君と僕。
□たられば。
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その日、彼にしては珍しく、教室で寝ていた。
自席で腕を組み足を組み、目をつむっている。
斜め後ろに座っている塚原くんを見るためには後ろを向かないといけないんだけど、誰かを探しているふりをして視界に入れることに成功した。
う、かわいい…!!
真面目で勤勉な塚原くんが寝ているところなんて、レアすぎて滅多に見れない分、トキメキがはんぱない。
写真に、撮りたい…!!
なんて思ったとき、こそこそと誰かが塚原くんに近付いた。
「ゆっきー早く!」
「ちょっと待ってくださいよ…カメラモードカメラモード…」
金色の触角。
祐希くんと橘くんが、塚原くんの脇に回り込み携帯を構えているのが見えた。
羨ましい。
ふたりはにやにやと笑いを堪えながら塚原くんの寝顔を携帯画面に収めようと、シャッターを押した。
そして思ったより大きな音でかしゃっ、と鳴ってしまった。
塚原くんの肩がビクッと動く。
と、同時に目を開け、携帯を構えていた祐希くんと橘くんを視界にとらえた。
「……お前ら…」
こめかみに青筋がたってる。
キレイな顔なのに勿体ない。
「逃げろゆっきー!」
「待てチビザル!祐希!データ消しやがれ!!」
「やだなあ要、おれたちが撮ってたのは夏の空だよ」
「あの場所でどうやったら空が撮れんだ!!」
がた、どた、ばったん、色んな音と一緒に教室を駆け回る三人。
シャーペンを投げ出しながら、いいなあ男の子は、と思った。
私が男の子だったらもっと気軽に塚原くんと話せただろうし、仲良くもなれたと思う。
「またやってるの、あの三人」
かたん、と前の席に隣のクラスからやってきた悠太くんが座った。
手に辞書を持っているから、塚原くんに返しにきたのかもしれない。
頬杖をつきながら、私と同じように三人を目線で追う。
「……みんなが、羨ましい……」
「…みんなって、祐希と千鶴?」
「ううん、悠太くんも。クラスの、男の子も」
私が男の子だったら。
よーう塚原!なんて肩を叩いたりしちゃって。
悪ィ塚原ノート写さして!なんてお願いしちゃったり。
男の子だったら、なあ。
あの三人の追いかけっこの中にも入れただろうか。
「関係ないと思うよ」
「…え?」
三人を見ていた悠太くんの視線が動き、私をとらえた。
透き通った目をしてる。
「たぶん要は名無しさんさんが男の子でも女の子でも態度はかえないよ」
「……」
「あ、もちろん良い意味で、ね」
ごくり、と自分が生唾を飲む音が聞こえた。
黒板の前では塚原くんが祐希くんと橘くんを捕まえて、携帯を奪っているところだった。
「…だって、名無しさんさんは名無しさんさんだから」
「……」
もし私が男の子でも、男の子の塚原くんを好きになったと思う。
だとしたらきっと今とかわらず、見てるだけのままだ。
男の子でも女の子でも私は私。
結局は、妄想を語ってるだけじゃだめなんだ。
行動しないとなにもかわらない。
「あ、戻ってきた」
はあ、というため息と共に斜め後ろの席ががたん、と動いた。
私が男の子だったら。
よーう塚原!なんて肩を叩いたりしちゃって。
悪ィ塚原ノート写さして!なんてお願いしちゃったり。
違う、だろう。
「要、辞書ありがとう」
「ああ。くっそあいつら、人の寝顔勝手に撮りやがって…」
「撮りたくなるような寝顔だったんじゃない?いい夢でも見た?」
「み、見てねぇよ!」
ちらり、と塚原くんの視線がこちらへ向けられた気がした。
あくまで、気がしただけだけれど。
きっとそれは悠太くんが背中を押してくれたのだろう。
「つ、塚原くん!」
まるで私を縛っていた呪縛のような自席から離れ、悠太くんの隣に立った。
塚原くんは辞書を机の上に置き、机の中から次の授業の教科書を出す。
「どうした?」
あれ、初めて塚原くんと目が合ったかもしれない。
「あ、あの、ご、ごめんね、古文のノート、見せてもらってもいいかなっ」
手が震えた。
いや声も震えていたかもしれない。
身体も熱くて、思うように思考が動かない。
でも隣で悠太くんが守ってくれているように感じたから。
少しだけ、塚原くんが口角をあげた。