短編
□緩やかに朽ちる
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豪勢で色とりどりの料理、繊細な装飾が施されている純銀製の食器。
目を見張るほど大きいシャンデリアは、ゆらりと微かに揺れている。
この広間の全てのものにキャンドルの灯りが反射し、きらきらと輝く。
もう6年も見てきた馴染み深い光景だが、今日は心なしか寂しげに見えた。
最も私は、感傷に浸るタイプではないけれど―――
「ユウナ、
君と会えなくなるのは実に寂しいね」
彼は上品に眉を下げて見せるけど、私にはそれが本心でないことが手に取るようにわかった。
普通なら"最後の機会に"と媚を売ったりするのだろうが、あいにく、私はそれ程器用じゃない。
「お上手ですね、ルシウス先輩は。私のことなど、すぐお忘れになるでしょう」
愚かで、不毛で、無意味な皮肉交じりの言葉。
私はそれを何のために言ったのだろう。
彼を試すためであるのか、自分を保つためであるのか。
彼の美しく冷たい灰色が、薄汚く曇った私の本心を射抜くように貫いていく。
「ひどい言われようだ。私もシシーも君を気に入っているというのに」
やはり彼はわかっている。
私を知り尽くしている。
知っていて、柔らかく細い真綿で締め上げるように追い討ちをかけ、痛めつけるのだ。
私に咬みつき、死なない程度の微量な毒で少しずつ侵していく。
「光栄ですね。では私を、先輩の専属秘書にでもしてくださいますか」
毒はいつしか身体中にまわりって狂気を起こさせる。
精神を麻痺させ、肉体を弱らせ、いっそ殺してくれと懇願させる。
「勿論、そのつもりだよ・・・ユウナ
」
くつりと喉を鳴らして笑う彼を、微笑みながら見つめる私は、まだ正気だといえる状態だろうか。
私があの日犯した罪に気付くのは、きっと彼に飲み込まれたあと。
彼に殺されたあとだろう。