3つの恋が実るミライ♪
□07 アスレチック島・中編
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がどうが用意していたお弁当が振る舞われ、最初は何が入っているかも分からないものを警戒していた面々だが、あかねやなお、そしてアカオーニが率先して食べ始めてみたことで警戒の色は薄れていった。
もちろん、応援席にいたキャンディとマジョリーナも加わっており、二人もお弁当を食べ始めている。
星空みゆき「さっきはありがとね…、ウルフルン……」
ウルフルン「…ふんッ、今回だけだ。次はどうなっても知らねぇからな」
黄瀬やよい「アカオーニッ、もうちょっとゆっくり食べなきゃ喉に詰まらせるよ?」
アカオーニ「腹が減っては何とやら、オニ! 腹ペコで仕方がなかっ……ぅぐぅッ!!!??」
マジョリーナ「お約束だわさ」
ジョーカー「れいかさーん! ここはペアらしく、あ〜ん、でも♪」
青木れいか「しません。なお、お疲れ様でしたね。第四競技からも頑張りましょう」
緑川なお「え? あ、うん…そうだねぇ…」
日野あかね「(惜しいなぁ…。ジョーカーの行為って、ただれいかで遊んでるだけなんやろなぁ……)」
キャンディ「(恋心だったら、大きな進展クル…)」
ナイフ「選手のみなさーん! 水分補給だけは“しっかりと”お願い致しまーす!」
各々で休息の時を過ごした後、第四競技が開始される。
湖を越えた先に広がっていたのは、陽炎の立ち昇る砂地の岩場だった。
アカオーニの背丈の二倍ほどもある岩がゴロゴロと転がっており、地面に敷かれた砂から熱気が感じられ、第四競技の脅威は目に見えて知らされていた。
スプーン「第四競技は“障害物競走”ぉ! と言っても、障害物って大きな岩と砂の温度くらいだけどね……」
緑川なお「いや…逆に、それが問題でしょ…?」
ジョーカー「ちなみに、どれくらいの温度なのでしょうか?」
スプーン「………………千度くらい?」
日野あかね「肺が爛れるわッ!!!!」
ウルフルン「しかも疑問形ッ!!!!」
もちろん温度の件は冗談であるが、のどかが理解していないのにも理由があった。
ナイフ「当初は50度から80度くらいにしておこうと思ったんだけど……障害物として設置した岩が熱を吸収してね」
フォーク「いやいや、思いっきり確信犯だろ……それ」
つまり、第三勢力も把握できないくらい暑くなっていることが現状らしい。
お昼休憩時に水分補給を呼びかけられていた気がするが、こういう裏があったのだ。
日野あかね「まぁ、ある程度ならウチは暑いの平気やし……」
緑川なお「あたしも、競走競技なら素早くゴールできる自信があるけど……」
問題は他のペア。
さてさて、どうなることやら。
スプーン「第四競技! よーい……ドンッ」
恐る恐る砂地に踏み込むより、ここは思い切って突き抜けた方がいい。
そう判断したのは偶然にも全員シンクロしていたのだが、その後の反応はバラバラ。
日野あかね「ーーーッ!!」
緑川なお「あ、あっつぅッ!!?」
第四競技内の熱気はスポーツ少女の予想を遥かに超えており、他のペアをフォローしている場合ではない。
一目散にゴールを目指し、全力疾走を始めていた。
それに引き続くのは、またしても優秀な記録を残し続けているジョカれいペア。
青木れいか「……ぅぅッ」
ジョーカー「おやおやぁ? つらそうですね〜、れいかさんッ。その表情、堪りませんッ♪」
青木れいか「そういう……あなたも…、汗が凄いですよ…?」
目に見えて耐え忍んでいるれいかと、目に見えて痩せ我慢しているジョーカー。
しかし二人の足は速く、あかなおペアに続いてゴールへと突き進んでいった。
黄瀬やよい「…あ………暑、い……」
アカオーニ「……お…俺様……、もう限界オニ…」
スタート地点から数メートル先にて、既にアカやよペアは根を上げていた。
だが、こんなところでギブアップしても失格にならない。
一時間が断たなければゲームオーバーにはならず、一時間も放置されれば脱水症状を起こして干乾びてしまう。
黄瀬やよい「……こ…こうなったら…、発想の転換を……」
アカオーニ「オニぃ……?」
どうやら、やよいは考え方を変えて乗り越える方法を選択するらしいが、何をどうするつもりなのだろうか。
黄瀬やよい「アカオーニ。ちょっと手を貸して」
そう言って、やよいはアカオーニの手をギュッと握った。
アカオーニ「ーーーッ」
不覚にもドキッとしてしまったアカオーニだが、その動悸の原因を考える前に……それが起きた。
黄瀬やよい「えいッ」
掴み取ったアカオーニの手を、やよいは傍らの岩(超激熱)に押し当てたのだった。
ジュワァッ!! と肉が焼ける音が耳に届く。
アカオーニ「ーーーぐわわぁぁぁああああああああああああああああああああああッ!!!!!」
手に広がる火傷の激痛に耐えられず、アカオーニは身を丸めてゴロゴロと悶えながら転がり始めた。
暑さで思考回路を壊し始めたやよいの目には、発想通りの光景が浮かび上がっていく。
黄瀬やよい「第四競技は“大玉転がし”ぃ! 黄瀬やよい選手、行っきまーすッ!!」
考えがまとまらない頭を振るって、勝手に転がっていくアカオーニを追いかけるようにしてやよいが走る。
人間、思い込みが激しさを増せば火事場の馬鹿力を発揮できるのだ。
腕力ではなく、頭脳の問題で。
と……そんな風に一同がゴールを目指していく中、最後尾を走っていたのはウルみゆペアだった。
否、走っているのではなく歩いていた。
汗で濡れたウルフルンはピクリとも動かず、みゆきが彼を背負いながら進んでいるのだ。
ウルフルン「……み………みゆ……き………」
星空みゆき「…喋っちゃ、ダメ……少しでも、体力は……残さなくちゃ…」
この暑さは、ウルフルンにとって最高位の大敵だった。
開始後、僅か数秒で倒れ込んでしまったウルフルンは、既に手足を動かすことも自由ではない。
そんなウルフルンを、みゆきは絶対に諦めなかった。
ウルフルンの毛並に包まれて熱気が増す中、みゆきは背負ってでも一緒にゴールする道を選んだのだ。
ウルフルン「……置い、て………いけ……あとで…………追い……かけ…る……」
星空みゆき「…………」
みゆきも、もう何も話さない。
自分の体力も大きく削られるのだ。
ウルフルンの吐いた嘘を無視して、みゆきはウルフルンを背負いながらゴールに向かう。
さっき助けられたから、これはその恩返しだから。
そう自分に言い聞かせながら、みゆきはゴールに到着した。
ウルフルンが倒れ伏す姿が見たくなかった、その真の意味を心の内で振り払いながら……。
キャンディ「みゆきぃ〜ッ!!」
応援席にて、マジョリーナに抑えられながら泣き叫ぶキャンディがいた。
星空こうが「やり過ぎたんじゃねぇか?」
青木がどう「……確かに、これは僕のミスだ…。本当に悪かったよ」
星空こうが「…まぁ、悪気がなかったことはオレも分かってる。次は気ぃ付けねぇとな……」
大量の水と全員分の着替えを持っていったスプーンの後ろ姿を眺めながら、こうがたちは少し反省していた。
人間、自分の欲が先走ると気付くはずの失態に気付かなかったりするものである。
十分な水分補給を終えた面々は、支給された水着へと着替えさせられていた。
汗の染み込んだ服を着替える目的かと思われたが、どうやら違うらしい。
みゆきとやよいとれいかの三人にはワンピースタイプのフリルな水着が、あかねとなおの二人にはビキニタイプのフリルな水着が、それぞれ用意されていた。
対して、アカオーニに用意されたのは黄色の海パンが一着だけ。
ウルフルンとジョーカーには、サーファーが着ているような全身を覆うピッチリとした七分丈の水着を着こんでいた。
青木れいか「(…意外と……肌は綺麗なのですね…)」
不可抗力ながら、どうやられいかはジョーカーの着替えを目の当たりにしていたらしい。
ジョーカーを見詰める瞳は、ほんの少しだけ潤んで見えた。
水分補給を着替えが終わったところで、第五競技が開始される。
熱帯地を越えた先に広がっていたのは、これまた何もない一本道。
フォーク「水分補給は十分かぁ? 第五競技は“500メートル走”だ!」
日野あかね「500メートル走…?」
緑川なお「それだけ…?」
フォーク「そんなわけねぇだろッ。こっちにも仕掛けは満載だぜぇ!」
そう言い放った瞬間、500メートル先のゴール地点から突風が吹き荒れた。
フォーク「一時間の猶予があるってのに、たかが500メートルを完走してゴールなはずがねぇだろ? 迫り来る突風を押し返すようにして、ペアの二人ともゴールしてみせろッ! そぉらッ! よーい、ドンだッ!!」