3つの恋が実るミライ♪
□12 ファッション・ミュージカル!
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そして、マジョリーナとジョーカーも七色ヶ丘中学に到着していた。
上空を浮遊する二人も、いつもと違う七色ヶ丘中学の様子にキョロキョロしている。
マジョリーナ「ん〜? 何だかいつもより賑やかだわさ」
ジョーカー「夏祭りの時ほどではありませんが、どうやらお祭りでも開くようですねぇ………おや…?」
ふと、ジョーカーはみゆきたちがいる教室を見つけてゆっくりと下降していく。
窓から教室の様子を覗いてみると、クラスのみんながやよいの机を囲んでいるのが分かる。
マジョリーナ「ふ〜む…、どうやら文化祭とかいう行事の出し物を話し合ってるみたいだわさ」
ジョーカー「文化祭? ほぉ……しかし、みなさんが眺めているのはモデル雑誌やファッション誌のようですが…?」
マジョリーナ「きっと大掛かりな衣装を着て、何かやるつもりなんだわさ」
と、そんな会話を交わしていた時、後から教室に入ってきた男子生徒に目が止まる。
豊島だった。
マジョリーナ「んん?」
ジョーカー「……?」
窓の外だったが、みゆきたちの会話が少しだけ聞こえてきた。
星空みゆき『ねぇ! 豊島くんなら何をやってみたい? 今ね、みんなでどんな衣装を着るのが楽しいか話してたんだぁ♪』
豊島ひでかず『……知らねぇよッ』
星空みゆき『…ぇ』
豊島ひでかず『俺はやんねぇよ…ッ』
昨日から変わることのない豊島の態度。
その発言はクラス中の空気を一変させ、豊島はスタスタと教室を出ていってしまった。
それを追いかけていくみゆきを見ながら、マジョリーナは何となく事態を察していた。
マジョリーナ「ふん…。集団が故の衝突だわさ。この程度なら何処の学校でも珍しくない…………って、あれ…?」
ふと、辺りを見渡して気付いたこと。
いつの間にか、隣りにいたはずのジョーカーの姿が見当たらなくなっていた。
廊下にて、みゆきは豊島に追い付いて声をかけていた。
星空みゆき「豊島くん、待って!」
豊島ひでかず「……何だよ」
星空みゆき「豊島くんも一緒にファッションショー、盛り上げようよ。みんなでやれば、きっと楽しくなると思うから!」
豊島ひでかず「……興味ねぇから」
しかし、みゆきの思いは届かない。
だがそんな時に声を掛けてきたのは、後からみゆきに続いて豊島を追い掛けてきたクラスメートたちだった。
野川けんじ「豊島ッ」
豊島ひでかず「……ッ」
みゆきと豊島が振り返ると、そこに立っていたのは三人の男子生徒。
野川けんじ、木村さとし、宗本しんやの姿だった。
豊島ひでかず「お前ら……文化祭で一緒にバンドやろう、って言ってただろッ。本気じゃなかったのかよッ」
野川けんじ「そ…それは……やりたかった、けど…」
宗本しんや「俺たちだけの意見で、クラスの出し物は決められないよ……」
豊島ひでかず「………勝手だな…。俺はバンド以外やらねぇからな……」
そう言って、豊島は三人にも背を向けて去っていった。
みゆきは知った。
豊島がバンドをやっていたこと。
ギターがとても上手いこと。
文化祭で、みんなで一緒に演奏しよう、と気合いを入れていたこと。
星空みゆき「………そっか…。そうだったんだ……」
豊島の背中を見送るみゆきは、どう声をかけたらいいのか分からなかった。
そして、その一部始終の会話を廊下の窓の向こうへと移動していたジョーカーは全て聞き取っていた。
ジョーカー「ふ〜む……。随分と、贅沢な悩みを抱えているのですね……」
豊島の事情を知ると同時、みゆきたちのクラスの出し物や文化祭というものの全貌を察したジョーカーは、一人きりで歩き去っていく豊島を見詰めて舌打ちをした。
ジョーカー「……ホント…気に入りません…」
その後、みゆきたちは豊島にファッションショーを面白いと思ってもらおうと、何度も接触を試み続けた。
しかし、その全ては通用しない。
豊島が見せる意地は、文化祭の準備が佳境に突入しても変わることはなかった。
黄瀬のどか「ママたちの文化祭、どうなっちゃうのかな……」
星空こうが「さぁな。つーか、オレたちにはどうすることも出来ねぇし……なるようになるしかねぇんだけどな」
青木がどう「僕たちがやるべきことと言えば、未来をあるべき形に導くことだけ……なんだけどね……」
がどうは頭を抱えた。
もうすぐ文化祭が始まるというにもかかわらず、どういうわけかジョーカーが姿を消してしまったのだ。
マジョリーナの報告を待っているのだが、どうやら何処にも見当たらないらしい。
青木がどう「まったく……父さんは何をしてるんだ…」
星空こうが「あの神出鬼没な親父さんのことだ。ひょっこり現れるさ」
黄瀬のどか「でも、それじゃわたしたちも動きようがないんだよね……」
三人は同時に溜息を吐いた。
その裏で、ジョーカーの思惑が少しずつ動き始めているとも知らずに……。
みゆきのアイデアによって、クラスメート全員が衣装を着る案は最終段階を迎えていた。
みんなが主役になれたらなぁ、という思いが形になって、クラス中に笑顔が溢れていく。
ただ、一人だけを除いて……。
豊島ひでかず「……ッ」
豊島が教室に入ると、辺りが一斉に静まり返る。
星空みゆき「あ! 豊島くん!」
ただ一人だけ、ずっと変わらない声を笑顔を向けてくれるみゆきだけが、豊島へと衣装を見せに駆け寄ってきてくれた。
星空みゆき「見て見てッ、みんな素敵でしょ? 豊島くんも一緒にやろうよ! あともうちょっとで完成だけど、豊島くんも……」
豊島ひでかず「俺には関係ねぇしッ」
星空みゆき「…ぇ」
しかし、まだみゆきの思いは届かなかった。
だが、いつまでも態度を変えない豊島に対して、あかねも黙ってはいられない。
日野あかね「…あんなぁ……意地張らんと、あんたも参加したらええやんッ」
豊島ひでかず「…………」
日野あかね「ちょ…、豊島ぁ!」
あかねの言葉にも返答せず、豊島は教室を出ていってしまった。
野川けんじ「豊島、本当にやらないのかな……」
岡田まゆ「わたしも最初はダンスやりたかったけど、ファッションショーもやってみたらすごく楽しいのにね……」
尾ノ後きよみ「うん、勿体ないよね……」
岡部かつとし「でもさぁ、本人がやりたくないって言ってんだから……星空も、もう誘わなくていいんじゃね?」
星空みゆき「……ぇ…」
岡部が口にした、何気ない言葉。
そこから生まれる反対意見はなく、教室の中に広がっていったのは、豊島に対する“諦め”の兆しだった。
星空みゆき「…………」
と、そんな時だった。
ジョーカー「それでいいのですか? それでおしまいですか? アナタ方らしくもない」
教室の窓が独りでに開かれ、外から何枚ものトランプが飛び込んでくる。
教壇の上に広がったトランプの束は、やがて黒板の前に立つジョーカーの姿を形作っていく。
星空みゆき「…え!?」
青木れいか「じ、ジョーカーッ」
日野あかね「あんた、何してんねんッ!!」
みゆきたち以上に驚愕しているのはクラスのみんなだった。
登場の仕方は当然ながら、常人とは思えない容姿や仕草は、ここにいる全員の視線を否応なしに集めていく。
ジョーカー「アナタ方が目指す文化祭とは、ただ一人のお友達を欠いて満足するものなのですか?」
星空みゆき「…………」
ジョーカー「くだらない存在ではないと否定していた友達が、一人だけ除け者にされている事実をどう受け止めるのです?」
日野あかね「…………」
ジョーカー「苦しくて悲しい思いをしている最中、いつでも傍にいてくれるという言葉は嘘偽りなのですか?」
黄瀬やよい「…………」
ジョーカー「笑い、泣き、励まし合うその姿を、今ここで証明せずして何を成し遂げられますか?」
緑川なお「…………」
ジョーカー「どんな困難も乗り越えていける力……。まだ、その姿を見せてもらった覚えはありませんよ?」
青木れいか「…………」
身振り手振りで演説するジョーカーの言葉を、真の意味で理解できる者は少ない。
しかし今あるクラスの姿が真実でないこと
は、さすがに伝わっていないはずがなかった。
ジョーカー「みんな一緒でなければ意味がない……。それが、ワタシが学んだ“人間”の姿ですよ…」
青木れいか「…ジョーカー……」