでもハイネの能力であるせいか、ジークはハイネの能力を自分の口から説明することに苦笑いを浮かべた。

 だがジークもハイネも、同じ肉体を共有している。

 ハイネの能力ならジークだって心の底から理解しているのだ。

ジーク「ハイネの能力、お教えしましょう」





ジーク「ハイネの力は“無痛無感の特性”を加えた、力技の肉体強化能力者なんですよ」
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