夢幻の姫〜彩雲国夢物語〜
□劉輝と黎深【上】
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黎深の性格だったら言う言葉がいつもと違うからである。
「そなたならつぶれていく者はそれだけの器量と斬って捨てそうなものだが」
劉輝がそう疑問そうに聞くと、
黎深は扇子を顎から放し、微かに口元だけを笑わせながら口を開く。
「もちろん斬って捨てますとも。
私は弱い者も甘ったれも馬鹿も大嫌いですから。
昔の――あなたも含めて」
その最後の棘のある言葉を聞き、劉輝は茫然とする。
黎深は笑うのを止めると、淡々と言葉を告げる。
「ただ今回の場合は条件が悪すぎます。
若芽をいきなり水中に投げ入れる様なものですから。
本人の努力とは関係なしに腐るだけです」
相変わらず厳しい…
そんな黎深に劉輝は目を伏せて、変な汗をわずかに流す。
「『膝下に句さする者いずれにあるや』だな」
黎深は体の向きを変え、劉輝に背中を向ける。そして横目で劉輝を微かに睨む。
「私とて膝を屈する相手はおりますよ。その人のために朝廷(ここ)にいるんです。
確かにあなたに忠誠は誓ってはいませんが、お気になさらず。
先王陛下に対しても同じ事でしたから」
冷淡な模様がいかにそうであったかが劉輝の頭に思い浮かぶ。
黎深が身内以外に厳しいのは先王陛下時代、黎深がまだ若い時でもたやすく想像できた。
黎深は目を閉じ、顔をしかめる。
「それに私にここまで言わせることや言われて、
怒りもしないところはある程度評価しています」
顔をしかめながらそんなこと言われても、嫌味にしか聞こえない劉輝である。
そして自分とまったく別の方を向く黎深の横顔を見ながら目を見開く。
…これであの邵可と血の繋がった兄弟とは…宮中七不思議だ
気分を切り替え、劉輝はまた話し始める。