青春を謳歌せよ、少年少女たち

□第5話 「さよならアイカさん」
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朝。
種山アイカの元に1つのニュースが届く。

「・・・え?」

神無月学園の職員室に居る種山は思わず情けない声を出す。
目の前に居る女教師から言い渡された言葉に、口をぽかーんと開ける。

「すみません。もう1回言ってくれますか?」
「だから、この前の治癒魔法検定が合格だって。はい、賞状」

そう言って差し出されたのは一枚の紙。
それを見ると、そこにはちゃんとこう書かれた。

『検定1級合格 私立神無月学園魔法科A組 種山アイカ』

「・・・嘘、本当に・・・」
「おめでとう、種山さん」

種山は賞状を受け取るとそれをじっと見つめた。
そこに書かれている文字は決して嘘ではなく、夢でも見間違いでもない。
それは紛れも無く真実だ。

「あ・・・ありがとうございます!!」

種山は深々と頭を下げると急いで職員室を出た。
廊下に居る生徒の群れを避けながら種山は走った。
向かうは、4人の仲間の元。

「お。種山ちゃーん!」

廊下を走っていると、戸島ヒナが種山の存在に気付いたのか声をかける。
その場には戸島の他に野江、中本、仁野の3人も居た。

「何処行ってたの?」
「職員室。あー・・・疲れたー・・・」
「お疲れ種山ちゃん」
「・・・あれ。種山さん何持ってるんだ?」

種山の持っている賞状に初めに気付いたのは野江だった。
その言葉で思い出した。
自分が何を伝えるべきかを。

「ああ忘れてた。これよ」

種山はそう言うと賞状を皆に見せた。
4人がその賞状をじーっと見つめると、次第に喜びの表情になっていく。
中本が顔を上げて種山を見た。

「た、種山先輩・・・。これ・・・」
「私、治癒魔法検定の1級合格しちゃった」

簡潔にそう告げると、彼女はニコッと笑った。

「「「「お・・・、おめでとう(ございます)ーーーー!!!!」」」」

仲間達4人も種山の合格を心から喜んだ。


種山アイカが魔法科に入ったのは1つの理由があった。
それは、将来医療関係の仕事につきたいと思っているからである。
種山が何故将来そんな仕事につきたいかと言うと、それは数年前にさかのぼる。
幼い頃の種山は体が弱く、よく風邪をひいていた。その為風邪をひいては病院に行く事が多かった。
また風邪をひいてしまい母親に連れられて種山は病院に行った。受付を終えると、まだ診察には時間があった為種山は病院の中を適当に散歩していた。種山がいつも通う病院はそこそこ大きかった為、探検するには丁度よかった。種山がふらふら歩き回っていると、窓の向こうーーつまり外の方で、同じぐらいの歳した少年が座り込んで泣いていた。膝には赤い血が流れていた。どうやら、転んだらしい。
痛さのあまりに泣き喚く少年の元へ、病院の看護士が駆け付く。
看護士が少年の膝に手をかざす。すると、緑色の光が優しく膝を包み込んだ。
そして、みるみる怪我が治っていく。
それには種山は驚いた。
魔法の中で治癒魔法と呼ばれるもので人の怪我などを治せるのは知っていたが、その様子を見た事がなかったのだ。
まさか本当に治せるなんて、と種山は思った。
怪我が治った事により少年は泣くのを止めると、看護士に向かって

「ありがとう!」

そう言って笑顔を見せた。
2人のやり取りを見て種山は思った。
怪我を治した看護士がすごい。
自分もああいう風になりたい、と。
それがきっかけだった。
それから、医療関係の仕事に就く為に自分から治癒魔法について調べたりした。
そのおかげで初等部の時点で早くも基本の治癒魔法を使いこなす事が出来ていた(初等部では治癒魔法は習わない為、治癒魔法を使いこなすのはかなり凄い事なのだ)。
中等部に入ってからは昔のように風邪を頻繁にひく事も無くなり、更に今回は治癒魔法検定を合格。
種山は将来の夢へと、少しずつ近付いているのだ。


昼休み。
セレファイスの5人は依頼に赴いていた。
今回来た依頼は『最近森の方に出現する魔物の退治』というものだった。
依頼人の話によると、どうやら森を通りかかる人によく怪我を負わすらしい。
森に出てきた魔物は見た目から言うと虫を巨大化したようなものだった。
手こずったが何とか倒す事が出来た。
で、今はその戦闘で負傷した仁野の傷を治している所だ。

「あれってどう見てもバッタでしたよね」

種山に傷を治してもらいながら仁野が言った。
だが、その言葉に対し野江が否定する。

「いやいや、アレは絶対ハチだろ」
「何言ってるんですか。ハチは黄色ですよ?さっきのは緑だったじゃないんですか」
「もしかしたら緑色のハチだって居るかもしれないだろ?」
「あーーー!虫の話はもう止めて下さい!!」

野江の仁野の会話を断ち切るように大声で叫んだのは中本だった。
中本はその場にしゃがみ込んで両耳を塞いでいた。
いつもと様子が違う中本に野江が話しかけた。

「どうしたんだよ中本。お前らしくない」
「お願いなんで虫の話はしないで下さい本当にお願いします」
「・・・もしかして、君って虫苦手だったりするわけ?」

戸島が恐る恐る聞く。
だが彼女の言葉に対し中本は「うっ」と固まった。
・・・どうやら図星のようだ。

「何で分かったんですか戸島先輩」
「いやだってさ、その様子だったら絶対そうだなって。いやー、君にも可愛い所あるんだね」
「うっわー。中本ってば乙女ー」
「戸島先輩、野江先輩。俺今なら2人を自負獄へ案内出来ます。無料なんでせっかくだし行きませんか?」
「「いや、遠慮しとく」」

中本の誘いを2人揃って丁重にお断り。
中本は少し残念そうな顔をした。
そんな彼の表情を見て、

(誰だって地獄のツアーなんて行きたくないわよ・・・)

と心の中で呟いた。
もっとも、2人が余計な一言を言わなければいいだけの話なのだが。

「・・・はい仁野。治ったわよ」
「おっ。ありがとうございます!」

右腕の大きな傷は治癒魔法で完全に治った。
仁野はもう痛みの無い右腕をぶんぶんと大きく振った。
そこで、野江がゆっくりと立ち上がる。

「じゃ、治療も終わったし俺達は帰るか」

野江の意見に皆が頷き、その場を後にしようとすると、

「いや〜すごいねえ君達」

5人の背後から声が響いた。
5人が咄嗟に後ろを振り向くと、そこには1人の男性が立っていた。
その男性は見た目からすると40代前半ぐらいの中年おじさんで、体型は太っている。
高そうなスーツを身に付けていた。

「・・・誰ですか」

中本が警戒しながら尋ねる。
しかし中本の態度とは対照的に男性は明るく振舞った。

「そんなに警戒しなくてもいい。私は悪い者じゃないんだ」
「・・・余計怪しい」

ボソッと戸島が呟いた。
勿論男性には聞こえないように。
だがその声が少し大きかったのか、男性の耳にはちゃんと届いていた。

「はっはっは。怪しくなんかないよ。私はただの校長だよ」
「え。校長?」

男性の言葉に反応した仁野が聞き返す。
男性はごそごそと、懐から1枚の名刺を野江の前に差し出した。
野江はそれを受け取ると、大きく目を見開いた。
明らかに様子がおかしい野江に仁野が声を書ける。

「どうしたんですか先輩」
「この人・・・青城高校の校長の葉月セイジさんだ・・・」
「「青城高校!?」」

野江の言葉に反応したのは種山と戸島だった。
一方、中本と仁野は青城高校が何なのかは分からないみたいだ。
そこで恐る恐る中本が種山に尋ねた。

「あの・・・種山先輩、青城高校って何ですか?」
「青城高校ってのは、医療関係について学べる高校のことよ。医療関係の高校はこの県の中に他にもあるけど、そこは他の所とは比べ物にならないぐらい優秀な高校なの。もしかすると、日本で3本の指に入るぐらいのレベルかもしれない」
「「マジですか!!?」」
「しかも」

種山の次に説明し始めたのは野江だった。

「青城高校は入学するのは難しいと言われているんだ。青城高校の生徒は、全員そこの高校の教師からスカウトされて入学したんだ。だから、スカウトされないとそこには入れない」
「スカウトってどうやったらされるんですか」
「まず第一に治癒魔法が使える事」

中本の質問に答えたのは戸島だった。

「治癒魔法が使えないとまず駄目だね。次に、治癒魔法検定に合格する事。10級のように低いレベルのやつを合格しても、才能があるんだったら生徒はスカウトされる。検定には高校の先生も協力しててね。青城高校の先生方は合格者の中から才能があるやつを見つけ出すんだ。でもね、たとえ1級を合格しても才能がなければ捨てられる」
「才能があるかないかよね。だから毎年青城高校に入学する生徒は他の高校に比べて少ないの」
「「へぇ・・・」」

先輩方3人からの説明を聞いて2年の2人は感心した。
一方で葉月は説明を聞いて目を丸くしていた。

「これは驚いた・・。まさか、青城高校をそこまで知っているとは・・・」
「まあ俺等3年ですからね。一応高校については調べているんですよ」
「そうなのか・・・」

葉月はそう呟くと、種山の方に視線をやった。
視線に気付いた種山が少し不思議そうな表情をする。

「どうかしたんですか?」
「さっきの戦い見ていたけど、君はすごいな。種山アイカ」
「え・・」
「ど、どうして種山ちゃんの名前を知ってるんですか!?」

戸島が葉月に問う。
葉月は次に戸島の方へと目線をやった。

「勿論知っているさ。治癒魔法検定に受けていたからね。私達は受験者達の事は一通り調べているから。・・・話を戻すけど」

そしてまた種山の方に視線を戻す。

「治癒魔法はあまり授業では習わないのにあれだけサポート系の魔法が使えるとはすごいね」

サポート系の魔法とは、味方の攻撃力を上げたりシールドを張ったりする魔法とか、名前のように後ろの方で味方をサポートをする魔法の事だ。
医療関係の仕事に就く人はそういった魔法も使いこなしている人が多い。

「い、いえそんな。逆に、攻撃魔法はあまり使えないので・・・」
「だからといってもすごいよ。あそこまで使いこなす事が出来るとは。さすが、1級に合格しただけはある」
「あ、ありがとうございます・・・」

自身を褒められては顔を赤くして照れながらも、やっぱり表情は嬉しそうだった。
そりゃあそうだ。トップレベルと言われる学校の校長に自分を認めてくれたのだから。

「そこで、君にこれをあげようと思うんだ」

そう言うと、葉月は鞄の中から大きい封筒を差し出した。
封筒の右下には、『青城高校』と書かれてあった。

「あの、これは・・・」
「君を、青城高校へ招待するよ」

・・・・え?

葉月の言った言葉がひっかかる。

(今何て言ったのよ校長は?)

自分の耳がおかしくなければ、「青城高校に招待する」と聞こえた気がするのだが。

「あの、すいません・・・。もう1回お願いします」
「だから君を、青城高校に入学しないかって言っているんだよ」


「・・・え」


「「「「「ええええええええええええええええええ」」」」」
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