短編

□馬鹿犬は馬鹿なりにプレゼントを考えた、
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最悪だ。何たって朝からこんなものを見てしまったんだろう。


今日は大事な日だっていうのに。



――「えっへへ、リーマス先輩だいすき!」
「はは、嬉しいなあ」
「ってことで、シリウスには秘密にしてね」
「もちろん。わかってるよ」――



あいつはにこにこと楽しそうに笑う。


やめてくれ。
あんな顔、俺の前では滅多にしないのに。


やめてくれ。
あんな顔、誰にも見せたくないのに。


やめろ。
あの笑顔は俺だけのものだったのに。
ああ。



捨てられた、か。



こういう経験は何度かしたことがある。

相手が俺に飽きて浮気されてふられる。

でもまさか親友が相手なんて、ショック過ぎる。


けど、確かにリーマスはいいやつだ。


物腰が柔らかくて優しくて賢くて、紳士的でひかえめなのに強い。

…口が悪くて意地っ張りで、プライドばっかり高い俺なんて、リーマスには到底及ばない。



よく考えりゃリーマスと付き合った方が良いじゃねえか。



俺はあいつが好きだ。あいつの幸せを願ってる。



だからこそ、俺は自分から言うべきなんだ。




「里桜菜、話してえことがあるから湖までこい!」




ぐ、と力を込めてあいつへ声をとばす。
…震えてなきゃいいけど。




『ん。わかった』




いつも通りの里桜菜はやっぱりいつも通り、目を合わせてくれなかった。



はあ、と溜息をつく。

1月のイギリスはとても寒く、息はもちろん心

まで凍えてしまいそうだ。




『話ってなあに?』




ああ可愛い。

最後だからか、いや、最後まで、可憐なこいつはやはり愛おしい。




「誕生日おめでとう。
形に残るプレゼントは後々困るからなあ…。
言葉だけにしとくな?」




こいつは少しだけ悲しそうにして、その後何やら気づいた様子で、きらきらと目を輝かせた。





「別れよう」





そして逃げるように背を向けた。

待って、とも言われないなんて、まったく。

最後だってのに寂しいったらねえな。
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