モンスター・ロバーズ!
□第01話 異賊の船旅
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食堂へと戻る最中、廊下で二人の男女と出くわした。
大柄な体格の男性は、朝からお酒を片手にニコニコしているが、同行している女性は男性の存在などガン無視である。
あくまでも冷静そのものな女性から視線を逸らし、男性がイリヤたちに気付いて手を上げた。
ワルワラ「…バフィト…ソフィア……、おはよう」
バフィト「やぁ、ワルワラ。おはようさん」
バフィト、と呼ばれた男性が挨拶を返す。
また、ソフィアと呼ばれた女性も二人に挨拶した。
ソフィア「おはよう。ワルワラちゃん、イリヤちゃん」
イリヤ「おはよう」
バフィトたちも洗顔所に向かうようで、タイミングが良ければグルナラたちと一緒に食堂に来れるだろう。
バフィト「……あぁ、そうそう。イリヤちゃんに伝えておくよ」
イリヤ「……?」
バフィト「“彼”だけどね。もう食堂に行ってたよ。もう挨拶は済ませたのかな?」
イリヤ「…………いや…、まだだ…」
バフィトは最後に、そっか、と言ってニカッと笑った。
そして、そのままソフィアと一緒に洗顔所に向かったのだった。
食堂に戻ったイリヤは、すぐに“彼”を見つけた。
食堂の席で、椅子に座ったまま机に伏せて眠っている。
起きて、寝室から食堂まで歩いてきたはずなのに、また食堂で二度寝とは……。
イリヤ「……おい、ウリヤン…。もう朝だぞ…、起きろ」
ウリヤン「……ん、ぁ?」
ウリヤンと呼ばれた彼は、イリヤに起こされた身動きする。
まだ瞼は閉じたまま、むくりと上体を起こして椅子の背もたれに寄りかかる。
あくびをしつつ、寝癖のひどい黒髪を右手でガシガシと掻きながら、あごヒゲで左手の甲をジョリジョリと掻いている。
イリヤ「お前は猿か」
ウリヤン「……あ〜…ぁ…、イリヤか」
イリヤ「目が覚めないなら顔でも洗ってこい。サッパリするぞ」
ウリヤン「いいよ、別に。朝からメンドくせぇし……」
イリヤ「訂正する。今すぐ洗ってこい」
イリヤに腕を引っ張られ、強制的に立たされたウリヤンは渋々といった様子で洗顔所に向かう。
そんな二人の様子を見て、キルサンとワルワラはニコやかに会話する。
キルサン「相変わらず、二人は仲が良いようだね」
ワルワラ「キルサン。朝ごはん、まだ?」
キルサン「皆が集まってからですよ、副船長」
こちらも訂正しよう。
イリヤたちを微笑ましく見ていたのはキルサンだけだったようだ。
数分後、ようやく食堂に全員が揃った。
全員といっても、食堂には席が用意されていない者も何人かいる。
長テーブルの両端に、向かい合わせで並べられた食卓椅子。
一辺に三つずつ並べられているため、用意された椅子は全部で六つ。
バフィトとワルワラが向かい合い、グルナラとソフィアが向かい合い、ウリヤンとイリヤが向かい合っている。
この食卓にキルサンとボリスの席はなく、ボリスに至っては姿すら見せない。
しかし、それが常識とでも言うように誰もそれを口にしない。
キルサン「それでは皆さん、朝食を召し上がってください」
バフィト「いや〜、いつも悪いねぇ。こっちとしては大助かりだよ」
ワルワラ「バフィトの手料理、二度と食べないから」
グルナラ「そんなに不味かったの?」
ウリヤン「不味かった、っていうか、調理の域にも達したなかったな。ほとんど生肉だったし」
ソフィア「あら〜……、今の食生活とは考えられない地獄絵図ね」
イリヤ「……その時期に仲間入りしなくて良かったぞ」
バフィト「ねぇ、ちょっと。皆してヒドくない?」
立場などお構いなしに言いたいことを言いまくる面々。
立場というと、実はバフィトこそがこの賊軍の船長だったりするのだが、こんな様子だけではその面影も薄らぎ、もはや“ただのおじさん”でしかない。
と、そんな時だった。
食堂を出て、船の上へと移動していたキルサンの声が船内に響き渡る。
この船内限定で、どの部屋にも自身の声を送ることができる機能が付いているのだろうか。
キルサン『バフィト船長ッ。前方の水平線に島を発見。一時間もかからずに到着すると思うが、上陸するかい?』
バフィト「あぁ、新しい島か…。なら、賊軍らしく仕事していかないとね」
要訳すれば、上陸する、という返事だった。
朝食を食べ終えたら、皆で上陸の準備を進める。
彼らは異賊。
縄張りを限定しない、盗賊の一味。
しかし、彼らには各々の夢や望みがあり、彼らが行う“賊”の仕事とは決して悪しき事柄だけとは限らない。
時には人々を救い、時には大切なことを学び、時には人に感謝され、時には誰かの命を救う大事にまで発展する。
彼らの旅は、世界という枠組みならば舞台を選ばない。
バフィトを船長とした異賊も初めは“たった一人”から旅は始まった。
今後、彼らがこの異賊に仲間入りした一人一人の過去の物語も含め、あらゆる冒険劇を書き記していこう。
まずは……、今回の視点役となっていたヒロイン。
イリヤ=スカルディーナの物語を。
【第02話につづく……】