鼓動(ロー)

□違和感
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戦えない名無しさんはいろんなことを身に着けよう、みんなの役に立てるようになろうと日々頑張っている。

今日は、けがの手当てができるようになりたいと、ローのもとへ向かった。


コンコンッ



「私です。入っていい?」

「あぁ。」


ローに勧められてベッドに腰を掛ける名無しさん。

ローはそんな名無しさんを優しく見た。


「そ、そんな見られると・・・///」

「あぁ、悪い。」


かわいいな、こいつ、すぐ赤くなって、ローはまだ見ていたかったが、困らせるのがかわいそうで、目線をはずす。


「あのね、けがの手当ての仕方・・・包帯の巻き方とか・・いろいろ・・・・お、教えてくれない?」


名無しさんにはわかっていた。

この違和感。

もうみんなと話をするのは慣れた。

2人きりでも大丈夫。

だって、みんな私の気にかけてくれて・・

でも、ローとはダメかも・・・

そう、この違和感に気づいていた。




「そんなこと覚えてどうする?」

「私、戦えないから・・・せ、せめてそれくらいはッ・・・」

「そうか、わかった。」

ローは椅子から立ち上がり、棚にある救急箱をとった。


「じゃ、まずは薬の説明をする。」

「・・・・」

「どうした?」



「あ、え・・・ごめん!なんでもない。」


ドキドキしすぎてボーっとしてたなんて名無しさんは言えるわけなく。



「こっちは、殺菌効果が強いが結構しみるからな。」

「うん。」

「で、これが火傷用。」

「うん。」

「じゃ、次は包帯の巻き方だ。腕貸してみろ。」

「ぇ・・・・あ・・・」


名無しさんはゆっくりと右腕を差し出した。

腕はまだ・・・

なおさらローにだなんて・・・

でも、”やり遂げてえことがあるんなら耐えろ”・・・名無しさんはいつかローに言われたこの言葉を胸に、前より、我慢ができるようになっていた。


スルスルと手際よく包帯を巻くロー。

細くて長い指、骨ばった手・・・

そんなローの手を見ていたらもう終わっていた。


「おわったぞ。こんな感じだ。」

「ぅん・・・やってみる。」


自分の左腕に巻こうとする名無しさんにローは自分の腕を差し出した。

「俺の腕でやれ。そのほうが簡単だろ。」

「ありがと。」


ローのパーカーの袖口をもってまくり上げる。

ひじの少し下に包帯を当て、ゆっくりと巻きだす。


刺青だらけの腕に白い包帯、そのコントラストに見入りながら、名無しさんはゆっくりと、丁寧に巻いていく。



ドキドキドキ・・・・

ローと名無しさんの距離は近い。

ローはじーっと名無しさんを見つめている。


そんなローの視線に気づいて名無しさんはふと手を止めてしまう。


「あ・・・の・・やっぱ・・・下手?」

「いや、続けろ。」

「うん・・・」


そして何とか巻き終わる。



「えっと・・・どう?」

「うまいが、遅い。」

「そ、そうか・・・」

「丁寧さも大事だが、素早さも大事だ。」

「そうだよね。」

「あぁ。」



包帯を巻く、たかが数分のその時間が名無しさんにはとても長く感じられ、ローにはとてもみじかく感じられた。


包帯を巻き終えても近づいたままのロー。


「はぁはぁ・・・・・はぁ・・・」


ドキドキドキ・・・

我慢しなくちゃ、そう思っても名無しさんの心臓はドキドキをやめてくれない。



「どうしたッ!?苦しいのか?」

「ぇっと・・・あ、・・・近い。」

「近い?」

「ロー・・・近い・・・ょ・・」

「!?」


ローは少し驚いた。

普段、ほかのクルーといるときは何も言わないのにな・・・


「ごめんな。」


ローは少し寂しそうにつぶやき、距離を取った。


「ごめん・・・ね。」


「大丈夫なんじゃないのか?」

「ぅん・・・そのはずなんだけど・・・みんながいる時は・・・ほかの人なら・・・」

「俺が、ダメなのか?」

「わかんないけど・・・そう・・・かも。」

「・・・・・」

「ごめん!」



名無しさんは泣き出した。

ローのことはみんなと同じで大好きだ。

最近感じるこの違和感。

ローが近くだと、2人きりだと・・・触られると、声をきくと・・・

好きなのに、近づけない・・・



「好きなのに・・・ローも好きなのに・・・胸が苦しくて・・・・・みんなみたいにしてると、倒れそうになる・・・最近、変なんだ・・・グスッ・・・」



それは俺に特別な感情を抱いているからだ、ローはほぼ確信した。

それでも名無しさんが自分に対して苦手意識を持っているのかもしれないという不安もあった。



「苦しいのか?」

「・・・ぅん・・・心臓がバクバクして・・・・はぁ・・はぁ・・・苦しい。」

「そうか・・・俺もお前といると苦しい。」

「ぇ?」

「心臓がバクバクしてな。ま、俺の心臓はお前のほど弱くねえからな。」

「・・・?」


クエスチョンマークを浮かべる名無しさんの頭を優しく撫で、ローはゆっくりと立ち上がった。


「お前の俺と同じ気持ちなんだと思うが・・・・まぁ、いい。しばらく休め。」



ローはそのまま部屋を出た。








「はぁはぁ・・・」

ローも同じ・・・?ローの気持ちと同じ?

ローの気持ちって?


ローは私のせいで苦しいの?



見当違いな不安が事件を起こす予感。











ったく、あんな女に惚れるとはな。

そのシャイすぎるところも含めて好きなんだけどな。


自分の一言が事件を生むことなんて思いもしなかった。

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