桜蘭

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芥梨が桜蘭高校に編入してから一年と少しのある日の放課後
南校舎ではとある一人の生徒に、とてつもない悲劇が訪れていたのでした



日常から



ある一人の生徒が悲劇の一日を過ごして数日後



「そう言えばさ、ホスト部に新入りが入ったんだってよ」

『へぇー…だから最近変に静かだったんだ……、ん。ありがとう』



もう親友と言っていいほど仲のよくなった祐馬が、芥梨の弁当に入っていた唐揚げを取りながら言う。
祐馬の弁当の中身を見ながら返事すると、卵が口に放り込まれる

ん、しょっぱい。塩味だ。



「ははっ、それだけか」

『んー、だって、それほどの事だし。ウィンナーちょうだい』

「はい、どうぞ。なんかその新入りさんね、いじめられてるみたいなんだよねー。可哀そうに」

『イジメ、ね―』



ちっとも可哀そうだなんて思っていない顔をする祐馬に、少し苦い顔をする

いじめなんて、女生徒の醜い嫉妬なんだろうな。多分だけど、環のファン。
環がその新入りちゃんに絡んで絡んで嫉妬しちゃったっていうパターン
よくあるパターン。
否、玄武では少しでも絡んだら嫉妬しちゃう子もいっぱいいたけどね



『どうせさ、カミソリレベルだろ?』

「カミソリレベルって。まぁ、そうなんじゃないかな―?」

『げた箱と机の中に生ごみ&カミソリレターなんて甘っちょろい』

「…いや、それ、カミソリレベル?」




________





放課後、いつものように中庭のとあるお気に入りの場所に向かおうとしていると、見慣れた風景に見慣れない人物がいた

ズボンとシャツの裾をたくしあげ、池に落ちているカバンの中身を拾っている男子生徒


落としたのか…いや、落とした落ちたのなら異様に物と物の範囲が広いから、これは






『投げられた、のかな?』




「ぇ?」




驚いたように後ろを向く彼に、思わず笑ってしまう。
後ろ姿しか見て無かったから分からなかったけど、ずいぶんと可愛い容姿をしている。




『手伝いますよ』
「え?あ、いやいや!大丈夫ですよ!」



慌てる生徒をよそに、靴を脱いで裾をたくしあげて池の中に入る
うん、けっこう冷たい



『二人で拾った方が早いですよ?』

「…ありがとうございます」

『それを言うのは全部拾ってからに、しましょうか』




そう微笑むと、彼も一瞬はにかんで、池の中に手を突っ込んだ



池の中に入って数分。話しながら探していたが、一番大切な財布が見つかって無かった。
ちなみに生徒の名前は藤岡ハルヒで噂のホスト部新入り君だった。
可哀そうに



「んー…ないなぁ…」

『あと一つ、なんですよね?』

「はい…理由はともかく、財布を探さないと…今週の食費が」

「こら、庶民ッ!部活をサボるとはいい度胸だな…」



急に現れた環に少し驚き、勘違いをするので溜息が出た。
やっぱ馬鹿だな



『足元を、よく見たらどうですか?』

「あれ?芥梨?って、なんだカバン濡らして」

「ちょっと、落としちゃって…今週の食費がみつからないんです」



そう言いながらも水に手を突っ込み財布を探すハルヒに、少し唖然とする
ふと、環の方を見ると、靴を脱いで制服の裾をたくしあげて池に足をつけていた



「あ、良いですよ。濡れちゃうし」

「濡れるぐらい良いじゃないか。水も滴る良い男って言うじゃないか」
「……、」

『(おー。さすがホスト部)…』



環の発言に少しばかり感心して探す作業に入ると、少しして環がすぐに財布を見つけた。
なんかムカつく。
何処かぼーっとしているハルヒと絡んでいる環をよそに、自分は足を乾かす作業に入る

靴が履けない




「紫桜先輩、ありがとうございました」


『どういたしまして。じゃ、帰りますね』




「あ、芥梨、実は鏡夜に言われてお前も呼んでくるように頼まれてたんだ。それにしても、いい加減ホスト部に入らないか?」



乾いた足で靴を履いて踵を返して帰ろうとしたときに環に呼び止められ、その発言に思わず顔をしかめてしまう。

嫌な予感しかしない



『入る気はちっともありませんよ。ちなみに、音楽室に行くのを断ることは?』

「断れるのか?」



環の純粋な問いに、首を振ることしかできなかった
鏡夜は私の苦手な人と同じ感じがするから、苦手だ





所変わって音楽室
連れてこられたのは良いけど、さっきから放置されてるんだけど…


連れてきた環は接客
連れてくるように言った鏡夜も接客
そのほかの部員も接客



そして私は順番待ちのお客さんとほんわかとお話





え?これ、可笑しくない?






「芥梨君は、どうしてここに?」

「そう言えば、普通に話していたけれど、芥梨君ってホスト部では無いですわよね?」

『それが、鏡夜さんにここに来るように言われたんですけど…この様に放置されてしまいまして』

「あら、それは可哀そうに」

「でも鏡夜様はどうして呼んだのかしら」

『環さんからの言伝でしたので、詳しい事が分かっていないんですよ』




苦笑いを浮かべ、カップに口をつけた。
うん、美味しい。
理事長の秘書さんに教わった淹れ方で紅茶を淹れたので、以前よりずいぶんと美味しくなった

秘書さんの事を思い出していたので、思わず浮かべた頬笑みに、話しをしていた女生徒が顔を赤らめていたなんて気付きもしなかった


それからまだまだ放置を食らっていたら、急に何処かから叫び声が聞こえた



「っ!」

『おっと、大丈夫ですか?』



さっきの叫び声に驚いて、隣に座っていた女生徒が腕を掴んできたので、思わず反対の手で頭をなでてしまう。
女の子は愛でるものだと教わっていました。可愛い。




「あ、芥梨くん。ごめんね」

『いえ。さっきの叫び声に吃驚したんでしょう?怪我はないですか?』

「大丈夫ですわ」

『そうですか。良かった。私は少し様子を見てきますね』



まだ少し驚いたせいで強張っているお客さんをなだめ、騒ぎの中心へと足を進める。
一体、この騒ぎは何なのか



「ハルヒはそんな男じゃない」

「た、環さまのばかぁっ!!!!」



泣き叫び、音楽室から出て行く女生徒に、多少驚く
なんか、事の事情を把握するより先に事が終
わってしまった
何も知らずに元の席に帰るのもアレなので、いつもの黒い帳面を持った鏡夜にでも事情を聞いてみようかな
ま、大方の想像はできてるけど



『鏡夜さん、この騒ぎはどうしたんですか?』

「ん?あぁ、どうせ大方分かっているだろう?ハルヒに嫉妬した綾小路姫が癇癪を起しただけだ」

『…あぁ、彼女がいじめてたんですね。あ、そう言えば、なんで私がここに呼ばれたのかを聞きたいのですが…』



ついでとばかりに当初の目的を終わらせてしまおうと思ったら、鏡夜から素敵な笑顔で「後で」と言われて、思わず思考が固まる
後でって…さっきからずいぶんと待たされてたんだけどなぁ
少し、ほんの少し鏡夜に苛立ちを覚えながらも、こちらも素敵な笑顔で了解した私は偉いと思う




「呼びの制服はこれしかない。濡れたままよりはマシだろ」

「はぁ、ありがとうございます」

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