中二病でも恋がしたい! Cross

□第03話 某昔話
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 190pくらいの長身のため、立っていようとも少し見上げる形になる。

 勇太たちを見回している二階堂先生に、勇太たちも何を話していいのか分からなくなってしまう。

 そんな空気の中、開口一番を切り出したのは二階堂先生だった。

二階堂啓壱「えーっと、丹生谷くんていうのはどの子かな?」

丹生谷森夏「え、あ、はい。私です……」

 急に名前を呼ばれたので、驚いてしまった様子の丹生谷だったが、すぐに冷静を装った。

二階堂啓壱「九十九先生からお届けモンだよ。まぁ、俺からってことでもいいんだけど」

 そう言って差し出した一枚のプリント用紙。

 そこには校長とナナちゃんと二階堂先生の認印が押されていた。

丹生谷森夏「……え? 同好会、存続!!?」

二階堂啓壱「そゆことー。俺がこの同好会の責任者になる形で、話だけは片付けといたよ。これで潰されることはない」

 極東魔術結社昼寝部の夏、存続決定。

 昨日まで問題となっていた事項の一つが、二階堂先生の申し出によって呆気なく解決してしまった。

二階堂啓壱「部活動に例えるなら、俺は顧問みてぇなモンだ。まぁ、養護教諭が顧問になるのも異例だし、あくまで同好会としてな。活動内容は学校行事の雑用全般ってあったけど、あれは変更しなくてもいいよな?」

丹生谷森夏「え、あ、いや、その、それはいいのですけれど……、どうして責任者に……?」

 肝心なところは、そこである。

 二階堂先生にメリットが感じられない。

 勇太たちには良いことでも、二階堂先生にはどんな企みがあっての行動なのだろうか。

二階堂啓壱「それを話しに来たんだよ。まぁ、富樫くんや小鳥遊くんから話は聞いてると思うし、それなりの身構えは出来てそうだからな」

富樫勇太「……ッ」

 やはり、昨日の一件が目的のようだ。

 二階堂先生は、確実に何か重要なことを知っている。

富樫勇太「あの……、昨日のことは……」

二階堂啓壱「それも含めて話してやるさ、富樫くん…………いや……」



二階堂啓壱「“闇の炎の使い手(ダークフレイムマスター)”って、呼んだ方がいいのかな?」



富樫勇太「ーーーその名前ッ!!?」

 驚愕する面々を前に、二階堂先生は抱えていた紙袋の中を漁っていく。

 中から出てきたのは、お菓子の山だった。

二階堂啓壱「お土産も持参した。これ食いながらゆっくり語らせてもらうか。昨日のことで、疑問も尽きないだろうしな」

 皆の前で広げたお菓子の山からビスケットの袋と取り、袋を開けながら皆にも促す。

 好きなの食べてもいいよ、というジェスチャーなのだが、生憎と皆は警戒を解けない。

小鳥遊六花「昨日のこと……詳しく話して、くれますか……?」

 おずおずと敬語で尋ねた六花に、二階堂先生はビスケットを口でくわえてニカッと笑う。

二階堂啓壱「もちろん。でもその前に、ちょっとした昔話を聞いてもらおうかな」

一色誠「昔話…?」

二階堂啓壱「そう。とある中二病患者にまつわる、真面目だけど馬鹿げている、本当にふざけた昔話さ……」







 何年も前のこと。

 一人の少年が中二病を患っていた。

 そのことで虐められ、孤立し、一人寂しく孤独な生活を送っていた。

 そんな思いをするのは、自分自身に問題があるではなく、中二病を受け止められない世間にあると思い至ってしまった。

 そんな世間は、壊してしまおう。

 中二病でも明るく前向きに過ごせる、そんな理想郷に作り変えよう。

 思い至ったが吉日、少年はその欲望の末に“中二病の設定を現実にする術”を習得してしまった。

 少年は自分と同じ考えを持つ同志を集め、最も強力な中二病の設定を持つ三人を選び抜き、自分を含めて“四天王”を名乗るようになった。

 それがただのお遊びなら問題視されないが、彼ら“四天王”と集結した同志たちの目的は無視できない内容だった。





 中二病でも堂々と街を歩ける理想郷を作るために、中二病以外の“一般人を皆殺しにする”こと。





 その少年を筆頭に、彼らは日本全国で殺害活動を始めるようになってしまったのでした。







二階堂啓壱「とまぁ、昔話はこれで終わりだ」

 話を聞いていた皆の反応を一言で表すなら、ポカ〜ン、である。

富樫勇太「あの……何ですか? その話」

二階堂啓壱「今のは過去にあった実話と、今現在の状況を結ぶ解説みてぇなモンだ。つまり……」



二階堂啓壱「中二病の設定をリアルで振り回してる連中が、一般人を狙って殺人を行ってる。そう言ってんだよ」



 さすがに冗談でも笑えない内容に、丹生谷が声を荒げた。

丹生谷森夏「ふざけないでください! もし仮りにそんなことが行われているなら、とっくに大きな事件になっているはずです! それに、中二病の設定が実現するとか、訳が分かりません!」

二階堂啓壱「事件にならなってるさ。近頃、失踪事件や殺人事件が頻繁に起こってるのは知ってるだろ?」

一色誠「……あ」

 一色が昨日話していたことを勇太も思い出した。

 確かに、最近になって一部の誌面を騒がせていたのは事実だ。

丹生谷森夏「で、でも! 中二病だとか皆殺しだとか、生徒に話す内容としてはおかしいです!」

二階堂啓壱「論より証拠、ってやつか。よし、ちょっと見てなさい。丹生谷くん………いや、モリサマー」

丹生谷森夏「も、モリサマーって言わないでください! てか、何でその名前!!?」

凸守早苗「そうデス! こいつはモリサマーではなく、偽者なのデス! 偽サマーデス!」

二階堂啓壱「え? マジで?」

富樫勇太「話を戻してくれませんか……?」
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