モンスター・ロバーズ!

□第03話 世界を知らないお嬢様
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 その昔、この町は世にも恐ろしい怪物に襲われたことがあった。

 その際に、スカルディーナ家も怪物たちの餌食となった。

 当時、まだ幼かったイリヤは、母の腕の中で泣き喚くことしかできなかった。

 その鳴き声を聞きつけた一匹の怪物が、イリヤを死ぬまで守り抜いた母親を食い殺した。

 イリヤの脳裏に焼き付いた怪物の姿は、真っ黒な犬のようだったという。







ウリヤン「そいつぁ、ヘルハウンド、っつー妖精の一種かもな」

イリヤ「妖精だと?」

ウリヤン「聞こえは良いが、不吉の象徴だぜ? 現に、お前の母ちゃんは殺されちまったんだろ?」

イリヤ「………もう少し気を遣って話せんのか…」

ウリヤン「あー無理無理。スッゲェ苦手分野」

 まだ子供だというのに、大好きなお母さんの死を語っても、つらそうな様子を見せないイリヤ。

 無表情だったり、気を遣え、と言ってくる辺りから平気ではない内面が垣間見えるが、それでも子供にしては立派な方だろう。

イリヤ「……いつか、外の世界に飛び出したら、そいつを捕まえて仇を討とうとも思った……。まぁ、屋敷に縛り付けられていては、仕方ないのだがな……」

ウリヤン「…………」

 重い空気の中、二人はスカルディーナ家へと到着した。

 見覚えのある門前に、イリヤの安心感も倍増する。

イリヤ「…世話になったな」

ウリヤン「今回限りっつったろ? もう会うことはねぇよ」

 ウリヤンがそう言ってイリヤを屋敷に返そうとした時だ。

柄の悪い男「見〜つけた♪」

ウリヤン「あん?」

イリヤ「……ッ!」

 あの時の男たちが人数を増やして現れた。

 どうやら待ち伏せしていたらしい。

柄の悪い男「驚いたぜぇ、お嬢ちゃん。まさかスカルディーナ家のお嬢様だったとはなぁ〜」

イリヤ「……う…ッ」

ウリヤン「何? 友達? もうちっと選んだ方がいいんじゃない?」

イリヤ「友達わけがあるかッ!!」

 ウリヤンの態度が気に入らなかったのか、男たちのリーダー格がズイッと前に出る。

柄の悪い男「よぉ、おっさん。俺たち、その子に用があんだけどさぁ……邪魔だから消えてくんない?」

ウリヤン「おっさん、て……。俺まだ一応20代なんですけど」

柄の悪い男「どうでもいいこと吐いてんじゃねぇぞ、ゴルァ! ブッ殺しちまっても構わねぇってか?」

 ナイフを見せつけて脅してくる男に、ウリヤンは表情を変えずに言い返した。

ウリヤン「殺せるもんなら殺してみれば?」

柄の悪い男「…………ナメやがって」



 瞬間、リーダー格の男とは別の男がバットを振り上げ、ウリヤンの頭を思いっきり殴り倒した。



 ズガァンッ!! という重く響く音と共に、抉れた頭部から血が流れ始める。

イリヤ「ーーーウリヤン!!?」

柄の悪い男「ケッ、口ほどにもねぇ……。何が、殺せるもんなら殺してみろ、だ……。殺せるもんだから殺してやったよ」

イリヤ(……こいつら…、イカれてるッ)

 目の前で撲殺が行われた恐怖。

 この後の自分の末路を想像して更に恐怖する。

 その表情を感じ取ったのか、周りの男たちもニヤニヤしていた。

 と、その時。

 男がウリヤンの持っていた大きめの財布に目を付けた。

柄の悪い男「お、何それ? 金目のモンかぁ?」

イリヤ「……こ、これはダメだ!!」

 男たちの手に渡る前に、イリヤはウリヤンの財布をギュッと抱えた。

柄の悪い男「おぉ、当たっちゃった系? お兄さんたちにも恵んでくんねぇかなぁ〜?」





ウリヤン「悪りぃ、そいつぁ出来ねぇ相談だ」





 地べたに寝そべったまま、ウリヤンが静かに呟いた。

 ギョッとした男がウリヤンへと視線を落とすと、ウリヤンの首がゴキボキバキッと音を立てる。

 結果、ウリヤンの首は180℃回転して真上を向いた。

 抉れていた頭部がグジュグジュと音を立てて再生し、流れていた血が一滴も残さずに傷口へと戻っていく。

イリヤ「ーーーッ!?」

柄の悪い男「ーーーな、何だテメェ!!?」

ウリヤン「何だ、って言われてもなぁ……。答えに困っちまうんだよ、これが……」

 マネキンが起き上がるように、手も使わずにスーッと足首だけで起き上がるウリヤンに、何人かの男たちが腰を抜かして尻餅をつく。

 呆然とするイリヤを前にして、ウリヤンは首をゴキゴキと鳴らしながら溜息を吐いた。

ウリヤン「俺って奴は一体何者なのか……。その答えは、この俺自身が一番知りたがってるからなぁ……」







 町角のラーメン屋。

 既に三十は超えている丼を山積みにしている上に、まだ注文を続けている少女がいた。

ワルワラ「…おかわり」

ラーメン屋「へ、へいッ」

 そんな少女の隣りに座っている中年の男性が、酒を片手に呆れた声を上げていた。

バフィト「ワルワラぁ、もう止めときなって。それ以上食べると、夕飯が入らなくなっちゃうよ?」

ワルワラ「安心して、バフィト。その時間になったら、ちゃんとお腹は空いてるから」

バフィト「……冗談じゃないから怖いんだよねぇ、それ……。今回の稼ぎに期待しとかないと」

 大柄な体格の中年男性と小柄な少女。

 見た目の年齢を考えれば、まるで親子だ。

 しかし、その容姿は似ていない。

バフィト「そういえば、ウリヤンは随分と遅いねぇ。換金に時間がかかってるのかな?」

ワルワラ「………もしくは、何かの事件に巻き込まれてるか…」

バフィト「……まいったねぇ…。お酒飲んで時間潰してようと思ったのに、迎えに行かなきゃマズいかな……」

ワルワラ「おかわり」

バフィト「ワルワラ〜、もうそこでストップねぇ〜、割りとマジで」
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