3つの恋が実るミライ♪

□01 怪力娘とパパ?
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 一方、人間界の海の家。

 れいかもみゆきも到着したことを、がどうは岩陰から確認していた。

 正体を隠すためのローブは着ていない。

 さすがに真夏日の海でそんな格好をするほど、がどうは自殺志願者の思考を持ち合わせていない。

 しかし……。

青木がどう「……一体…何をしているのでしょうか…」

 がどうは、半ば呆れた様子で海の家の様子を眺めていた。

 というのも……。

日野あかね『めっちゃ美味い、お好み焼きやでーッ!!』

緑川なお『冷たーいカキ氷ッ、如何ですかーッ!!』

日野あかね『夏こそ、アツアツのお好み焼きーッ!!』

緑川なお『シャリシャリで、あまーいカキ氷ーッ!!』

日野あかね『お好み焼きで、元気盛り盛りッ!!』

緑川なお『冷たいッ、美味しいッ、カキ氷で決まりッ!!』

日野あかね『ソースの香りが堪らへんでー!』

 完全に、売り上げの張り合い競争を始めていた。

青木がどう「……協力を申し出たのは、確かに僕たちの方だが………さすがに…これは……」

 がどうも肩を落とさずにはいられない。

 がどうたちの目的を忘れられたわけではないのかもしれないが、あの様子では覚えていようとも関係ない。

 熱が冷めるまで時間が掛かるだろう。

青木がどう「………おや…? ようやく到着しましたか……」

 ふと、がどうは海の家の前を確認して呟いた。

 こうがとのどかの知らせを待っていたのだが、もう一人の待ち人の方が早かったようだ。

黄瀬やよい『えーっと……、冷たーいカキ氷と…アッツアツのお好み焼き……、どっちにしようかなぁ〜』

緑川なお『……ッ! カキ氷ッ!!』

日野あかね『お好み焼きやッ!! って……あ』

星空みゆき『あ! やよいちゃん!』

黄瀬やよい『あれ…!? みんなぁ…!』

 全員が再会を果たして喜びを表すみゆき。

 そんな中、ハッとした表情を浮かべるあかねとなおが一斉にこちらの方を向いてきた。

青木がどう「(…………あ…、忘れていたんですね………)」

 どうやら、がどうの予想は外れていたらしい。

 二人は本来の目的を今になって思い出したようだ。







 そして、ついに人間界の上空に彼は現れた。

アカオーニ「ーーーイィィィヤッホォォォオオオオオッ!!!!」

 サーフボードを抱えたアカオーニが、人間界の海を目掛けて急降下してくる。

アカオーニ「夏オニ! 海オニ! 小麦色の肌になって!! 素敵な思い出ッ、作っちゃうオニぃッ!!」

 テンションの高いアカオーニを追いかける形で、こうがとのどかも急降下していた。

黄瀬のどか「こうちゃん!! 怖い!! 怖ーいッ!!!!」

 涙目ののどかが、バチバチバチッと髪に紫電を走らせながら泣き叫ぶ。

 二人とも人外の血を引いているとはいえ、所詮は人から生まれた人の子である。

 アカオーニと違って、この急降下は脅威でしかないのだが……。

星空こうが「痛ててて!! 痛ぇって!! ノン、怖ぇのは分かったから、放電すんのは止めろっての!!」

黄瀬のどか「だってだってだってだってぇ!!!!」

星空こうが「だーッ、もう!! カーズー!! 頼むぞッ、おーいッ!!」

 岩陰に隠れてみゆきたちを眺めていたがどうも、ようやくアカオーニとこうがたちの到着に気付く。

青木がどう「さて…舞台役者も勢揃いか………。それッ!」

 がどうがパチンッと指を鳴らすと、急降下中のこうがとのどかの二人を包み込む物が現出した。

 何十枚という花札が現れて、こうがたちを呑み込んで消失させる。

 次の瞬間には、がどうのいる岩陰へと二人とも瞬間移動していた。

青木がどう「お疲れ様でした」

星空こうが「おぉ。だけど悪りぃな。連れて来ることが出来たのはノンの親父さんだけだ」

青木がどう「一人でもいれば十分だ。さて……どうやってフラグを立てさせるか…………って、あれ?」

黄瀬のどか「…? みちにい…、ママは?」

 がどうも気付いたが、海の家の周囲にやよいの姿が見受けられない。

 のどかの問いの答えに迷っていると、背後から声が聞こえてきた。



黄瀬やよい「あのー……? どうかしたんですか?」



星空こうが「ーーーぃぃッ!!!??」

青木がどう「ーーーぁッ!!!??」

黄瀬のどか「……ッ」

 最も恐れていた事態。

 ギリギリとゆっくり首を背後へと向けてみれば、そこにはキャンディを抱えたやよいが立っていた。

 がどうが目を離した隙に、どうやらキャンディと一緒に岩場で遊んでいたらしい。

星空こうが「(……お、おい…ッ。どうすんだよ、これ…ッ)」

青木がどう「(ど、どうするって……それは……)」

黄瀬やよい「……? もしかして、あちらの海の家に興味があるんですか?」

星空こうが「……あ?」

青木がどう「……ん?」

 ここで、ふと気付いたことがある。

 岩陰から顔を出していたのは、のどか。

 その後ろから黄瀬やよいを捜していたのが、こうがとがどう。

 その二人の背後から近付いてきたのが、やよい。



 つまり、まだのどかだけが奇跡的に存在を気付かれていないのだ。



星空こうが「ーーーッ! そ、そうなんスよ! オレら、お好み焼きかカキ氷か、どうしても迷ってましてぇ!!」

青木がどう「あ、あー! よ、宜しければ、お嬢さんのオススメをお伺いしても宜しいですか?」

 のどかを背中に隠しつつ、こうがは手の動きでジェスチャーを送った。

星空こうが「(オレらがノンのママを離しておく。今の内に、少し遠いところまで避難しとけ)」

黄瀬のどか「…ぇ?」

星空こうが「(ノンと違って、オレらは母方の面影が薄い。あとで必ず迎えに行くから、今だけ一人で我慢しててくれ)」

 そう伝えたこうがは、がどうを盾にする形でやよいを海の家の方まで連れて行く。

 一人きりを嫌う性格ののどかを一人にするのは気が引けたが、必ず迎えに行く、と告げれば大抵は何とかなる。

 今までだって、こうががその約束を破ったことは一度もない。

 しかし、のどかが気にしているのはその点ではなかった。

黄瀬のどか「…………こうちゃん……みちにい……。ずるい……」

 ママに会いたい気持ちは誰でも同じ。

 しかし、例え正体がバレていなくても、こうがとがどうは母親に会いに行けるのだ。

 ただ一人残されたのどかは、込み上げる寂しさを押し殺す形で岩陰から離れ、一人きりの一時避難を開始した。

青木がどう「(すまない、長閑……)」

星空こうが「(あとで必ず戻るからな……)」

 やよいの意識を逸らさせながら、のどかを思う二人の少年は心の底から頭を下げる。





 この時の二人は、やよいの意識をのどかから逸らせることで頭がいっぱいだった。

 だからこそ、二人は気付かなかったのだ。



 この場でもう一人、のどかの存在を知ってしまった者がいたことに……。
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