短編

□拝啓、初恋の君へ
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※モブ→中本です。
よろしければどうぞ!



私が貴方に恋をしたのは中1の春の時。
中等部の入学式の日、私は1人でぶらぶら歩いていた。
私は私立神無月学園の魔法科という学科へ入った。私は小さい頃から魔法というものに憧れていていつかそれを自由自在に扱えるすごい人になりたいと思っていて、そういった理由で神無月学園には初等部の頃から居た。その為基本的な魔法は使えるようになっていたのだ。
いつもなら魔物に十分警戒しながら行動していたけど、その日は中学生になったという事で気分が浮かれていた。
だから気付かなかった。
後ろから魔物が来ている事なんて。
私がその事に気付いたのは後ろからカサ、と足音がした時だった。
その音に反応して後ろ振り向くといつの間にか魔物が居たからビックリした。
しかも10mぐらいしか距離がなかったら余計に驚いた。
いつもならここで魔法使えば倒せるんだけど、その時は動揺のしすぎでただ立ちつくだけだった。
「ああどうしよう」って思ってたら、突然魔物が炎に包まれた。
一目見てそれは魔法だと思った。
だけどそれは私の仕業ではない。
だが確かに目の前で魔法が発動して魔物は炎に焼かれて消えた。
一体誰がしたのだろうと動揺している時だった。

「大丈夫だった?」

近くから声が聞こえた。
その声を聞く限りあまり低くなく声は低くない男の声だと判断した。
私は我に帰りぱっと振り返るとそこに1人の男子が居た。
神無月学園の男子用の制服を身に纏った男子生徒。
制服の胸には私達の学年の証である緑色のバッチが付けられていた。

「危機一髪だったな・・・」
「あ、はい。ありがといございました・・・」

同学年だと言うのに私は緊張しているのか何故か敬語になった。
その男子生徒は私の姿を見て安心したのか安堵の笑みを浮かべた。

「怪我なさそうでよかったよ。じゃあな」

そう言って彼はその場から去ろうとした。

「ちょ、待って!」

そこで私は何でか知らないけど彼を引き止めていた。
男子生徒は不思議そうにこちらを振り返る。

「何だ?」
「あ、あの・・・名前、教えて!」

何を聞いているんだ私!と心の中で叫んだ。

「名前?」
「うん・・・」
「・・・中本シュン」

じゃあ俺行くね、と言うと彼ーー中本君はこの場を後にした。
中本君の姿は見えなくなっても私はずっと彼が行った方向を見ていた。

「中本シュン・・・」

何回も何回も私はその名を呟いた。
彼の姿を見たときから私はどうにかしていた。
胸がドキドキしぱなっしで落ち着かなくて・・・。
暫らくして冷静になった私は気付いた。

世間ではこれを「恋をした」というのだと。



翌日になった。
あれ以来、私は中本君の事しか考えられなくなってて一晩経っても頭は彼の事でいっぱいだった。
本当にもうドキドキし過ぎで落ち着かないし頭が爆発しそうな感じだった。

「あ、昨日の・・・」

そこで頭上から男子生徒の声が降りかかる。
その声は私が昨日聞いたばっかの声で、私の初恋の相手の声でもあった。
私は勢いよく顔をあげると中本君が私を見下ろしていた。

「な、ななななか・・・!」
「奇遇だな。魔法科だったんだ」
「う、ううううん!!」

まさか彼と同じクラスだとは思わず私は同様し始める。
ここの学校は少し特殊で3学年が1つのクラスにまとめられている(因みに初等部は学年ごとに分けられていた)。
それによって1クラスの人数が大変多く3日目で初めて顔を見た、というのもあるらしい。
だから私が彼と同じクラスだった事を知らなかったのは別に普通の事なのだ。

「しかも席も隣っぽいし」
「え、そうなの?」
「俺ここだから」

そう言って中本君は私の隣の席に座った。
これは何かの夢なのだろうか。
初恋の相手が同じ学科で、同じクラスで、そして席が隣だなんて。
まるで少女漫画にある王道の展開と一緒だ。

キーンコーンカーンコーン・・・

そこでHRの始まりを告げるチャイムが教室内に響き渡る。
先程まで雑談していた生徒達は一斉に動き出し自分の席へと着いた。



それからというもの。
席が近いのをいい事に私は授業中、彼の姿を横目で見ていた。
真面目に授業に取りかかる姿は本当にかっこよくてついつい見とれてしまう。
まあでもそのせいで授業の中身が全然入ってこないけれども・・・。
だけどそれでも私は幸せだった。
いつでも顔を見れるし、休み時間や昼食の時間など一緒に喋る機会も多い。
こんなに毎日が楽しいのは生まれてはじめてかもしれない。

「・・・え?」

私は母の言った事が信じられず思わず情けない声を漏らす。
だがそうなるのも当たり前だ。だって本当に突然の事だったから。
私がいつものように家に帰りリビングへ入るといつも仕事で帰りが遅い母が珍しくいた。
しかも何処か表情も暗い。
どうしたの、と気になった私が口を開く前に母が私の名を呼んだ。

「今から言う事は・・・全部本当だから」
「え、ちょっと・・・」
「本当に悪いって思ってる。けど・・・」

今から言う事は明らかに私が嫌な事だ。
それはすぐに分かった。
一体何を言われるのだろうか。
考えたくない。聞きたくない。

「実はーー・・・」

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて・・・!!!

「転校する事になったの」


母曰く他県に住む母の父が急遽亡くなってしまったらしい。
そこの家にはその祖父と私の祖母、そして両親を亡くした小さい孫の3人で住んでいた。
だが祖母の体調はあまりよくないらしく病院に入院していた。そのため家には祖父と孫で住んでいたのだがその祖父もいなくなってしまい孫は1人だけとなった。
そこで私達一家は子供の世話をする為にここを離れる事になったという。
その孫の子とは家に行く度一緒に遊んでいるから仲がいいし別に引っ越しはしてもよかった。
だが、心残りはある。
ここを離れるのはあの学校を離れるという事。
つまり、私はもう中本君には会えないのだ。
せっかく出会ったのに。
せっかく同じクラスになったのに。
せっかく隣の席になったのに。
せっかく仲良くなれたのに。
せっかく好きになれたのに。
私達は明後日の土曜日に準備をしてそして日曜日に家を出るらしい。
だから私が学校に通えるのは明日だけ。
明日が終わったら・・・もう・・・。



金曜日はあっという間に過ぎてしまった。
今日転校を知った友達は「何も準備してなくてゴメン」と泣きじゃくっていた。
一方で中本君は休み時間の度に教室に出ていった。
追いかけようとしても勇気がなくて出来なかった。
そしてあっという間に放課後の時間が来てしまった。

「あぁー・・・」

私は溜め息を盛大に吐いた。
結局、放課後の時間まで中本君と1回もまともに喋ってない。
今教室には私以外に誰も居ない。
私はもう中本君の姿を見る事はないのか。
そう思うと泣きたくなる・・・。
もしかしたら中本君が来てくれる。そう思ってずっとここに居るけど・・・一向に来る気配はない。
私は夢を見すぎなのだ。そんな都合のいい事があるわけない。
そう分かっていたのに・・・。

「帰ろう・・・」

机にかけていたカバンを持ち私が立ち上がった時だった。

バンッ

教室のドアが勢いよく放たれた。
その大きな音に私は思わず肩を震わせる。
そしてドアの方へ視線を向けた時、

「えー・・・」

私はこれは何かの見間違いなんじゃないかと思った。


だって、そこに中本君が立っていたのだから。

「な、中本君!?ど、どどどうしたの・・・」

彼はズカズカと私の席まで歩いてきた。
中本君が私の前までに来ると彼は1つの小さな袋を差し出してきた。

「何これ・・・」
「開けてみて。見たら分かる」
「あ、うん・・・」

中本君に促されて私は袋を中からある物を取り出す。

「わぁ・・・」

袋の中に小さなうさぎの人形が入っていたのだ。
見る限りだと市販のものというより手作りっぽい。

「可愛い・・・」
「それ俺が作ったんだ」
「え!?」

私は思わず大きな声を出した。
だってまさかそうだとは思わなかったのだ。
中本君がまさかこういったものが得意なんてかなり意外だ。
中本君が言葉を繋げる。

「転校だって聞いたから休み時間に色々材料を集めてホールで頑張って作ってたんだ」
「だ、だからって1日で作れるの?」
「急いで作ったんだ。それで出来上がったから届けようとしたらちょうど居たから・・・」

その言葉を聞いて私は内心ほっとした。
彼が休み時間にいつも居なかったのは私が嫌で別の所で行ったと思ったのだ。
嫌われているわけじゃなかったんだ・・・。

「中本君」
「何?」
「私、君に出会えて嬉しかった。もう会えなくなるのは悲しいけど・・・。でも私中本君の事忘れないから。



ーー本当にありがとう・・・」




あれから1年後、入院していた祖母の体調も回復し家に戻ってきた。
今は5人で仲良く暮らしてる。
私はというと家から遠い魔法学校へ通っている。
最初は緊張していたけどクラスメイトとすぐに打ち解ける事が出来た。
今では沢山の友達に囲まれて楽しい日々を過ごしていた。
そんなある日、神無月学園に通っている友達から手紙が来た。
その手紙には学校の事や友達の事、そして中本君の事も書いてあった。
どうやら中本君は今ギルドに所属しているらしい。
そのギルドの名は「セレファイス」。
どんな小さな事でも真面目に取り組む通称「お人好しギルド」と呼ばれている有名なギルドらしい。
今中本君はそこで仲間と共に頑張っているらしい。
最近では人気ガールズバンドであるハピネスを不審者から守ったようだ。

「中本君・・・」

私は自室の机の上に置いてある小さな人形を見た。
神無月学園に居る日の最後、彼から貰った物だ。
それは今でも私の宝物には変わっていない。



拝啓、初恋の君へ


私は今も貴方の事がー・・・。







おわり。





あとがき。
べっこう飴さんリクエストで恋バナでした。
魔法科の生徒のモブ子が中本君に恋をするお話でしたが、いかがだったでしょうか。
喜んでいただけたら嬉しいです。
ここまで読んでいただきありがとうございました!

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