短編

□彼女の生まれた日に捧げる
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彼女はまだ寝ていた。




起きているときはあんなに勝ち気で強いのに、この寝顔の何とまあ儚く弱いものか。

白い喉を見ると緩やかに上下していて、私に一切の生命をさらけ出し、委ねているようで。
魔法界一恐れられている私に己の命を委ねるなど、唯一彼女くらいだ。



思えば彼女は学生時代からそうだった。



おおよそのものが感じるような恐怖や畏怖からではなく、愛情とかそんなもので私を慕い、についてきている愚かな彼女。

そんな馬鹿な女を愛おしいと思ってしまうようになったのは、いつごろだろうか。




愛なんて、情なんて。




一番あてにならないし、一番裏切るものなのに。






ゆらり、美しい睫毛を少し震わせてまぶたをゆっくりと持ち上げた彼女を見て、何故かほっとする。

そして、久しぶりに「おはよう」というと、





『トム、今日は会議ないのね。朝一番にトムと話せるなんていつぶり?…今日は幸せな日だわ』





そう言って嬉しそうに微笑むのだ。

その笑顔の美しさと言ったら…どんな言葉でも表すことができないような、いや。

どんな言葉にだって渡したくないような、そんな美しさ。




ああ、神なんて不安定で不確定ものなど信じていないけど。





「誕生日おめでとう、ユウナ。

これからも私のそばに、いろ」





この日ばかりはいるはずもない神とやらに、彼女をつくってくれたことを感謝せずにはいられないのだ。


生まれてきてくれてありがとう、





愛してる





(そんなことを思う私を)

(あの老いぼれはどうやって笑うだろうか)

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