信約 SRP:妹達共鳴計画
□Report.09 十月十二日A
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初春飾利が何者かに襲撃され、行方不明になっている。
しかし、エンデュミオンでの一件以来では何の接点もなかった一方通行に教える必要が何処にあるのだろう?
そもそも、そういった事件なら警備員に報告して対応してもらうのが妥当だろう。
白井黒子「もちろん、既に報告して対応していただいてますわ。ですが……友人として心配は拭えませんの……」
一方通行「何となくだが、気持ちは分からなくもねェよ。友達だったなら心配して当然だ。だがよォ、それで俺は何て反応してやりゃイインだ? 頭でも撫でて慰めてやれば満足ですかァ?」
御坂美琴「……一方通行…。エンデュミオンで初春さんが、誰と関わっていたのか忘れたの…?」
一方通行「あァン?」
エンデュミオンで発覚した、初春の身の回りで起きた事実。
それは、一方通行と美琴の二人には複雑な縁のある人物との関わり合いだった。
一方通行「…まさか……」
御坂美琴「……初春さんは風紀委員で、そこらのスキルアウトから恨まれることもあったかもしれない。でも…私にはどうしても、あの男の存在が頭の中でチラついて仕方がないのよ……」
垣根帝督。
学園都市の第二位に君臨する、七人しかいない超能力者の一人。
かつて一方通行と美琴の二人に加え、上条当麻を交えて衝突したことがあり、初春と関わり合いを持っている事実が発覚した時は驚かされたものだ。
一方通行「……またあの野郎が何かを始めようとして、それに巻き込まれた可能性を考えてるってのか?」
御坂美琴「こんなのは予測の域を出ないわ。だから、しっかりと確かめておきたいって思ったのよ」
そう切り出した美琴は、この話題を明かす相手として一方通行を選んだ真の理由を口にした。
御坂美琴「ねぇ…、垣根帝督の連絡先とか知ってるんじゃないの? だったら、今すぐ初春さんの所在とかを訊き出してほしいの…」
一方通行「……そォいうことか。まァお前らと比べりゃ、俺の方が深くこの町の暗部に浸ってる身の上なわけだしなァ」
美琴は当然として、実は白井と佐天も学園都市の暗部には接触した経験がある。
そんなことなど知らない一方通行だが、例え知っていたとしても提示する回答に変わりはない。
一方通行「悪りィが知らねェよ。情報の流出を抑えるためか、それとも垣根の野郎が拘ってんのか知らねェが……同じ連絡先を長く使い続けてられるほど暗部ってのは安全じゃねェンだよ」
御坂美琴「…そっか………」
一方通行「そもそも奴の連絡先を知ってンなら、あの悪夢の実験が行われてた時に真っ先に尻尾ォ掴めてただろォが」
白井黒子「悪夢の実験…?」
一方通行「…何でもねェよ、聞き流しとけ」
妹達の件は口を濁しておく。
その方が美琴のためでもあり、一方通行自身のためでもあった。
ともかく、これで話し合いは終わり。
初春の行方は今も知れず、関わっていたと思われる垣根の連絡先も分からない。
無断で風紀委員の仕事休むことなどなかったがために、初春の行方不明事件は美琴たちにとって大きな波紋となっていた。
御坂美琴「……」
白井黒子「初春……」
一方通行「………」
重い空気が流れる中、話題を変えようと佐天が一方通行に話しかけた。
佐天涙子「えーっと…そ、それにしても凄いですよね! 一方通行さんって!」
一方通行「あン?」
佐天涙子「私、御坂さんと知り合って結構経つんですけど、御坂さん以外の超能力者とはなかなか知り合う機会がなくてッ」
取ってつけたような話題の流れだったが、それ故に佐天の意図を皆が理解した。
佐天は、この場の重い空気を払拭するために何とか別の話題を持ち上げようとしている。
御坂美琴(佐天さん……)
白井黒子(…やれやれですわ。ご自分が一番つらいはずですのに……)
美琴たちがそう思っていた矢先、白井の携帯が振動する。
白井黒子「おっと、失礼しますわ…。はい…、もしもし……こちら白井ですの」
通話に応じて二言ほどで手短かに話しを終えた白井は、いつもの調子で風紀委員の腕章を握りしめる。
御坂美琴「これから出動?」
白井黒子「そうですの。風紀委員の出番ですわ」
一方通行「大変なンだなァ、オマエも。まァ精々頑張れや」
白井黒子「お気遣いどうも。またお茶でもご一緒させていただきますわ。それでは」
ヒュンッ、と一瞬にして姿を消した白井を見て、一方通行は素直に驚愕した。
一方通行「ほォ…珍しいな。空間移動能力者(テレポーター)だったのか…」
御坂美琴「あぁ、そういえば知らなかったんだっけ」
一方通行「会うのだって二度目だぜ? 顔も合わせてねェ奴の能力なンざ、いちいち把握しきってねェっての」
御坂美琴「それもそうね。あ、ここの会計は私が持つわ。いきなり呼び出して悪かったわね」
一方通行「気にすンな」
こうして、美琴の呼び出しから解放された一方通行は、美琴たちと同時にファミレスを出る。
この後は美琴と佐天の二人も解散するらしく、各々が好きなように行動していくことになる。
一方通行「じゃあな」
御坂美琴「またね、一方通行」
佐天涙子「道中お気を付けて」
一方通行「お気遣いどォも」
杖を突いている姿から無用な気遣いを受ける一方通行に、この後の予定はない。
だからなのか、一方通行の頭の中に浮かぶのは“とある少女”の暗い表情。
大事な親友を失って、心配で心配で仕方がないのに、周りの皆のためを思ってポジティブさを演じようとしていた少女の顔。
一方通行(……チッ…、俺も随分と丸くなっちまったモンだ…。クソッタレが……)
帰宅ルートを歩いていた一方通行は足を止め、来た道を引き返す形で再び別の場所に向けて歩き出したのだった。