3つの恋が実るミライ♪

□10 まるでデートな逃走先?
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 ウルフルンは逃げていた。

 あのままバッドエンド王国にいたら、筋肉痛で疲れた体を、更に鞭打たれることになっていただろう。

ウルフルン「て言っても、人間界に逃げ込もうが結局は変わらねぇんだよなぁ……ここ最近、体も怠ぃしよぉ……」

 グラグラと視界が揺れ、体の節々が痛む。

 何となく分かっていた。

 これは、もはや筋肉痛の領域ではない。

ウルフルン「はぁ…もうダメだ…」

 ついにウルフルンは、七色ヶ丘の一角にある空き地にて寝転がった。







 一方で、ジョーカーも七色ヶ丘を訪れていた。

 捜しているのはキャンディである。

ジョーカー「ミラクルジュエル……。やはり今一度、あの妖精ちゃんを問い詰めてみることが一番ですね……」

 かつて、キャンディをバッドエンド王国に連れ去った際もミラクルジュエルについて問い詰めたことがあった。

 知らないと答えるキャンディの反応に嘘を吐いているような雰囲気は感じられなかったが、馬鹿正直にメルヘンランドに乗り込んだところで事態が上手くいくはずもない。

ジョーカー「さて…何処にいるのやら………おぉ……?」

 ふと、ジョーカーの視線の先に見知った人物を発見した。

 その人物とは……。







 何か温かいものを感じる。

 うなされていたはずのウルフルンの呼吸も、ようやく安定してきていた。

ウルフルン「(何だ……? オレは、どうなったんだ……?)」

 永い眠りから覚めるように瞼を開けると、そこにはみゆきとキャンディの顔があった。

ウルフルン「………あ…?」

キャンディ「あッ、起きたクルぅ!」

星空みゆき「大丈夫? ウルフルン……」

 心配そうな表情で顔を覗き込んでくるみゆきに、二つの意味でドキッとする。

 一つは、純粋に驚愕した。

 そしてもう一つは……。

ウルフルン「な、ななな、何だテメェ! こんなところで何してやがるッ!!」

星空みゆき「む、その言い方はないでしょ!? はっぷっぷーッ」

キャンディ「ウルフルン、この空き地で倒れてたクルー」

ウルフルン「あぁ? 倒れてたぁ?」

 思い出してみれば、確かに空き地で休んだような覚えがあった。

キャンディ「ウルフルン、少し熱っぽかったクル」

星空みゆき「風邪かもしれないって思ったけど、少し眠ったら治ったみたいだね」

ウルフルン「……風邪でも熱でもねぇよ。多分ストレスだ」

星空みゆき「ふふ、何それ」

 思わず微笑んだみゆきの笑顔に、ウルフルンは目が離せない。

 どうにも最近、みゆきの傍にいると調子が狂いっぱなしだった。

星空みゆき「あ、そうだ! ウルフルンも一緒にお散歩しよっか!」

ウルフルン「はぁ!?」

キャンディ「ストレス解消には、リラックスするのが一番クルぅ♪」

星空みゆき「ね? 行こ行こ!」

ウルフルン「なッ! ち、ちょっと待てって! 腕を引くな、転ぶだろうがッ」

 ウルフルンを連れて駆け出していくみゆきの姿を、空き地の外からこうがたちが眺めている。

 こうがたちも、みゆきの行動力に驚きを隠せない。

黄瀬のどか「何か、積極的だね…。こうちゃんのママ…」

星空こうが「だよな……。お袋、あんな感じだったか……?」

 のどかは首を横に振る。

 目に見えるようにして、二人の距離感は縮まっている。

 こうがたちは、ウルフルンを連れて歩き出したみゆきの後ろを尾行しながら、その事実を喜ばしく思っていた。







 品揃えが豊富な七色ヶ丘デパート。

 デパートというよりは、百貨店と言った方が正確かもしれない。

 言葉自体の意味合いは百貨店もデパートも同じなのだが、この七色ヶ丘百貨店は最上階が五階であり、あまり大きくないのである。

 そんな七色ヶ丘百貨店にて、れいかは四階に設けられた書籍売り場を歩いていた。

 自宅や学校で使う参考書を選びに本棚を向かい合う中、一冊の辞書を手に取ったところで横から本を取り上げられる。

青木れいか「…ぁ」

ジョーカー「はぁ〜…こぉんなつまらないものを読んで何が面白いんですかねぇ〜……」

青木れいか「ジョーカーッ!? 何故ここにッ」

 ポンポン、と取り上げた辞書を右手左手と持ち替えて玩ぶジョーカーは、何てことないようにサラッと答える。

ジョーカー「いえ、特に用事はありません。ここを通りかかった際、偶然にもキミをお見かけしましたのでねぇ〜」

青木れいか「……そ、そうですか…」

 ジリ、と明らかに警戒している様子。

 そんなれいかを見て、悪人らしくニヤニヤしないジョーカーではない。

ジョーカー「んふふふ♪ そんなにボクのことが怖いんですかぁ〜?」

青木れいか「こ、怖いわけではありませんッ。何を仕出かすか分からないあなたのことです。また何か企んでいるのでしょう?」

ジョーカー「信用ないですね〜。ボクだって傷付いちゃいますよ〜ん♪」

青木れいか「………分かりました…」

ジョーカー「んん?」

 何かを決意した様子のれいかは、ジョーカーから辞書を取り返してレジに向かった矢先、迷うことなくジョーカーの手を取る。

青木れいか「これから、わたしの買い物に付き合っていただきます」

ジョーカー「は?」

青木れいか「あなたのことを信用していないわけではありませんッ。ですが、警戒しているのは事実です。その矛盾を払拭するため、わたし自身とあなたの真意を確かめさせていただきますッ」

ジョーカー「え?」

 呆然とするジョーカーを引きずるようにして、れいかは三階に下りるためエスカレーターへと向かっていく。

ジョーカー「え? え??」

 その間、ジョーカーは頭の整理が追い付かない。

 確かに先ほど“特に用事はない”と言ったが、それは“れいかに対して”という意味だ。

 ミラクルジュエルの手掛かりを探しに来た矢先にれいかを見かけたので話しかけた、というだけのはずが、事態は思いもしない方向へと転がり始めていく。

 その心境は、れいかを尾行していたなおとがどうも同じことだった。

緑川なお「珍しい……。れいかの方からジョーカーに歩み寄るなんて……」

青木がどう「まぁ、その理由と言いますか……。動悸の方は頷けたものではありませんが……」

 れいかはまだジョーカーを警戒している。

 しかし、それは言葉にするほど深刻ではないように思えた。

 信用するため、警戒を解くため。

 そう言っている割には、れいかは自分の意思でジョーカーの手を取って歩き始めている。

 その姿は、最初の頃の関係を考えれば有り得ない光景だった。

青木がどう「……では、眺めさせていただきましょう。お二人の行く買い物の姿を」

緑川なお「う〜…どうしよう…。ちょっとワクワクしてきちゃったかも……」
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