main

□007
1ページ/1ページ






ある日の放課後。

部活に遅刻しそうになり、急いで体育館に向かっているとき。

体育館手前の渡り廊下で盛大に転んでしまった。










■007 紫原くん










「い、たぁああ…」



見れば、膝が擦りむけて血が出ていた。しょうがなくタオルでそれを抑えていたときに、彼が来た。




「あれー。マネージャーなにやってんの」

「…え?あ、うお!」




上から声が聞こえて見上げてみたら、同じクラスでバスケ部の背の高い男子がいた。



(確か紫原くんだよね)



一年生でこの身長だから、ちょっと有名だ。座り込んでる態勢から見たら、まさに圧巻。




「いや〜盛大に転んでしまいましてね、あはは」

「んー、あ、本当だ、痛そうだね」




そう言うと、彼は自分の鞄をガサガサと探り始めた。


絆創膏でもくれるのかなって思っていると、「はい」と差し出されたのは…まいう棒。




「これで元気出して」

「え」

「あれ?いらない?」




そう言って、袋を開けてボリボリとそれを食べ始める。

クラスでも赤司くんと仲がよさそうだからどんな人かと思っていたけど、どうやら不思議ちゃんなようだ。




「絆創膏とか、持ってたりする?」

「ん、あるよ」

「ほんと?一枚貰ってもいい?」

「うん。あ、でも今はないや」


「え?」



「保健室に、あるから」




保健室かよ。

これはもうしょうがない。体育館に行って桃井ちゃんに手当てしてもらおう。

そう思い、痛む膝を抑えて立ち上がると、それを見た紫原くんが「ちょっと待って」と言って、私を---。





持ち上げた。

否、肩に担がれた。




「わっ、どうしたの!?」

「保健室に連れて行ってあげる」

「い、や!こっ、怖い!おろしてー!」

「え?おろす?」

「ぎゃー!!突然離さないでー!」

「?じゃ、保健室行くよ」




(こ、怖い!怖過ぎる!!)



勘違いして落とされる危険があるため迂闊な発言も出来ない。




「て、てててゆーか!す、スカート!ぱ、パンツ見える!」

「んー?」




んー、じゃないよぉおお!!!




「す、スカート!おさ!おさえっ」

「スカート?抑えればいいの?」




そう言うと、紫原くんは私のスカートを抑えて、歩き始める。




「っ〜〜!!(お、お尻に手が当たってる!)」




恥ずかしすぎる。今なら公然わいせつ罪で訴えれる気がする。





しばらくの辱め(はずかしめ)に耐えた後、無事に保健室に着いた。

紫原くんが近くにあったベッドの上に下ろしてくれる。




「あ、あり、ありがとう、紫原くん…(よかった、落とされなかった)」

「あれ?俺の名前知ってるんだね」

「う、うん。これでもマネージャーだし。それより、保健室の先生いないね」

「んー、どこかに行っちゃったのかな」




自分で処置しようかな、と考えてるとき。紫原くんが私の隣に座ってきた。

疲れたのかな。




「何だかごめんね、ここまで運んでもらって。重かったでしょ?」

「全然平気だよ。それより、」




ギシッと、紫原くんが私との距離をつめてくる。

一体どうしたのか。私は驚いて距離をあけようとするが、今度は覆いかぶさるように私を押し倒してきた。




「な、なななななっ!?」

「何か、甘いにおいがする」

「え!?」




私の首もとに顔を近づけ、くんっと、においをかぐ。息がかかって、くすぐったい。



(こ、こんな所誰かに見られたら勘違いされる!)





そう思った瞬間。保健室のドアが開いた。

驚いてそちらを見ると、




「…お前ら、何してるんだ」




赤司くんが立っていた。

紫原くんはそれを見るとヒョイっと私の体の上から退く。




「赤ちーん、なんかマネージャーからお菓子のにおいがするー」

「は…?」

「お菓子?あっ、ポケットにチョコ入れてたの忘れてた〜!」




私がそれを取り出すと、紫原くんが欲しそうにしていたから、お礼にそれを渡す。




「てか、赤司くんはどうしたの?」

「…記録表見てたら指先切った。あっちに絆創膏なかったから、取りにきたんだよ」

「赤ちんがー?珍しいねー」

「…お前は早く体育館に戻った方がいい。遅刻してる。部長に怒られるぞ」

「んー、あ、本当だ。じゃ、戻るー。マネージャーお大事に」

「うん、頑張ってね」




そう言って紫原くんが保健室を後にした。取り残された私は自分の傷の処置を始める。




「あ!赤司くん。はい、絆創膏」




だけど、赤司くんはそれを受け取らずに、絆創膏を渡す私の腕を掴んだ。




「?」

「お前、俺が来なかったらどうしてたんだよ」

「え、何が?」

「とぼけるな。さっきまで押し倒されていただろ」




なんだか、機嫌悪い…。

しかも、押し倒されたっていうか、あれは多分お菓子が欲しかっただけだよね。




「なんて言うか、紫原くんって凄くお菓子が好きなんだね」

「お前、本気で何も思わなかったのかよ」

「何を?」




それを聞いた赤司くんが、ため息をはいて、掴んでいた手を離す。

訳がわからずぼんやりと見ていたら、救急箱から大きめの絆創膏を取り出してそれを力强く私の膝に貼り付けた。




「い、いったあああ!!」

「もういい。お前も早く体育館に行け。遅刻だ」

「?…は、はい」




赤司くんの顔はまだむすっとしていて、本当によく分からない。







fin…

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ