モンスター・ロバーズ!
□第01話 異賊の船旅
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大海原の波に任せてユラユラと突き進む、一隻の大きな海賊船。
とはいえ、海賊船、と言われると海を渡っていく賊軍の船、というイメージが沸くはずだ。
しかし、この海賊船は“普通の海賊船”ではない。
ある時は、船体ごと大空へと浮遊して雲の上を進み、あろ時は、船体の下部から駆動式の四輪が顔を出して山道を進む。
更に、帆を畳み、船内への侵入通路を完全に戸締りすれば海底へ潜水することまで可能なのだ。
船員たちは賊軍だ。
しかし、何も“海賊”の枠だけに留まらない。
ある時は海賊になり、ある時は空賊になり、ある時は山賊になる。
そんな普通ではない賊軍である彼らを、人は“異賊”と呼ぶのだとか……。
朝。
船内に五つ存在する寝室の一つ。
寝ぼけ眼で寝台から上体を起こした少女は、ゆっくりと立ち上がって寝室を出る。
ペタペタと裸足で船内の廊下を進み、広めの食堂へと続く扉を開ける。
すると、既に人数分の朝食の準備をしていた男と顔を合わせた。
中国人の正装に身を包んだ、常人より肌の色が青白い男性。
動く必要のない過程でも常に足踏みしたりと、常に動きっぱなしな動作にも見慣れてきた。
額にお札を貼り付けている料理人“キルサン”は少女の存在に気付くとニコやかに挨拶した。
キルサン「おはようございます、イリヤお嬢様」
イリヤ「………おはよぅ…」
イリヤ、と呼ばれた少女は眠い目を擦りつつ挨拶を返す。
キルサンの作る朝食は、まだ完成していない。
キルサン「朝食は今しばらくお待ちを。先に洗顔を済ませてきてください」
イリヤ「……おぉ…」
ペタペタと食堂を出ていくイリヤは、そのまま洗顔所へと向かっていった。
この船内には数人の船員が乗り合わせている。
今のところは十人以下だが、船長曰く“徐々に増えていくだろう”とのことだ。
すなわち、当然ながら朝の身支度を済ませる過程に含まれる洗顔も、何人かの船員と顔を合わせることになる。
洗顔のためだけに設けられた部屋にて、イリヤは二人の少女と早速顔を合わせることになった。
チョコパフェ味、と表記された歯磨き粉を片手に現在進行形で歯を磨いているのは、サイドテールにミニスカートの少女。
イリヤと同じように眠たげな眼をしているが、彼女にとってトロンとした眼元は日中も変わらない。
元々がそういう目付きなのだ。
そして驚くことに、彼女“ワルワラ”がこの船の副船長だったりするのだ。
ワルワラ「おふぁよー、イヒア」
イリヤ「口を濯いでから話せ……おはよう」
ポケーッ、とした様子で挨拶された様子から考えて、どうやら今は本当に眠かったのかもしれない。
そんな二人の挨拶を眺めて、もう一人の少女がクスッと笑った。
イリヤ「グルナラ、何かおかしかったのか?」
グルナラ「ううん、何でもないの。おはよう、イリヤちゃん」
イリヤ「あぁ、おはよう」
グルナラと呼ばれた少女も、ワルワラと同じように歯を磨き始める。
この船内にて、最も幼い少女たち三人が同じ空間に集まっていた。
イリヤは、キルサンの発言から察することができるのだが、いわゆる“お嬢様”だ。
否、この船内にいる以上は“かつてお嬢様だった”という方が正しいだろう。
この船に乗っているのは異賊と呼ばれる賊軍なのだから。
まぁ、捕らわれの身であるなら話は別だが、仲睦まじい三人の様子から可能性は低い。
イリヤ「……食堂に戻る」
ワルワラ「わはひも…」
イリヤ「まずは口を濯げ」
グルナラ「えぇッ、二人とも早いよぉ」
グルナラ以外の二人が歯磨きと洗顔を終え、食堂へと向かっていく。
別に二人が非道なのではない。
確かにグルナラは寂しがり屋かもしれないが、彼女が一人きりになることは“絶対に”ない。
いつの間にか、グルナラの隣りには一人の少年が立っている。
グルナラ「えへへ。ボリスと二人っきりになっちゃった……」
ボリス「嬉しいのか嫌なのか、その反応は分かりにくいぞ?」
ボリスと呼ばれた少年は、グルナラの双子の兄妹である。
見た目の容姿も身長も何もかもが異なっており、とても双子には見えないのだが、二人は確かに双子である。
余談だが、たまに姉弟になると言っているが、その詳細はあまり語ってはくれない。
グルナラ「ところで、いつからそこに立ってたの?」
ボリス「……いつでもいいだろ?」
また、ボリスは恐ろしい程に神出鬼没である。