モンスター・ロバーズ!

□第04話 世界を知らないお嬢様
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 イリヤを背に庇って立つ執事長と、身構えもせずに対峙するウリヤン。

 用件は簡単だった。

ウリヤン「俺は財布を返してもらいに来ただけなんだよ……。それ以外は何もいらないって」

執事長「騙されませんッ。そう言って、お嬢様の身柄を狙う連中を、今まで何人見てきたと思ってるんですか!」

ウリヤン「知るかよ、そんなもん……」

 イリヤはウリヤンを見据える。

 賊軍とは、金品を奪って生活している奴ら。

 ウリヤンは、高額の品々を換金して金を手に入れていた。

 そしてウリヤンは、人間とは思えない常識外れの体をしている。

 あれは人間の枠を易々と越えた、怪物の域だった。

イリヤ「………ウリヤン……、お前は…」

 と、イリヤが切り出そうとした時だった。



 廊下に敷かれていたカーペットが捲れ上がり、突如、中から一人の男の子が現れる。

 その手には、この屋敷の物と思われる豪華な金品が抱えられていた。



執事長「……は?」

ウリヤン「お、ボリスか。仕事は終わったのか」

ボリス「あぁ、たった今な」

 スカルディーナ家の財宝を抱えた少年、ボリス。

 仲良く会話しているウリヤン。

 どう見ても仲間意識バリバリだ。

執事長「ーーーど、泥棒だッ!! 貴様ら、賊軍だな!!」

ウリヤン「あー、否定はしねぇよ。つーかイリヤ、俺の財布を返せっつーの」

イリヤ「え、ぁ、あ?」

 大急ぎで警備の連中に連絡を送っている執事長は、完全に気が動転している。

 執事長の様子など無視し、イリヤはウリヤンへと財布を返却するために静かに近付いた。

 そして無事に財布を手渡す。

ウリヤン「ありがとよ、じゃあな」

 軽く言葉を交わして、ウリヤンはボリスと呼んでいた少年と共に廊下の窓枠に飛び付こうとした。

イリヤ「待て! ウリヤン、一つ聞かせろ」

ウリヤン「あん?」

 今にも屋敷から出ていこうとするウリヤンを止め、イリヤが質問しようとした矢先。

 ウリヤンたちが掴んでいた廊下の窓が、全て外側から砕かれる。

 パリーンッ!! とガラスの破片を撒き散らして飛び込んできた二つの人影には、さすがに全員が驚いた。

ウリヤン「おぉ、ビビったぁ……。バフィトとワルワラか……」

バフィト「やぁ〜、まいったねぇ…。登場はダイナミックの方がカッコイイと思ったんだけど……。タイミングを逃したかな」

ワルワラ「ウリヤン、お腹すいた。早く船に戻ろう」

イリヤ「……ッ」

 飛び込んできた二人も、ウリヤンの仲間。

 というか、一応ここって三階なのだが、どうやって飛び込んだろだろう。

 そんな謎は、すぐに答えを知ることができた。

バフィト「そんじゃ、さっさと帰るとしますかね。しっかり俺に掴まってなッ」

 ガラスの割れた窓枠に足をおき、皆へと背中を見せるバフィト。

 その瞬間、彼の背中からドラゴンを思わせるような黒い翼が勢いよく噴出する。

イリヤ「……ッ!?」

ウリヤン「あぁ、イリヤ。お前の質問だけど、何となく分かるぜ。俺たちは一体何者なんだ、だろ?」

 ワルワラとボリスがバフィトの背中に掴まり、ウリヤンも手を添えた。



ウリヤン「俺たちは、賊軍だ。それも、普通の連中が集まってる賊じゃない……。いわゆる“異賊”ってやつなのさ」



イリヤ「…異賊……」

 執事長が呼び出した警備班が廊下の向こうから走ってくる。

 既に失神寸前までパニックを起こしている執事長になど構わず、イリヤは屋敷から飛び出そうとするウリヤンたちを呆然と眺めていた。

 話を聞く限りでの賊軍とは恐ろしい存在かもしれないし、ウリヤンたちの異常さには確かに恐怖する。

 だがイリヤの目には、直感では、今までに感じたこともない興奮と好奇心がウズウズと暴れていたような気がする。

 だからこそ、ウリヤンの袖を掴んで思わず叫んでいた。

イリヤ「ーーーわ、私も連れていけッ!」

ウリヤン「……あぁ?」

イリヤ「お願いだ! 外の世界の怖さは思い知ったッ。だけど、それが全てじゃない! まだ私は、本当の外の世界など何一つ見てはいない! だから、私はお前たちと一緒に、外の世界を旅していきたいのだ!!」

執事長「ーーーお嬢様!! 何ということを!!」

 大慌ての執事長など眼中に入れず、イリヤの叫びを聞いたウリヤンは、少し黙ってからバフィトに話を振る。

ウリヤン「どうするよ? また一人、船員に追加するか?」

バフィト「ははは、俺は歓迎するよ。仲間が増えることに、悪いことはないからね」

ウリヤン「……決まりか…、イリヤ」

イリヤ「……?」



ウリヤン「……飛ぶぞ! しっかり捕まってろ!!」



 バフィトの翼が大きく広がり、ワルワラとボリスを背に乗せて夜空へと飛び立つ。

 続いて、フワッと宙に浮いたウリヤンがイリヤを抱えてバフィトの背を追っていく。

イリヤ「ーーーう、ウリヤン!! お前、空も飛べるのか!?」

ウリヤン「出来ねぇことの方が少ねぇんだよ、俺は」

 当たり前だが、イリヤは空を飛んだことなどない。

 そればかりか、まともに外の景色を見たこともない。

 夜景とは言え、自分が暮らしていた町並みを空から眺める経験など普通の生活ではあり得なかっただろう。

執事長「お、お嬢様を救出するのだ!! 何としてでも助け出せぇ!! あの賊軍を撃ち落とすのだぁッ!!!!」

ウリヤン「めちゃくちゃ言ってるぞ、あの執事のおっさん」

バフィト「仕方がないねぇ…、あちらさんの流れ弾がお嬢ちゃんに当たったら大変だし…。そろそろ船を呼んでおこうか」

イリヤ「…船……?」

 船を呼ぶ、という言葉の意味が分からなかったイリヤだが、その答えもすぐに判明する。

 彼らに、一般常識など通用しないのだ。

 夜空に飛び出して浮遊していたウリヤンたちの前方より、夜空の雲の中から一隻の帆船がゆっくりと降りてきた。

 空中に浮かぶ飛行船のようだが、その姿は海賊船が一番近い形にも見える。

 まるで雲という名の海を進んでいたらしき海賊船は、空中という名の波に乗って浮遊中のウリヤンたちへと近付いてくる。

イリヤ「……あれはッ!?」

ウリヤン「俺たちの船だ。あれに乗って、世界中を旅してんだよ。乗船するから、しっかり掴まってろよッ」
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