〜The Last Decor〜
□27 中学三年生
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奈落。
井戸の中に広がる水面に浮かぶ男は、周囲に立つバッドエンドプリキュアに視線を向ける。
彼こそが、あの世の地獄を支配する“奈落の審判”であり、閻魔大王として多くの人間に知られた存在“コンテュー”だった。
コンテュー『プリキュアとの接触は叶ったか?』
BEハッピー「はい。コンテュー様の予想通り、大きな障害に成り得ない存在でした」
BEマーチ「だが油断は禁物。あたしたちの邪魔になる害虫なら徹底的に駆除するべきだ」
BEピース「あはは♪ 害虫、だってぇ〜! 例えが良いねぇ、バッドマーチッ」
コンテュー『うむ……。油断は禁物、か…。一理あるか…』
バッドエンドマーチの言葉に、井戸の中に浮かぶコンテューがゆっくりと頷いた。
BEサニー「そんならどないするん? ウチが消し炭にしてもええの?」
BEビューティ「わたしは構いません。存在価値のない者ほど、残しておく意味はありませんし」
コンテュー『侮るなよ? 戦いを怠れど、伝説の戦士に変わりはない……。プリキュアが力を取り戻す日も近いだろう』
BEピース「うわ、やっばぁい! それなら早く殺しとかないと!」
BEハッピー「みんな待って。コンテュー様のご決断が第一だよ」
バッドエンドハッピーの言葉に、他のバッドエンドプリキュアたちは押し黙った。
それを確認したコンテューは、ガシガシと頭を掻いて返答する。
コンテュー『力が未熟なのは、我とて同じこと……。この狭き奈落の底から這い出ることすら叶わず、こうして井戸の水面から顔を出すことが限界だ……』
BEハッピー「では如何いたしますか?」
コンテュー『所詮は烏合の衆よ。プリキュアなど放っておけ。人間界を奈落の底に沈めるためにも、そして我の顕現のためにも、まずはエネルギーを蓄えるのだ』
エネルギーとは、バッドエンドプリキュアたちが集めた特殊なバッドエナジーのことを意味している。
愛情、希望、自由、勇気、そして夢。
それらのエネルギーは、コンテューの顕現と人間界の終焉に必要不可欠なのだ。
コンテュー『その手始めは、バッドエンド王国だ。帰らぬ主を待つ世界など廃墟も同然。貴様らの好きにするがいい』
BEピース「え!? いいのぉ!!」
コンテュー『あの世界を拠点とし、貴様ら自身で開拓を進めれば良いだけの話だ。だが、いずれはバッドエンド王国も奈落へと沈む末路を辿ることは忘れるなよ?』
BEハッピー「もちろんです。ありがとうございます、コンテュー様」
ウルフルンたちもジョーカーも帰ることの出来なくなったバッドエンド王国は、バッドエンドプリキュアが支配する世界へと生まれ変わろうとしている。
まず一つの世界を五人分に分ける以上、平等の領域と個々の拠点が重要視された。
BEビューティ「スペードッ、城を建てましょうッ。わたしのように美しく、わたしのように煌びやかで美しいものを」
スペード「美しさが二回入ってますよぉ?」
BEピース「わたしはどうしっかなぁ〜♪ ミラー、何か考えといてぇ」
ミラー「丸投げキタコレ!」
各々で拠点造りの行動に移っていく。
そんな中で、アーサーを従えたバッドエンドハッピーは何かを黙々と読み漁っている。
アーサー「我が主よ、読書などしている場合か? 拠点の開拓はどうする?」
BEハッピー「そのための設計図。わたしだって、みんなに負けないくらいのものを作っちゃうんだからッ」
アーサーは、チラリとバッドエンドハッピーが読んでいる本の表紙を盗み見る。
どうやら、お金持ちの貴族などが歩んできた歴史書か何かのようだ。
アーサー「……? それが何の役に?」
BEハッピー「城でも小屋でも同じこと。だったらわたしは“全部”用意するのッ。他の人の幸運を独り占めしちゃうくらいの、ドーンッと大きな領域を丸ごとねッ」
即ち、王国。
それが、このバッドエンド王国の五分の一を手に入れたバッドエンドハッピーが考えたもの。
自分の領域として示す拠点として考えているものは、小屋でも城でも一括りにするほどのスケールを持っていた。
BEハッピー「でもバッドエンド王国にある資料じゃ限界があるね…………よし、決めたッ。アーサー、ついて来て!」
アーサー「御意に。して、何処へ向かう?」
BEハッピー「当然、人間界ッ。王国ってヤツの資料を集めてやるわッ」
山のような問題集を前に、みゆきは机に項垂れていた。
否、それはやよいも同じこと。
魔城理奈「どうしちゃったの?」
ルン太郎「春休みの課題を提出できなかった罰で、追加の補習課題を渡されたんだとよ」
赤井鬼吉「部活に顔出しに行ったあかねとなおも、同じような顔してたオニ」
キャンディ「学生って大変クル」
星空みゆき「ウルトラはっぷっぷー……」
とにかく、もうここにいても意味はない。
新学期初日の本日は、始業式が終われば午前中で下校時刻を迎えるのだ。
気が重いままに、みゆきたちは帰りの準備を終えて教室を出て行った。
あかねとなおに加えて、れいかの部活と生徒会に顔を出しているらしく今この場にはいない。
ちなみに今現在、れいかを目当てにしたジョーカーが生徒会室に乱入していたりするのだが、みゆきたちの知るところではない。
とりあえず六人だけで先に校門前まで歩いていくと、見知った人物が出迎えてくれた。
星空みゆき「あ、ジークさん!」
ジーク「ぁ、ぇっと……お疲れ様、ですた…」
黄瀬やよい「ですた?」
ジーク「あ! ぇっと……すみません、噛みました…」
執事服に身を包もうとも、優秀そうなのは見た目だけである。
着崩しているものの、ハイネの方が真面なコミュニケーションが取れるらしい。
ルン太郎「おいおい、大丈夫か? そんなにキョドってて、本当に戦えんのかよ?」
ジーク「え? あ、いや、僕は戦えないです……。いつも、そっちはハイネの役目なので…僕は無力ですし…」
赤井鬼吉「何か複雑オニ」
あかねたちの到着を待つまでのお喋りタイム。
そんなつもりで会話を続けていたのだが、その時間が長く続くことはなかった。
七色ヶ丘中学の上空に、バッドエンドハッピーとアーサーが並び立つ。
BEハッピー「うふふ…王国の資料よりも面白そうなの見つけちゃったぁ〜」
アーサー「あれはプリキュアの通う学校か…。我が主よ、今回はどう動く?」
BEハッピー「説明も不要。元々わたしたちの役目なんて数えるくらいしかないからねッ」
闇の絵本と赤紫色の絵の具を取り出し、バッドエンドハッピーは下校時間を迎えた七色ヶ丘中学の生徒たちを見下して笑った。
BEハッピー「世界よ! 無感動の結末、ネームレスエンドに染まれ! 白紙の未来を断ち切るのだ!」
握り潰された絵の具が白紙のページに広がり、周囲の空が赤紫色に染まる。
人間たちは膝を崩して絶望し、その体からバッドエナジーが溢れ出した。
BEハッピー「うふふふ! 人間どもの発したラブエナジーが“奈落の審判”コンテュー様を、呼び覚ましていくのだ!」
集められたバッドエナジーは“愛情(ラブエナジー)”へと変換され、闇の絵本へと吸収されていく。
こうして、バッドエンドハッピーによってゲームオーバーが展開された。
もちろん、この事態に気付かないみゆきたちではない。
星空みゆき「ーーーッ!!?」
黄瀬やよい「これはッ」
ジーク「…ぁぁッ、あそこですッ!!」
空を見上げれば、そこに立つのはバッドエンドハッピーと配下のアーサー。
自然と身構えてしまうウルフルンたちだが、今では空を飛ぶどころか腕力も人並みだ。
ルン太郎「チィ…ッ」
赤井鬼吉「オニぃ…」
魔城理奈「…くッ」
キャンディ「クルぅ…ッ」
この場で妖精たちの力を借りることは出来ない。
やれることが限られる中、伊達メガネを外して髪型をオールバックに整えたジークが、ハイネとなって怒鳴り付けた。
ハイネ「いつまでボーッとしてやがるッ! さっさと変身しろぉ!!」
星空みゆき「…わ、分かった! やよいちゃん、行くよッ」
黄瀬やよい「うん…!」
みゆき&やよい「「プリキュア・スマイルチャージ!」」