とある短編の創作小説U

□そんなあなたに恋をした
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 バジルの首の骨を背後から切除しつつ、アダムが耳元に囁きかける。

アダム「なぁ? セシルってガキを覚えてるか? その子の親父さんからの依頼だったわけなんだが……クハハハ♪ 覚えてるわけねーよなぁ〜? 今まで何人もガキを中心に捕まえては、晒し者にしてきたそうじゃねぇか♪」

バジル「…………」

アダム「まぁ! ガキをチョイスするテメェの性癖に文句を言う筋合いはねぇが……。今はテメェ自身の不運を恨んどくんだな♪」

バジル「……」

アダム「って、もう聞いちゃいねぇか。よぉし♪ 首、取〜れたぁ♪」

 ベチャッ!! と自身の血の海に沈んだ胴体を蹴り飛ばして、アダムはバジルの首を掴み上げる。

 これを店主のところに届けて、ついでに神様に関する情報を聞き出して、次の世界に向かう方針を考える。

 ここまでは今までと同じサイクルだ。

 しかし……今回は違った。

????『…だれ?』

アダム「あん?」

????『誰かいるの…?』

 見世物小屋の奥から、少女の声が聞こえてきた。

 バジルが出てきた小屋の裏口から足を踏み入れ、アダムは奥へと進んでいく。

 檻の数は山ほどあるのに、どの檻の中も空っぽのまま。

 そんな中で一つだけ、小屋の最も奥に位置する檻の中に、その少女は座っていた。

アダム「…お前……、夕方に晒し者にされてた巨乳女か…」

 そこにいたのは、晒し者にされていた時と何も変わらない一人の少女。

 乱れたままの、白くて長い髪。

 三才児並みの背丈に痩せ細った体には、衣服の類いが何もない生まれたままの姿。

 その体型に反比例している、大きく膨らんだ乳房。

 “幼い”以外の何ものでもない丸顔に並ぶ双眼は、透き通るような空色をしていた。

アダム「見た目も中身も信じられねぇなぁ。三才児には見えねぇ」

巨乳の少女「…私、三才じゃないよ?」

アダム「あぁ? じゃあ合法的なロリ巨乳か? 肉体年齢が止まるのにも程があんだろ」

巨乳の少女「私、自分の年齢が分かんないの……数えるのも疲れちゃった」

アダム「はぁ?」

 やっぱり数も数えられないようなお子様かと思った。

 しかし、少女の答えはアダムの思考を180度回転させる。



巨乳の少女「私ね? 神様がいる天界で育ったの。だからね? もう千年以上も生きてるんだぁ♪」

アダム「ーーーッ!!?」



 思わず、アダムは片手に掴んでいたバジルの首を地面に落とした。

 それを見た少女は、一切怖がる素振りを見せない。

 むしろ、転がっているバジルの首を見て笑っていた。

巨乳の少女「…あ! おじさん、死んじゃったんだ♪」

アダム「………お前…名前は?」

 アダムの質問に、巨乳の少女は変わらない笑顔で答えた。

リリス「リリス♪ リリス・トリマーだよ。お兄ちゃん」







 食事処の店主は泣いて喜んだ。

 バジルの首を受け取った後、その首をどうするのか知ったことではない。

 依頼完遂と同時に店を出たアダムは、スラム街の中でも人通りの少ない道へと入っていく。

 そこに待たせていた、リリスと名乗った少女を迎えに行くために。

アダム「…待たせたな」

 リリスを見つけて声を掛ける。

 見世物小屋の檻を刀で破壊し、リリスを解放してきたのだ。

リリス「ううん。大丈夫」

アダム「とりあえず、これでも着てろ」

リリス「ふぇ?」

 アダムがリリスに投げ渡したのは、薄汚れた白いワンピースが一着だけ。

 おそらく、何処からか盗んできたのだろう。

 大人しく袖を通したリリスは、アダムの前にクルクルと回ってみせた。

リリス「久しぶりのお洋服〜♪ 似合う? 似合う〜?」

アダム「どうでもいい。それより、俺の質問に答えろ」

 一蹴されたものの、自分を相手にしてくれることが嬉しいのか、リリスはアダムの前で大人しく正座した。

リリス「はい! どうぞ〜♪」

アダム「………天界で育ったってのは、本当か…?」

リリス「うんッ」

 素直に頷く。

 その度に、リリスの豊かな胸元がタユンタユンと揺れ動く。

アダム「ってことは、お前は天使か何かか? それとも神様の一人か?」

リリス「ふぇ? う〜んと、私自身は人間だよ。人間界で生まれて、天界で育ったの」

アダム「はぁ?」

 意味を理解できないアダムへと、リリスが簡潔に説明を始めた。

リリス「千年以上も前なんだけど、私はイギリスで生まれたの。えーっと…英国、って言うの? その時に、生贄として王様に食べられちゃってね♪ そのまま、私は天界に運ばれて〜……」

 リリスの声は途中から聞こえていない。

 アダムは心の底から呆れていた。

アダム「(…あぁ……、何だよ…。まったく……)」

 せっかく神様の居所に届くかもしれないと思った。

 まだ一度も踏み込んでいない天界へと侵入するチャンスかと思った。

 だというのに、天界育ちと言った少女を助け出して、自由にして、話を聞いてみれば真実は違った。

 第一、あの“見世物小屋”にいた時点で気付くべきだった。

アダム「(妄想に現実逃避しただけの、ただの電波女じゃねぇか……ッ)」

リリス「ん〜? お兄ちゃん、どうしたのぉ?」





 ズブンッ!!!! と、リリスの胸元が大きく裂ける。

 アダムの腰から伸びた刀の刃が、リリスの体を斬り裂いていた。





リリス「ぐ、ぼ…ぇ…?」

アダム「もういい……時間を無駄にした」

 ズバァンッ!! と無残に斬り捨てたアダムは、倒れ込むリリスに目も向けず歩き去る。

 神様を追いかけて、また当てもなく彷徨う生活が始まった。
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