鼓動(ロー)

□overcome!
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名無しさんは気づくと知らないベッドの上にいた。
なんか、揺れてる・・・そんな気がしていた。

キィ・・・
部屋の扉が開く。

「あ、目、覚めた?」

「ベポ。うん。」

「よかった。」

「ここは?」

「船。」

「船?」

「うん、俺たちの船だよ。」

「船かぁ・・・」

「うん」

「って・・・なんで私が!?」

「だって名無しさん、海に行きたいって言ったでしょ」

「うん、でも・・・」

「嫌だった?」

キィ・・・
またも扉が開く。ローが入ってきた。

「ま、、今更嫌って言っても離さねえけどな。」

「あ・・・」
顔が一瞬で赤くなる名無しさん。

「ま、もうすぐ夕食だし、みんなにもあいさつしに行こうよ。」

「うん。」

「俺は先に行ってる。ベポ、そいつを連れてこい。」

出ていこうとするローに名無しさんは勇気を振り絞って、声をかけた。

「ろ、ローさん!」

「ん?」

「あ。あの、連れてきてくれて・・アリガトウゴザイマシタ!」

また片言か、とローは少し微笑んだ。

前と違うのは、名無しさんが自らローの目を見ているところ。

「ふっ。ローさんはやめろ。」

「あ、そうですよね。すみません、キャプテン!」

「それも却下。」

「ぇ、、、えっと、船長さん。」
どんどん名無しさんの顔は赤くなっていく。

「それもダメだ。」

「と、トラファルガー船長・・?」

「ダメだ。」

「キャプテン!あんま、名無しさんいじめないでよ。」

「あぁ、悪かった。・・・ローでいい。」

「ぇ・・・・あ、はい。」

「それと、敬語もやめろ。」

「は、は・・・・じゃなくて・・・ぅ、うん。」

「早く来いよ、名無しさん」

「うん、ロー。」

こんなやり取りだけでも名無しさんは真っ赤になっている。


「名無しさん、立てる?」

「うん、ありがとう、ベポ。」

「ゆっくり行こう。」

「うん。」

そうして名無しさんはベポと一緒に食堂へ向かった。




「「おぉ、名無しさん!!!」」
シャチとペンギンが出迎える。

「あ、二人とも。」

「さ、こっち来い!」
シャチが手を差し伸べる。

この手を取ったほうがいいのは名無しさんには分かっていた。それでも、恥ずかしくて彼女にはそれができない。

「ぇ・・・・あ・・・」

「ん?」
無邪気に首をかしげるシャチ。

そんなシャチを悲しませたくなくて名無しさんは右手の人差し指を軽く、シャチの大きな手に乗せた。

シャチは、そんな名無しさんの指を優しく握り、席へと向かった。


名無しさんの席はベポの隣で、念のため、端っこにしてあった。

「お、新入りの子か!!」
「かわいいなぁ!!」
「よろしくな!!」
クルーたちが続々と声をかける。

「おい、名無しさん、お前、自己紹介くらいしろ。」
ローが少し不機嫌そうに言う。

「あ、はぃ・・・うん!私、名無しさんです。ぇーっと、ローの優しさのおかげで、船に乗せてもらえて・・・ぇっと、あ・・・私、なんにもできないかもだけど、できる限り、何でもします!そ、・・・それと・・・私、ちょっと人見知りだけど・・・みんなともっと、・・仲良くなりたい!」

そういった名無しさんの瞳はすでにうるんでいて、頬は赤く染まっていて、軽くうつむいていた。


「顔あげろ。」
ローが言う。

顔をあげたとき、クルーたちはドキッとしたに違いない。

皆が名無しさんを見つめる。
ローでさえ。

名無しさんは怖くなって、ベポの手を左手で握る。

「ん?」

「私、何かしたかな?」

「何もしてないよ。ね、シャチ!」

「あ、・・・・ああ!!さ、座ろう座ろう!!今夜は宴だーーー!!」


「おい、名無しさん」

「お前、シャチには触れんのか?」

「ぇ・・?」

名無しさんの指はまだシャチにしっかりと握られていて・・・

「あーーーすみません!キャプテン!!」

シャチはあわてて手を離す。

「あ・・・・これは、、えっと・・・指一本なら大丈夫みたい。」

「ふっ・・そうか」

「うん。」

「俺もか?」

「ぇ?」

「指出せ。」

「うん。」
名無しさんは恐る恐る指を出す。

ローはそれを大きな筋張った手で優しく握る。

名無しさんはそれが異様に恥ずかしくて・・・それでも必死に耐えていた。

ローはこんなに名無しさんに触ってられるのがうれしいようで、ギュッと握っていた。

クルーたちはそれをじっと見つめていた。


「ぁ・・・食事、冷めちゃうよ?」
そう名無しさんが言うと、
みんなが一斉に我に返り、食べだした。

「おい、お前ら!」
ローが全員を呼ぶ。

「こいつは、ちょっとの人見知りじゃねえ。かなりのシャイだ!おそらく異常な程な。だからうかつに触るんじゃねえ。」

「ぁ・・・ごめんなさい。」

「話くらいは大丈夫だよな?」

「はい!」

「くくっ。そしてこいつのシャイすぎるところは、俺がなおす。わかったか?」

「「「「おおーーー!!」」」
皆が一斉に返事をする。

「名無しさんも、覚悟しとけ!俺がなおす!」

「なおせるの・・・?」

「俺は医者だ。」

「でも、これって病気じゃ・・・」

「っるせーな。お前はなおしたくねぇのか?」

「なおしたい!」

「じゃぁ、俺がなおす。医者として、船長として・・・だ。」

「ありがとう!!」
そういった名無しさんの表情はいつもと違っていて、恥ずかしそうなところがなかった。心底うれしかったのかもしれない。

クルーたちにしてみれば、これは名無しさんにほかの男を寄せ付けない口実にも聞こえたような・・・

「あ、でも、私、・・・ゆ・・・指一本ならみんなに触れるからね。」
そういっておずおずとクルーたちを見上げる名無しさんは照れていたが、とてもうれしそうだった。
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