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□15 伝説の戦士・火
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 両手に大きなレジ袋を下げたあかねは、弟のげんきを連れて緑川家の前に立つ。

日野あかね「げんき〜、インターホン頼むわ」

日野げんき「はいよ」

 左手のみレジ袋を下げていたげんきが、あかねに代わってインターホンを鳴らす。

 しばらくして玄関の戸が開き、緑川家の長男である緑川けいたが応対してくれた。

緑川けいた「はーい、どちら様ですか?」

日野あかね「どうも〜、なおの友達のあかねで〜す」

緑川けいた「あぁ、こんにちは」

日野あかね「って、ありゃ? なお、おらへんの?」

緑川けいた「少し前に出掛けちゃって。でも多分、もうすぐ戻ってくると思います。上がって待っていてください」

 けいたに招かれて、げんきと一緒に緑川家に上がった。

 手に下げたレジ袋の中から漂う、美味しそうなお好み焼きソースの香りに誘われて、次々と緑川家の兄弟たちが顔を出してきた。

緑川ひな「わー! いい匂い〜!」

緑川はる「お好み焼きだ〜!」

日野あかね「は〜い。日野家自慢のお好み焼き、お届けに参りました〜♪ げんき、配ったってー」

日野げんき「はいはい」

 あかねは、なおから昼食にお好み焼きを頼まれていたのだった。

 本来ならお店に食べに行く予定だったのだが、あかねの好意で自宅まで持ってきてくれたという経緯である。

 当人のなおが留守だったのはタイミングが悪かったが、手伝いとしてげんきを連れてきたのは正解だったようだ。

日野げんき「姉ちゃん。薄々気付いとったけど、いくら大家族いうても多過ぎとちゃうか? レジ袋三つ分て」

日野あかね「にしし♪ 友達にサービスは当たり前やろ〜?」

日野げんき「こっちも商売やねんから、そないなこと言って罰当たっても知らんで?」

 苦笑いと呆れ顔の姉弟は、それでもお好み焼きを並べていく手を休めはしない。

 お好み焼き屋である以上、やっぱり美味しく食べてもらえることが何よりの喜びなのだ。

日野あかね「はぁ〜、にしても疲れたわ〜。この後に集まりもあんのに」

日野げんき「ん? 何かあんの?」

日野あかね「あー……。まぁ、ちょっとな」

 実はあかねは、この後に青木家で皆と集まる約束をしており、昼食後になおを連れて向かってしまおうと思っていたのだ。

 集まりの理由は、もちろんジョーカーのデコルとプリキュアの件についてだった。

日野あかね「ウチらにも色々あんねん。察してや〜」

日野げんき「何が“色々”だよ。ただ友達同士で遊んでるだけやろが」

日野あかね「(…うわ〜……、めっちゃツッコミたいねんけど…。こればっかりは負けフラグや……)」

 ウチは伝説の戦士プリキュアで、この後は作戦会議なんや〜。

 などと明かした日には、心底痛い目で見られるか、地獄の果てまで追求されるか、どちらにしろメリットは一つもない。

日野あかね「ほなウチ、なおの部屋で休んどるわ。帰ってきたら知らせてやー」

日野げんき「んー、了解」

 緑川家の兄弟たちを任せ、あかねはなおの部屋へと向かった。

 友達と言えども、この図々しさは親友故のものでもある。

 勝手に上がってしまった時点で、あかねのやんちゃな性格を侮っていたなおの失態、と言えば聞こえは悪いかもしれない。

日野あかね「おっ邪魔っしま〜す♪ お〜、綺麗にしてるんやな〜…………って!! わ、わわわッ!!?」

 部屋へと一歩足を踏み入れた瞬間、あかねの足裏が何かを捉えた。

 予想外の異物に足を取られたあかねは、なおの部屋でズザァァンッと思いっきり転倒してしまう。

日野あかね「あ痛ててて……。なんやねん、もう……」

 足元を見れば、人形サイズの大鍋が転がっていた。

 あかねが踏んだらしき大鍋は、おそらくマジョリンの私物か何かだろう。

日野あかね「マジョリンめ…。危ないやないか…………って…ん?」

 立ち上がろうとして顔を上げた時だった。

 あかねが転倒した拍子に棚が揺れていたのか、あかねの頭に向けて棚から落ちた小瓶が真っ逆さまに落ちて来ていた。

 気付いた頃にはもう遅い。

 あかねが咄嗟の判断でキャッチするなり避けるなりするより前に、蓋のない小瓶が中身の液体をぶちまけながらあかねの頭へと降りかかってきた。

日野あかね「うわわわ!!? つ、冷たッ!! なんやねん、次から次へと!!」

 思わずフルフルと頭を振ったあかねは、続いて自然な動作で濡れた体に視線を向ける。

 何か分からない液体を浴びたその体が、見る見る内に変化していく様子が見て取れていた。

日野あかね「………へ…?」







 数分後、なおが帰宅した。

緑川なお「ただいまー!! ごめんね〜、色々あって遅れちゃって…………って、あれ? げんきくん」

日野あかね「あ、どうも。お邪魔してました」

緑川ゆうた「おかえり〜」

 お好み焼きを広げて昼食タイム目前の面々を見やったなおは、その中にあかねの姿がないことに気付く。

緑川なお「えーっと……あかねはどうしたのかな?」

日野げんき「あれ? さっき慌てて飛び出してったんで、てっきり迎えにでも行ったんかと…………会いませんでしたぁ?」

緑川なお「え? いや、会わなかったな……。どこかで食い違っちゃったか……」

日野げんき「もの凄い速さやったんで、様子おかしいなぁって思ってたんですが。ったく、どこ行ったんや」

緑川なお「(何だろう……すごく嫌な予感がする……)」

 とりあえず皆に昼食を先に食べるよう促して、なおは一度部屋へと向かった。

 この後の集まりも考えて準備し、おかしな様子だったと聞くあかねを捜しに行かなくてはならない。

 そう思った矢先のことだった。

緑川なお「…………これって……」

 部屋の真ん中で、中身のなくなった小さな小瓶を見つけた。

 興味本位でマジョリンから小瓶の中身を聞いていたなおは、サーッと血の気が引いていくのを自覚した。

緑川なお「…ま、さか……ッ。そういうことか、あかね…ッ!」

 手早く出掛ける準備をしたなおは、バタバタバタと階段を駆け下りて玄関に向かう。

緑川なお「ごめん、みんな! お姉ちゃん、もう出掛けてくるね!」

日野げんき「あぁ、なおさん。昼食いいんですかぁ?」

緑川なお「一枚だけいただきますッ!!」

 空腹には負けておいたなおは、食パンのようにお好み焼きを丸ごと一枚くわえつつ勢いよく家を飛び出していった。

日野げんき「よく崩れへんな、お好み焼き」

 ちなみに、なおが銜えたお好み焼きは、緑川家を出て三メートル先で既に完食されていた。
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