モンスター・ロバーズ!

□第03話 世界を知らないお嬢様
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 スカルディーナ家の前。

 何人もの男たちが膝を崩し、目の前に立つウリヤンに恐怖していた。

 ウリヤンに向けて何度バットを振るったか分からない。

 何度ナイフで刺し殺したか分からない。

 そしてウリヤンが、目の前で“何度生き返ったのか”も覚えていない。

柄の悪い男「……ば、化物じゃねぇか…ッ」

ウリヤン「傷付くなぁ、それ……。死にたくないから死んでねぇだけで、何で化物扱いされちゃうわけ?」

 何度殺されても、何度傷付けられても、ウリヤンの傷はすぐに癒え、失ったはずの命が戻ってくる。

 そんな怪物紛いの現象に、もう誰も何も言えなかった。

 そんな時だ。

 屋敷の門の明かりが、パッ! と点き、辺り一帯が一瞬で照らされる。

柄の悪い男「ーーーわ!?」

ウリヤン「おいおい、眩しいなぁ」

イリヤ「ーーーッ!?」

 屋敷の中から、執事長の声が聞こえた。

執事長『イリヤお嬢様ぁ! ご無事でございますかぁ!?』

イリヤ「……あッ」

 屋敷から出てきた執事長が門前に到着し、イリヤを屋敷の敷地内に入れると傷の有無を確認する。

執事長「よかった……お怪我はないのですね」

イリヤ「…あ、あぁ……、心配させたな…」

 安堵した様子の執事長は、イリヤを屋敷の方へと促した。



 それと同時に、屋敷周辺に配置していた迎撃部隊へと合図を送った。

執事長「ーーー射撃、開始!! 屋敷前の不審人物を“全員抹殺”せよッ!!」



 ズガガガガガガガッ!!!! というマシンガンの発砲音が反響し、屋敷の門前が血の海と化す。

 柄の悪い男たちなど、人の形として残らないだろう。

 それは、傍にいたウリヤンも同様に。

イリヤ「ーーーな、何をッ!!?」

執事長「お嬢様、もう外出はさせません。何があろうとも、常に警備を怠りません。屋敷の外は危険で溢れているのですから」

 血の悪臭が漂うだけの肉塊になるまで発砲が続き、イリヤが屋敷内に連れて行かれたところで射撃は止んだ。

 迎撃部隊も撤収し、再び静かな夜が訪れる。

 そんな中、迎撃部隊のマシンガンで撃ち尽くされた肉塊がモゾモゾと動き始め、少しずつ人の形を作り始める。

ウリヤン「………んん、あー…ぁ…ッ。まぁた派手に撃ってくれちゃって……」

 グズグズの肉塊から、撃たれる前の元の姿に戻ったウリヤンは、体の調子を確かめるように柔軟体操をする。

 そして、イリヤが帰っていった屋敷に侵入するために敷地の周辺を移動し始めた。

ウリヤン「金、返してもらわねぇと……。せっかく換金したんだし、お金持ちにくれてやる金ほど意味のねぇもんはねぇからなぁ……」







 ウリヤンの財布を持ったまま、イリヤは執事長に言い放っていた。

イリヤ「あそこには、私を送り届けてくれた者もいたのだぞ!? それなのに容赦なく撃ち殺して、どういうつもりだ!!」

執事長「…………」

イリヤ「確かに得体の知れない奴だった。おかしかったかもしれない。だが、だからって事情も聞かずに殺すなど……」

執事長「お嬢様、外の世界には“賊軍”なる連中がいるのですよ……」

 静かに語り始めた執事長の様子に、イリヤも口を閉ざした。

執事長「スカルディーナ様の奥様……、イリヤお嬢様のお母様は、客人だと名乗った賊軍の襲撃によって、命を落とされたのです」

イリヤ「……賊軍? だが、お母さんは怪物に殺された、と…」

執事長「その怪物が、人と同じ意思を持っていたのでございます。賊軍とは、山や海に住み着いて人々から金目のものを奪い、生活している連中です」

 山を山賊、海を海賊。

 空にいるものは空賊という。

 そんな中で、かつてスカルディーナ家を襲った賊軍とは、一体何だったのだろうか?

執事長「……奴らは、住処を選びません。時に山、時に海、時に空、時には我々の想像もできない異世界など、考えるだけ無駄な、常識の通じない怪物の集まり……」



執事長「かつてスカルディーナ家を襲った、この世で最も恐ろしい賊軍の存在を、我々は“異賊”と呼んでおります……」



イリヤ「……異賊…」

執事長「…お嬢様。外は本当に危険な世界なのでございます。スカルディーナ家のように金銭に苦のない環境ならば尚更に……。どうか、外出だけは絶対に…」





ウリヤン『ごめんくださーい! お金、返してもらいに来ましたぁー!』





執事長「ーーーッ!!?」

イリヤ「……今の声…、ウリヤン…ッ!?」

 屋敷に不審者が侵入すれば、すぐに屋敷中の警報が一斉に鳴り響くはずだ。

 しかし、まるでネズミ一匹入っていません、と言い通しているかのように警報が鳴る様子がない。

執事長「こんな時に故障なんてありえないッ!? 一体何が……ッ」

 慌てふためく執事長は、侵入者の確認を急ぐと同時にイリヤを安全な場所まで連れて行こうとする。

 しかし、既にその時には背後に気配が……。

ウリヤン「あ、それそれ。イリヤ、悪りぃけど返してくんない?」

執事長「ーーーッ!!!??」

 イリヤを庇ったまま振り返ると、そこには門前で撃ち殺したはずの男、ウリヤンが立っている。

執事長「ーーー貴様ッ」

イリヤ「ウリヤン!」

 握りしめていた財布を持ち直し、イリヤはウリヤンを見据える。

 死んだはずの男が生きて目の前に立っている現状と、先ほどの執事長の話が重なる。

 人と同等の意思を持った怪物と、異賊という賊軍の話を。

イリヤ「……この金は…、まさか…」

 何を換金したのかは分からないし、もう知る由もない。

 だがイリヤの目には、執事長を挟んで伺えるウリヤンの素性や正体に、すなわち、自分の知らない世界から着た侵入者への好奇心しか映っていなかった。

イリヤ「…ウリヤン……、お前は一体…、何なんだ……?」

 その質問にウリヤンは、やれやれ、と溜息を吐いて苦笑いした。



ウリヤン「……ホント…、何なんだろうな? 俺って奴は…」



  【第04話につづく……】
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