モンスター・ロバーズ!

□第00話 船内に響く“異”たちの声
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 賊軍、と聞いて何をイメージするだろうか?

 山に潜む山賊、海を渡る海賊、空を飛ぶ空賊。

 総称して、盗賊たる軍勢が“賊軍”というものだ。

 この世界には珍しくもない。

 むしろ、賊軍による被害など一日に何百件も起きているような世の中だ。

 世界各地で数多の賊軍が暴れまわっている理由は、たった一つしかない。



 無理難題など関係なく、文字通り“どんな願い”でも叶えてしまう伝説の秘宝。

 “幻の魂”を見つけ出すため。



 それが手に入れば、叶わぬ願いなど何一つありはしない。

 世界征服もできる、お金持ちになれる、不老不死になれる。

 家族の病気を治してあげられる、亡くなってしまった最愛の恋人を生き返らせてあげることもできる、最高の友達を作ることもできる。

 望み通りに背を伸ばすこともできる、ダイエットにだって100%成功する、誤って捨ててしまったゲームソフトだって戻ってくる。

 普通では叶わない望みや、どんなに小さくて下らない望みだって関係ない。

 本当に何でも叶ってしまう伝説の秘宝“幻の魂”を求めて、数多の賊軍は世界中を飛び回るのだ。





 “幻の魂”が、どんなものなのかも知らないくせに。





 実際、それを見つけ出した者はいない。

 確かに存在していた、という古い歴史として残っているものの、どんな形をしているのか、どれほどの大きさなのか、そもそも目に見えるものなのか、一切の情報が謎の秘宝。

 だが、必ず実在している。

 それだけを頼りに、この世の賊軍はロマンと野望と執念の赴くままに、伝説の秘宝を求めて盗みの仕事を怠らない。



 これは、そんな賊軍が己の野心を胸に世界中を徘徊している世界の物語。

 山にも海にも空にも領域を置かない“普通ではない”賊軍の物語。

 “異賊”という賊軍に分類される、クセ者揃いの物語。

 怪物だらけの、物語……。







 とある海賊船の船内。

 メインマストに張られた帆が、追い風を受けて前進している現在。

 船首付近にて、のんびりと昼寝を堪能している男が一人。

 Yシャツを一枚だけ着た20代の男性で、短い黒髪に短い顎ヒゲ。

 見るからに倦怠感溢れる体勢で眠っているが、こう見えても彼は航海士。

 船の行き先は彼が一番把握している。

????「やあ、調子はどうだい?」

 昼寝中の彼に、遠慮なく声をかけてくる別の男性。

 満州族の帽子と衣服(清朝時代の中国の正装)に身を包んでいる彼は、男の傍まで近付いてくる。

 眠りが浅かったのか、単に起きたばかりなのか、そのタイミングで昼寝中だった男が目を開けた。

起床した男「……キルサンか」

キルサン「おはよう、ウリヤン」

 ウリヤンと呼ばれた男は身を起こして伸びをする。

 キルサンと呼ばれた男は、そんな彼を見て船の進む先を見据える。

キルサン「それで、どうなのかな? 次の島に着くのはいつ頃?」

ウリヤン「…………」

キルサン「……? ウリヤン?」

 憂鬱そうに頭を掻きつつ何も返答しないウリヤンに、キルサンはとりあえず名前を呼ぶ。

ウリヤン「次の島、なるべく行きたくなかったんだよなぁ……」

キルサン「あぁ、行ったことある島なんだね。でも、そこに立ち寄らないと食料が尽きるよ?」

ウリヤン「…やれやれ。仕方ねぇか」

 身を起こしていただけの体勢から、スゥッと立ち上がるウリヤン。

 船内にいる仲間たちに聞こえるように、なるべく大きな声で呼びかけた。

ウリヤン「下降! 海に戻るぞぉ!」

 船内から、りょうか〜い、と女の子の声が聞こえる。

 解説していなかったが、実はこの船が進んでいるのは海ではない。

 船の下を覗いてみれば、そこに広がるのは一面純白の世界。



 この船は、雲の上を進んでいたのだ。



 やがてゆっくりと船体が雲に沈んでいき、辺り一帯が雲に包まれて何も見えなくなる。

 そんな視界ゼロの空間から抜け出した時、眼下に広がるのは青色の海。

 海面に向かってゆっくりと下降していく船体の上で、ウリヤンとキルサンは前方の水平線に小さく見えている島に注目していた。

キルサン「上陸、嫌?」

ウリヤン「嫌」

キルサン「即答したね。でもダメだよ」

ウリヤン「やれやれ……」

 船首付近で会話する男二人に、ポテポテと足音を立てて近寄ってくる少女が一人。

 桃色のサイドテールに眠そうな目元。

 ミニスカートにニーソックスという、至って普通の外見をした少女だが、彼女も立派なこの船の一員。

 というか、ぶっちゃけ副船長である。

キルサン「ワルワラ副船長。今日の調子は?」

ワルワラ「お腹、空いた…」

ウリヤン「上陸したら腹いっぱい食ってこい。どうせ直ぐに空くんだろうけどな」

 食いしん坊気質な空腹少女の対応には慣れたもので、副船長だとか航海士だとか、そんな役職など関係ない。

 仲間である事実以外に、彼らには立場など関係ないのだ。

ウリヤン「キルサンは買い物だろ? 食料系は任せたぜ」

キルサン「言われるまでもない。船内のコックとして、最高の食材を買い占めてくるよ」

ワルワラ「じゅるり……」



 この日、彼らが上陸する、前方の水平線に小さく見える島にて。

 一つの物語が動き始める。

 その島で、一体何が待ち受けているのか……。

 彼ら賊軍の物語は、その島で起きた事件から一新して回り始めていく。



  【本編・2013年03月03日、公開予定!】
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