短編
□知らないお前の
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あいつは変なやつだ。
ニホン?とか言う国からきた東洋人だが、とにかくかわってやがる。
ニホンの女と言えば、おしとやかで慎み深ぇヤマトナデシコ、ってのが有名だとどっかのじいさんが言ってたが…
あいつは慎みなんてねぇし、むしろところ構わず下ネタさらっと言いやがる。
見た目は手足が長くて華奢。
ぶつかったら折れちまいそうな感じだな。
肌は白くて雪みてぇに見える。
容姿だけなら、なんだ…こいつも結構び、美人なのかも…
『車掌さん』
うおお!びっくりしたじゃねえか!
急に話しかけんじゃねえよ馬鹿やろう!と怒鳴るとあいつはくすくす笑いながらすみません、と言った。
『車掌さんボーッとしてたでしょう?あまりにもかわ…格好良くて!』
そして極めつけはこれ!!!!
バカにしたように、俺を…その、く、口説いてきやがるんだよ!!!!
東洋人は恥ずかしがりやじゃねえのか?!
「あっあったりめぇだろ!」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向けばあいつはまたくすくす笑った。
こいつといると、どうも調子が狂う。
見た目とのギャップってやつか?
…いや、こいつがいつも意味不明なことばっかりすっからだな。
『ねぇ車掌さん』
あいつは、言いながら目をちっとだけ細めて口角をあげた。
その顔は何とも妖艶で、ああ、この感覚は、
『車掌さん今、私のこと考えてるでしょ』
ちげぇよ、と言う間もなく、見惚れちまった俺の敗北は決定していて、ああこれは後でからかわれんなぁ…。
そんなことをぼんやりと思い身構えていた。
『っ』
ちらりとあいつを見ると、いつもの雪のような肌は夕焼けのように赤く染まり、目を見開いていた。
そして機能しないんだろう舌を懸命に回して声を出す。
『しゃ、車掌さん、なにか言い返さないんですか』
何だよ、いつもとちげぇじゃねぇか、お前そんな顔できんのか、
お前、お前、お前、さ、ああ、お前、
「可愛いな」
なああああああああに言ってんだよ俺えええええええええええ!?!?!?!?
これじゃ口説いてるみてぇじゃねえかあああああああ!!!!
「いやっちげぇ、あの」
いや、落ち着け俺。
確かに容姿は……悪くねぇが、あいつだぞ、中身あんなだぞ、しっかりしろ俺!!!!
『あのっ…スタン、』
上目遣いでいつもよりおどおどと、俺の名前を呼ぶ。
いつもはふざけて車掌さんとか言うくせに、こんなときだけ、そんな顔で、名前で呼ぶなんて卑怯じゃねえか。
あああ初めて見たその余裕のない顔は、俺の脳裏に焼き付いて離れようとしない。
スタン、スタン、スタン、脳内で反響して、あいつの声が消えねえ。
『ごめんなさい、そのえっと…忘』
「俺ぁガサツな女は嫌ぇだ。
下ネタ言ってきたり、からかったりするやつなんてもっての他だ」
そういうと、あんなに赤かった顔がみるみる青くなっていき、目線もどんどん悲しげに下がっていく。
「だが、好きになったもんはどうしようもねえ。
いちる、お前が好きだ」
ああこいつにこんなこと言う日がくるとは思わなかった。
言い切ったあとに呆けていると、あいつはいきなり泣き出した。
『うっ、う、すた、んんんん…!
うそぉ、これ、現実なの』
泣き顔も初めて見た。
こんなに弱いのか、こいつ。
こんなにも、脆かったのか、こいつ。
現実以外のなにもんでもねえだろ、と抱き締める。
すると、また顔を真っ赤にしたいちるは俺の胸元をすんすんと嗅ぐと「ほんとだ、スタンのにおい」なんて言うもんだから急に恥ずかしくなる。
「もうはなせ」
『やだ』
「はあ!?」
『そこはもう離さない!って言うところでしょうがああああ!』
「あああ!わぁーったから泣くな!!!!」
『うえっ、うえっく』
「も、もうはなさねえ」
『車掌さんあああ、うえええええん』
「何でまた泣くんだよおおおおお!!!!」
おそくなってごめんよおおおおお!