SRP:妹達共鳴計画U
□Data.06 九月十三日
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学園都市の上空を飛ぶ飛行船がニュースを伝える。
今日は、第二十三学区にある“とある建築物”についての話題だった。
『三年間秘匿状態で建築が進められていた、学園都市初の宇宙エレベーターですが。先ほどその名称が“エンデュミオン”と発表されました。エレベーターを開発、建築したオービットポータル社によると……』
飛行船のニュースを聞いた一方通行は、無意識に第二十三学区を見やる。
第七学区のここからでも分かるほど、超巨大な建築物が空高く伸びている様子が見える。
一方通行「開発中のアレ……宇宙エレベーターだったのか。つーか宇宙まで行って、学園都市は何考えてンだか……」
考えたところで答えが出てくるわけでもない。
一方通行は目的地である病院の庭に着くと、すぐにミサカ3709号を見つける。
その手には何かが握られていた。
一方通行「あン? オイ、何持ってンだ」
03709号「あーぅ」
グッ、と何かを見せつけてきたミサカ3709号の手には、一匹の昆虫が握られていた。
いや、正確には昆虫“だったもの”だろう。
一方通行「…………」
おそらく捕まえた際に強く握ってしまったのか、その胴体は押し潰されていた。
加えて不自然なことに、その昆虫は握られていないはずの部分……頭が無くなっていた。
察するに……。
一方通行「………食ったのか…」
03709号「うー?」
言葉を上手く理解できないのか、ミサカ3709号は首を傾げる。
しかし、彼女の前歯には何か緑色のドロッとしたものがチラッと見え隠れしていた。
一方通行「ったく、気色悪りィ。もォそいつを離せ」
03709号「ぉー」
ポイッ、とミサカ3709号は握っていた昆虫だったものを庭に捨てる。
素直な行動に見える反面、もう興味はない、と態度で示して打ち捨てている行動にも見える。
一方通行「……帰るぞ。病室に戻れ」
03709号「あーう!」
病院内に戻ろうと背を向けた一方通行に続き、ミサカ3709号はタッタと一方通行の真横に駆け寄る。
そして、積極的に腕を絡めて飛び付いてくる。
腕を組む、という行動も好奇心と本能から実行している。
先の食事も同様。
ミサカ3709号は正常な思考回路を失っており、ほとんどの行動が好奇心と本能によって動かされているのだ。
一方通行「腕ェ組まれたら歩きづれェよ……離せ」
03709号「ぇぅ」
一方通行「…………」
言うことも聞かず、腕を離す様子は見られない。
ふと一方通行が立ち止まると、ミサカ3709号も立ち止まる。
病室に帰る、という行動より、一方通行と腕を組んで一緒にいる、という行動の方が優先されているらしい。
一方通行「………そこに座れ…」
一方通行は、休憩用のベンチを示してミサカ3709号を座らせる。
その横に自分も座り、体の向きだけを変えてミサカ3709号と向き合った。
お互い、目と目を合わせて逸らさない。
一方通行「……あ」
03709号「う?」
一方通行「う、じゃねェ。あ、だ。言ってみろ」
03709号「……あー?」
一方通行「そォだ。あ」
03709号「あ」
一方通行「い」
03709号「あ」
一方通行「あ、じゃねェ。次は、い、だ。言ってみろ」
03709号「…い?」
一方通行「よし、次は……」
まるで、赤ん坊に言葉を教える父親のように。
一方通行は不器用ながらもミサカ3709号に人間らしさを取り戻してみようと思った。
まずは初歩中の初歩、人の言葉、から。
一方通行「え」
03709号「え」
一方通行「お」
03709号「お」
一方通行「よし。ここまでは順調だな」
一方通行が一息ついたところで、ミサカ3709号も微笑む。
邪気のない笑顔からは人間味が溢れているが、所詮は外側だけ。
まだまだ中身が足りていない。
一方通行「次は……か」
03709号「あ」
一方通行「あ、じゃねェよ。か、だ。か」
03709号「…あ?」
一方通行「だから、あ、じゃねェっつーの。か、だ。ほら言ってみろ」
03709号「あー?」
一方通行「…………」
03709号「あ! あー!」
何度試みようとも、その後ミサカ3709号が、か、を口にすることは一度もなかった。