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□021
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■021 授業中2





忘れ物をしてしまいました。

当然持ってきたと思っていたものだから、それに気付いたのはちょうど授業が始まる瞬間だった。

恐る恐る隣の席の赤司くんを見る。




「あ、赤司くん、数学の教科書見せていただけないでしょうか」

「忘れたの?馬鹿だね」

「…ごめん」

「別にいいよ」




どうやら見せてくれるようだ。

私はホッとしながら赤司くんに席を近付ける。

授業が始まり、教師が話し出した。

赤司くんは頬杖をつきながら黒板を眺める。

チラッと、彼のノートを見ると、訂正の赤文字がほとんどなく、赤いペンでひたすら丸がつけられていた。

優等生のノートだった。




「なに?」

「!…いや、何でも」




見てるのがばれてしまった。

あのノートと比べて私のノートはと言えば…訂正の赤文字でびっしり。

切ない。




「ここ間違えてる」

「え?あ、」




間違いに気付いたのか、赤司くんが私のノートに赤ペンで訂正を加える。

教師がまだ説明していない所だが、すでに答えは分かっているらしい。

しばらくして教師がその問題の答えを述べると赤司くんの言うとおりであった。




「ここも違う」




そう言ってまた赤司くんは途中式に訂正を加える。

自分が馬鹿だと言うことは分かっていたが、赤司くんってここまで賢かったのか。




「お前これ寝ながら解いたのか」

「多分起きてました」

「完全に馬鹿のノートだな」

「す、すみませ」

「あ、ここも違う」

「え、」

「ここも」

「…」




も、もうやめてえええ!



しばらくして赤司くんは赤ペンを動かす手を止めた。おそらく訂正するのを諦めたのだろう。

何だろう、この惨めな気分。

次の問題を解き始めると、何故だか視線を感じて横を見ると赤司くんが私の顔を凝視していた。




「な!なに?」

「いや、お前が一体どこを見て問題を解いているのか不思議になって」

「私ちゃんと問題見てるよ!?」

「さっそくここ間違えてるし」

「もういいよー!!」






「おーい、後ろうるさいぞー」

「!?す、すみません、先生!」

「よし、苗字、お前次の問題前に出て解いてみろー」

「えっ、」




えええええ!

先生、そこは隣の優等生くんを当てなよ!?

どうしよう、全くわからないよ!




「ほら、名前」

「!あ、赤司く、」




声をかけられ、振り向けば、無言でノートが差し出された。

まさか、見せてくれるの!?




「さ、さすがだよ、赤司くん!伊達に私の幼馴染じゃないね!完璧!最高!」




さっそく受け取ろうとすると、にっこり笑いながら警告される。




「代わりに昼休み、パン、買ってこいよ」

「…は、」

「ちなみに限定20食のレアなやつな」

「…」

「お前、のこのこクリームパンでも買ってこいよ」

「…」

「どうなるか分かっているよな?」

「…」

「…返事が聞こえないよ、名前」

「は、はいいい!必ずやゲットしてまいりますううう!!」

「よし」




もう鬼畜だよこの人おおお!!



私は震える手で赤司くんからノートを受け取る。

前に出て黒板に問題を書き終えたとき、後ろの席で赤司くんがにっこりと笑っていた。

こ、これは本気でゲットしなきゃやばい笑顔だ!








昼休み。

私の気合いとは裏腹に。




「ご、ごめ、無理だった」

「…」




限定20食は手に入らなかった。

しかもクリームパンですら無理だった。

もはや何もゲット出来なかった。

教室で待っていた赤司くんの顔が直視出来ない。

無言なのが余計怖い。

他の皆はすでに学食に行ってしまったようだ。




「名前、俺は言うことを聞かない犬が1番嫌いなんだ」

「…」




ど、どうしよう。完全にきれてるよ!?

…そうだ。




「あ、明日代わりに、べ、弁当作ってあげるよ!」

「…弁当?」

「そうそう!あ、愛妻弁当!とか、あ、はは」

「愛妻弁当?」




その言葉にピクッと反応する。




「ご飯に、"好き"とか、書いてみたり、…ははは」




当然冗談で言ったつもりだった。


が、




「いいよ、その馬鹿っぽい弁当作ってこい」

「え」

「ウインナーはタコがいい」

「たこ…」

「あと焦げた卵焼きは食わないから」

「りょ、了解です!」




元気良く返事すると、赤司くんは立ち上がった。




「じゃ、食堂行くぞ」

「う、うん」




き、機嫌直ってよかったあああ!!







fin…

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