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□022
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赤司くんが風邪をひいたらしい。

直接聞いたわけではなく、お母さんが赤司母から電話で聞いたのだ。

あんな奴でも風邪をひくのか関心していると、お母さんからお見舞いに行くように言われた。

断固拒否したが、強引に家から追い出される。

赤司くんの家まで徒歩10分程度。


…仕方ない、行ってやるか。


私だけが行くのも癪に障るので、緑間くんにも一応連絡を入れた。










■022 風邪










赤司くんの家につくと、ドアが空いていた。予め聞いていた赤司母が鍵をかけないでいてくれたらしい。




「お、おじゃましまーす」




シーン。



返事はない。

とりあえず、上に行こう。

小さいときから何度か遊びにきているから赤司くんの部屋がどこかは分かっている。




「失礼しまーす…」




ドアをノックし、開ける。

赤司くんが寝息をたてて眠っていた。

とりあえず、ベッドの横に正座で座ってみるが。




「もしもーし…」

「…」

「赤司くーん…」

「…」




おお!起きない。

人の気配感じただけで起きそうな人間なのに。

それだけ弱ってるってことかな。

よく見たら熱で辛いのか額にうっすら汗が滲んでいる。息も、若干荒い。

ど、どうしよう。

看護しろって言っても私にできることなんて。




「あ!そうだ!冷えピタ!!」




ガサガサとお母さんが持たせてきた袋の中からシートを取り出す。

よし、これを貼ろう!

貼るからには完璧を目指したい、が。

中々難しい。

くそう。

ああ!そうか!こうすればいいのか!

私はベッドの上に乗り上がると赤司くんに覆いかぶさった。




「よし!冷えピタ完了!」




完璧!
一仕事終えた気分だ。

ふう、と言いながら、私は赤司くんの上に腰をおろす。

おそらく、はたからみれば私が赤司くんを襲っているように見えるのかもしれない。

当の本人は冷えピタを貼ったはずなのに何故かうなされてる。



……重いのか?

重いのか!?私が!




「…おりよう」




そう言ってベッドからおりようとしたとき、たまたま枕の横に置いてあった物に目がいった。




「え、」




真っ赤な、ハサミだった。





ええええ!この人枕の横に何置いてんの!?

こえええ!!




「てゆーか、このハサミ、いつの日か私の首を切り裂いたやつでは…」




ゾッとしながら小学生の頃を思い出す。

嫌なトラウマだ。

ハサミを持ってみると、意外と大きい。

手入れをしているのか数年経った今でも変わらず切れ味はよさそうだった。

怖い。怖すぎるよ、赤司くん。

でもちょっと使ってみたいとも思っていたり。




「…うっ、」

「あ!」

「…名前?お前、なんで…」




起きちゃった。

ハサミを構える私を見て赤司くんの目が細くなる。




「お前、それ、」

「あー…」




言い訳を。そう、言い訳をしなければ。

でもよく考えればこんな絶好の機会は二度とこないかもしれない。

そう、これは赤司くんを脅すチャンス!

私は赤司くんの上におおいかぶさったまま、




「動かないで」




それを赤司くんの首に押し当て、もう片方の手で赤司くんの首を掴んだ。

赤司くんがすぐさま私の腕を掴んで止めようとするが、風邪のせいか腕をつかむその手が弱弱しい。

優位になった気分。




「突然、なに」

「…赤司くんを脅そうと思いまして」

「そうか、お返しは3倍返しだよ」

「少しは怖がってよ!刺されるかもなのに!」

「お前にそんな度胸ないだろ」




こんな状況でも赤司くんは普段と変わらず落ち着いていた。

私の場合は混乱して涙まででそうだったのに。なんか気に入らない。


いっそのこと本当にやってしまおうか。


ハサミを持つ手に力を入れたとき-----

ドアが開いて、





「すまん、誰も出なかったから勝手に入っ…」





緑間くんが立っていた。


私と赤司くんを見て、ドサッと荷物が落ちる。

…まずい。




「お、おおおお前、何をやっているのだよ!?」

「み、みみ緑間くん!!」

「ち、近付くな!ハサミをおろせ!」

「違う!違うから!!赤司くんも何か言ってよ!」

「緑間、こいつを捕まえろ」

「赤司くん!!」










数十分後。

私は赤司くんのベッドの横で正座をしていた。




「す、すみませんでした」

「お前おれを襲いに来たのか」

「い、いえ、お見舞いでごさいます…」

「で、緑間は?」

「俺はこいつに呼ばれたのだよ。本当は来たくはなかったのだよ。もう帰っていいか?」

「馬鹿のせいで小腹が空いた。緑間、何か作って来い」

「話を聞いていたか!?」

「部長命令だ。まずいもの作ったら明日から3軍。」

「あ、赤司っ!!」




しかし緑間くんはあからさまに嫌な顔をしながらも諦めたのか、渋々1階に降りて行った。

これでは二人きりになってしまう。




「わ、私も緑間くんの手伝いに…」

「お前には別の仕事がある」

「え」




そう言って、顔面にタオルが投げつけられた。

何これ痛いんだけど。

一体どうしたのかと思っていたら赤司くんが上に着ていたものを脱ぎ始める。




「な、何やって…まさか着替えを手伝え、とか…」

「ああ。汗を拭いてくれないか」

「はあ!?」




そう言って、フッと、いたずらっぽく笑う。

絶対確信犯だ。




「そ、そんなの緑間くんに頼んでよ!普通逆だよ!」

「うるさい。早くやれ」




仕方なく私はタオルを握り締めると、出来るだけ目を背けながら背中を拭く。

…な、何でこんなこと。そ、そうだ、これは石、これは石!別に気にする必要ない!

てゆーか、赤司くんニヤニヤし過ぎだよ!




「名前、次は下」

「じ、自分でやれっ馬鹿あああ!!」




そう言ってタオルを投げつけようとしたら、パシッと腕を掴まれる。




「病人には優しくしろ」

「病人!?こんな元気な病人初めて見たよ!」

「今日は夜まで看護してくれるんだろ?」




挑戦的な目で、含みのある笑みを浮かべる。

背筋が凍る。何をさせるのか分かったものじゃない。

私は赤司くんに腕を掴まれたまま、階段に向かって声を張り上げる。




「み、みみ緑間くん!!たす、助けてえええ!!」

「うるさい。静かにしろ。あんなのすぐ帰らせるから」

「だ、だだ駄目だよ!ほ、ほら、部長と副部長で仲良くしなくちゃ!ね!?」

「ああ、そうだな。その前にお前と仲を深めることにするよ」

「み、みみ緑間くん!!!はや、早く来てえええ!!」




もう帰りたいよおおお!!







fin…

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